悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

79.それは必要ない!

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 俺は、招かれるままに、ティウルの部屋に入った。

 相変わらず可愛らしい部屋だ……
 テーブルには花が飾られ、ぬいぐるみやハートの形のクッションがたくさんある。

 ティウルの部屋には、何度か招かれたことがある。ここにはいつも、たくさん魔法の本があって、俺も勉強させてもらった。
 棚には、不思議な形の瓶が並んでいて、その瓶を見ると、俺は少し怖いのだが……見えないことにしておけば、大丈夫だ。

 殿下とは、どこまで進んでいるんだろう……

 うまくバッドエンドは回避できているだろうか。

 聞いてみたいが、下手なことを言えば、王子殿下に手を出そうとしたと誤解されてしまうかもしれない。

 ティウルは、テーブルの椅子を引いて、俺に座るように促してくる。

「座ってー。フィーディ」
「あ、ああ……ありがとう……」
「フィーディが来てくれて、よかったよー。実は、フィーディに選んで欲しいものがあってさー」

 そう言いながらティウルは、テーブルの上に次々小さな瓶を並べていく。全部ひどく不気味な形をしていて、中には毒々しい色をした液体が入っている。

 早速部屋を出て行きたくなる俺だけど、ティウルはニコニコ笑いながら聞いてくる。

「ねー、どの薬を飲みたいと思う?」
「……どのって……なんのことだ?」

 俺は、できるだけその瓶を見ないふりをしてそう答えた。

 それなのに、彼はにこやかな笑顔で続ける。

「これはー………………惚れ薬!! 惚れ薬だよ! 当然だろ!?」
「当然!?? なにがだ!??」
「だって、僕が殿下を愛していることは知ってるだろ!? 僕は何が何でも王子殿下に愛していただかなきゃ困るんだから!!」
「…………」

 ゲームでは優しくて天真爛漫、無邪気な主人公であるはずのティウルだけど、俺の前に現れたティウルは、殿下を手に入れるためなら、手段を選ばない。大量の惚れ薬を作り出しては、キラフェール殿下に飲ませる機会をうかがっているらしい。

「………………それは必要ないと、いつも言っているではないか……」

 俺がそう言っても、ティウルは全く聞いていない。最近作ったばかりだという薬を次々テーブルに並べている。

「これからも新しく作る予定なんだ。惚れ薬さえあれば、殿下も僕を愛してくれる…………」
「……ティウル……待ってくれ……そんなものがなくても、殿下はティウルを愛してくれる……いつもそう言っているではないか……」
「何言ってるの!! 僕は、絶対に殿下をものにしなきゃダメなんだよ!? 僕を踏み躙ったクソ貴族どもを、惨たらしく処刑するためにも! フィーディにも協力してもらわなきゃ困るよ!!」
「…………」

 そんなことを言われても、俺に協力はできない。ティウルには、キラフェール殿下と幸せになってもらわなくては困る。
 キラフェール殿下だって、きっとティウルに好意を抱いていると思うのだが……ティウルには、いまいちそれが伝わっていないらしい。

「ティウル……本当に、大丈夫だ……これがなくても……」
「殿下はまだまだ甘いんだから。クソ貴族は、ちゃんと断罪してくれなきゃ困るのに!」
「ぐっ……」

 「断罪」の一言が、胸の奥まで深々と突き刺さる。

 断罪……

 ティウル……それは誰のことだ?

 お、俺じゃないよなっ……!?? 頼むから「断罪」って言うのはやめてくれ!! 自分のことのような気がしてくる……あ、頭の中で悪役令息フィーディがティウルと王子に断罪されるシーンが勝手に構築されていく!! 嫌だーーーーっっ!!

 ガタガタ震え出した俺の前で、ティウルはズラーーっと瓶を並べたテーブルにバンっと手をついて、それを乗り越えるように俺に顔を近づけてくる。

「ところで、フィーディ!!」
「ひっ…………な、なにっっ!?? だ、断罪だけはやめてくれっっ!!!!」
「なに? 断罪って。そんなことより!! フィーディは、どの瓶なら飲んでみたいと思う?」
「は!??」
「フィーディも貴族だろ? 貴族の意見を聞いてみたいと思って」
「……お、俺の意見は参考にならないと思うのだが……」

 俺の意見を参考に、殿下に飲ませる薬を決定する気か? そんな怖いもの、選べるわけがないではないか!

 すぐに首を横に振って拒否する俺だけど、ティウルはやっぱり俺の話をまるで聞いていない。

「どれだったら、貴族は何の疑いも持たずに飲んでくれるかな!??」
「し、知らないっ……お、俺の意見は参考にならないと思います…………」
「そんなことないよ!! 頼むよ! フィーディ!! 教えてよーー」

 ティウルは、逃げる俺のことを、小さな瓶を握って追いかけてきた。
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