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75.今日も
しおりを挟むヴァグデッドを抱っこしたまま、トボトボと部屋を出る。
するとずっと抱っこされていたヴァグデッドが飛び上がって、人の姿になると、俺の隣を歩き出した。
「俺も行くー」
「ヴァグデッド……お茶なら、俺一人で……」
「フィーディと一緒にいたい」
「…………」
彼は楽しそうに笑いながら、俺の隣に並んでいる。
告白してくれたのは彼なのに、俺の方が、ずっと彼のことを意識してないか……? 俺は……そばにいるだけで緊張するのに……
そんな風に歩いていたら、俺の部屋からティウルまで飛び出してきた。
「フィーディ! 待ってよ! 僕も行く!!」
「え……? な、なぜだ? 待ってていいぞ。殿下のそばにいたいだろう?」
「殿下の分のコーヒーは、僕がいれる!」
「……コーヒーは俺が淹れる……」
「なんで!? フィーディ、やっぱり殿下に気があるの!?」
「全くない。安心してくれ……」
肩を落として歩いていると、今度はキラフェール殿下がティウルに駆け寄ってくる。
「ティウル! 待ってくれ!! 私も行く!」
「王子殿下が紅茶を淹れなくても、僕が淹れます!」
「君を、フィーディと二人で行かせるわけにはいかない……何かあったらどうするんだ」
「フィーディはそんな怖いことできません! だから安心です!!」
「そ、そうか……だが、私もティウルにコーヒーを淹れたい」
「僕、コーヒーいれられなさそうですか?」
「……そういうことではない…………」
殿下は少し残念そう。彼はティウルと一緒にいたいだけなのだろう。
そんな話をしながら歩いていると、ルオンまで駆け寄ってきた。
「殿下っ……! あまりお一人で城の中を歩かないでいただきたい……結界は張りましたが、魔物の脅威がなくなったわけではないのです」
すると、ルオンと一緒に出てきたウィエフが「殿下、せっかくですら、もっと静かで人気のないところを歩きましょう」と言い出す。
こうして結局、全員で行くことになってしまった。
常にバッドエンドにならないように気を張りながら歩くのは怖いのに……
けれど、そんなことを知る由もないティウルが、楽しそうに言う。
「ねえねえ!! さっきの強化のキノコ、持ってる? せっかくコーヒー淹れに行くんだし、見せてよ!」
「……コーヒーを淹れに行くのに強化は必要ない……」
キノコをぎゅっと握って隠す俺だけど、今度はヴァグデッドが俺の顔を覗き込んでくる。
「俺にも見せてー。うるさい奴ら、黙らせておきたいー」
「それもダメだ……王国滅亡の件は、諦めてくれたのだろうな……」
「なんでー? 全然諦めてないよー。滅ぼす滅ぼすー」
「……やめてくれ……」
困ったな……ヴァグデッドは全然その件、諦めてくれていない……
その上、殿下まで、俺がキノコを持つ手を睨んで言った。
「それは、王家が持つべきものだ。渡してもらおうか」
「それはできません…………あの……仲良くお茶をいれに行きましょう……」
なぜお茶をいれに行くだけなのに、こんな恐ろしい空気が漂うんだ。
このキノコを持っているのも怖い……かと言って、誰かに渡すわけにもいかない。
さっきからウィエフも俺のキノコを見ているし、なんだか歩いているだけで怖くなりそうだ。
バッドエンドを回避するために、ずっと頑張ってきたのに、王子には反逆を企んでいるなんて疑われているし、城のみんなは、俺が持つキノコを狙っている。
悪役令息に転生したけど、相変わらず俺は小心者で、色々裏目に出ている。
じーっと俺の手元を見ている奴らから、キノコを隠しながら歩く。
今日も、彼らから逃げ回る日々は続くようだ……
*悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る*完
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