悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
77 / 96
後日談

77.何かあったのか!?

しおりを挟む

 それから日が沈み、夜になって、俺は部屋で一人、ずっとオロオロしていた。

 ヴァグデッドが帰ってこない……

 夜には帰るって言ってたのに……

 あいつ、どうしたんだ!? なぜ帰ってこないんだ!?

 吸血を制限されているとはいえ、あいつは強い力を持った竜だ。そんなあいつが帰ってこないなんて……まさか、何かあったのか!??

 そもそも、ヴァグデッドはいつも俺のそばで飛んでいて、俺から離れることはほとんどない。それなのに……

 ますます不安になってきた。

 いや、落ち着け。

 ヴァグデッドが「魔物退治に行ってくるーー!」と言って、一晩帰らないことはよくある。最近は特に。
 王子殿下がこの城に来てからというもの、ルオンに、城周辺の魔物を減らしてほしいと言われているようだし、彼自身も、魔物退治に行きたいらしい。

 ……だったらそんなに心配することではないか……

 ……と思ってみても、どうしても心配になるのが俺! やっぱり心配だ!!

 夜には帰ると言ったのに!! なぜ帰らない!?

 確かにこんなことはよくあるが、だからといって、今回も何もなかったとは限らない。

 探しに行きたいところだが、彼が飛んで行ったのは、城をぐるっと取り囲む森の方。強力な魔物も多く、ほとんど魔法も使えない俺が一人でうろついたりしたら、ヴァグデッドを探すどころか魔物に追われて死ぬ。

 くそっ……ゲームの悪役令息はもっと魔法が使えたのにっ……! 魔物とも戦えていたのに!

 こういう時に相談に乗ってくれるのが、城主のルオンだが、生憎、今日は森の方に出かけていて、明日の朝まで戻らない。

 そうなると相談できそうなのは、ティウルくらいだ。

 ゲームの主人公のティウルは、攻略対象たちと仲を深め、いずれ俺を断罪し王国を救う、王国からしたらまさに勇者だが、俺にしてみれば、いずれ俺を殺す奴。
 ティウルの溢れんばかりの魔力に嫉妬したフィーディは、ティウルに色々嫌がらせをするのだが、もちろん俺は、嫌がらせなんてしてない。
 その結果、少なくとも敵意は持たれていないと思う……昼も、俺に笑顔で「またね」と言ってくれた。頼りにしてくれとも言ってくれた。
 ヴァグデッドのことだって、きっと助けになってくれるはずだ!

 ヴァグデッドは、まだ帰ってこない。

 もしかしたら、魔物に襲われて動けなくなっているのかもしれない。

 一度そんな気がしてきたら、だんだん最悪の事態ばかりを妄想してしまう。深い森の中で、小さなヴァグデッドが魔物に襲われて倒れていたら……

 ……もう絶対そうとしか思えなくなってきた……

 夜には帰ると言った彼がまだ帰らないんだ。絶対何かあったんだ!

 やはり、ティウルに相談しに行こう。俺よりずっと魔法も上手く使えるティウルなら、ヴァグデッドを探す手助けをしてくれるかもしれない。

 意を決して、俺は、部屋を飛び出した。







 城を走ると、ティウルの部屋の前にはすぐに着いた。

「ティウル……ティウル!! いるか!? ティウル!」

 何度か彼を呼んで、ドアを叩く。

 しかし、返事はない。

 いない……のか?

 今日はもう予定はないと言っていたから、部屋にいるかと思ったのだが。

 ダメだ……何度ドアを叩いても出てこない。

 やはり、不在か? これだけ呼んでいないんだし、城の中を探すか……

 そう思ってその場を去ろうとして、すぐに立ち止まった。

 まて……

 この部屋に、ティウルがいないという保証はない。もしかしたら、本当はいて、なんらかの理由で、出てくることができないのかもしれない。着替えの最中とか、寝ているとか、もしかしたら、攻略対象の王子殿下と取り込み中、とか。

 単に俺に会いたくないだけかもしれないが…………そうだとしたら、もしかして、またバッドエンドに近づいているのではないか!??

 なぜだ!? 俺は何か、嫌われるようなことをしたか!? ティウル!!

 そんな事を考え始めてしまったら、体が震えてきた。

 ……も、もしかしたら、今日ティウルに会った時に、何か不快な思いをさせてしまったのかもしれない……別れ際に、俺も彼に手を振っていたのだが、ティウルは何かに傷ついていたのかもしれない!

 ど、どうしよう……

 いや……落ち着け!

 もしかしたら本当にいないのかもしれない! だから出てこないのかも……

 しかし、そうだとしたらなぜいないんだ?

 ヴァグデッドに次いで、ティウルまでいなくなってしまったのか…………まさか、これこそ、バッドエンドの始まりか!?

 ゲームには、王国が滅びて、この城も廃墟になってしまうバッドエンドが幾つも存在する。まさか、そのいずれかに近づいているのか…………

 そんなことばかり想像して、震える自分の頭の中で、この城が見知った人の倒れた姿で溢れ、屋根から崩れていくところまで想像してしまう。

 確か、魔物が溢れて城が滅びるバッドエンドがあった。

 そういえば、最近魔物が増えていたんだ。

 ……やはり、バッドエンドに近づいてる!? もしかしたら、部屋の中で魔物に襲われたのでは!?

 この城には魔物が入ってくることもある。もしかしたら、ティウルは魔物に襲われて動けないのかもしれない!

「てぃ、ティウル!! ティウル!!?? な、何かあったのか!? ティウル!! 俺だ!! フィーディだ!! ティウル……ティウルーー!! ティウル……ぶ、無事だよな?! 開けてくれっっ!! ティウルーーーー!! 死ぬなーー!!」

 もう涙目になりながら叫んで、ドアを叩いていると、部屋の中から、ティウルの可愛らしい声がした。

「はーい。フィーディだろ? 少し待っててーー」

 ……なんだ。いるのか……驚かせるな……

 いるんだったら安心だ。バッドエンドには近づいていない。

 だけど、大声で「無事かーー!?」って叫んだことが恥ずかしい……

 それに……ドアを何度も叩いてティウルの名前を叫んだりしてよかったのかな……

 ……急かしているように受け取られていないか!? 呼び方がきつかったかも……怖がられたんじゃないか!?? ……し、しかし、それは返事がなかったからで……いや、彼は返事をしていたのに、俺が聞いてなかったのかもしれない。ヴァグデッドのことで頭がいっぱいだったし……

 ここは、魔物がたまに入り込んでくる城だ。そんな城で大きな音がしたら、魔物が出たんだと思うかもしれない。俺もこの前、ドアの向こうに魔物が出て、大泣きしてヴァグデッドに飛びついたばかりだ。

 魔物が出たと勘違いさせて、ティウルに不快な思いをさせていないよな……バッドエンドが近づいていたらどうしよう……
 
 オロオロし始めたところで、ドアが開く。

「フィーディ? 待たせてごめんねー」

 どうしようもなくなった俺は、その場で土下座していた。

「すっ……すみませんでしたぁぁっ……!」
「えっ……!? ええ!?? フィーディ!? ど、どうしたの!?」

 ティウルの驚く声を聞いて、俺は、恐る恐る顔を上げた。
 彼は、ポカンとして俺を見下ろしている。

「だ、だって……ま、魔物が出たと勘違いさせてしまったんじゃないのか? 恐ろしい思いをさせて…………ば、罰か? 断罪…………で、できれば罰は痛くないものにしてくれ……」
「何言ってるのー?」

 ティウルは軽く笑い出してしまう。

「僕に会いに来てくれたんだろー? 最初にフィーディだって言ってたじゃん」
「あ、ああ…………き、聞こえていたのか…………だ、だったら、なぜ出てきてくれなかったんだ?」
「だって僕、ベッドの上でゴロゴロしてる最中だったんだもん。そしたら、フィーディが無事かー? なんて言い出して、面白かったから、しばらく聞いてた」
「…………」

 ティウルに何かあったのではなく、嫌われたわけでもなく、単に舐められていただけだった……

 まあ、いいか。バッドエンドに近づいていないのなら……

 すると、ティウルは俺ににっこり笑って言った。

「ごめんね? 出るの遅れて。フィーディ、多分またドアの向こうで涙目になってオロオロしてるんだろうなーって思ったら、笑えちゃって。そしたらますます出る気が失せちゃった」
「…………」

 …………全部聞かれていたのか……少し恥ずかしいが、バッドエンドでも断罪が近づいたわけでもないのなら、いいか……

「……い、いや……いいんだ……」
「よくはないよー。フィーディは珍しい貴族だね。公爵令息様なのに。平民の僕が貴族にこんなことしたら、普通はひどい罰を受けるんだよ?」
「…………ば、罰なんて……お、俺は、すでに公爵様からは、見限られている。家から追い出されたも同然なんだ。だから……公爵令息なんて、大したものじゃない……」

 俺は、公爵邸では、頼むから死んでくれと言われ続け、家を追い出されるようにここへ来た。すでに、公爵令息でも何でもない気がする。

 ゲームでは、フィーディは公爵家では邪魔者扱いされていたが、殺されそうになったりはしてなかった。それなのに、俺の父は俺に死んで欲しくてたまらないらしい。
 俺には前世の知識があり、バッドエンドだってゲームでは回避できたのに、なぜゲームより状況が悪化していくんだ……ゲームのフィーディに比べて、俺は圧倒的に情けないフィーディだし……

「俺の方こそ、急に来てすまない……ま、魔物に襲われたわけではないのだな!?」
「魔物? 出てないよ?」
「そうか……よかった…………」
「……もしかして、ドアの外でそんなこと考えて泣き叫んでたの?」
「……な、泣いてはいない。泣きそうになっただけだ……だって、最近……魔物も増えているようだし……ティウルが無事ならいいんだ……」
「………………僕が魔物に襲われたと思って、あんなに僕の名前を呼んでいたの?」
「す、すまない! うるさかったか?! 怖かったか? 断罪したくなったか!?」
「……全然。フィーディが、震えながら僕のこと呼んでるみたいだったから、面白いなーと思って聞いてた」
「……」

 俺は、面白がられていたのか……

 肩を落とす俺にティウルは微笑んで、俺の頭を撫で始める。

「フィーディに心配してもらえたなんて嬉しいなー。しかも、そんな青い顔して。僕のことをそんな風に心配するの、フィーディくらいだよ」
「…………」

 確かに、いきなり部屋に来て泣き喚いて土下座するのは俺くらいだろう。

 ……な、なんだかますます恥ずかしくなってきた……

 俺は俯いてしまうのに、やけにティウルが嬉しそうに見えるのは、気のせいなのか?
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...