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74.情けない俺
しおりを挟むもういろんな感情が混ざって震えている俺を、いつの間にかテーブルについていたティウルが、手招きしながら呼んでいる。
「フィーディーーーー!! 早くおいでーー! お茶、飲もうよーー!!」
すっかりここでお茶を飲んでいくつもりだ……それは構わないし、むしろ誘ったのは俺なのだが、彼だけではなく、王子とウィエフとルオンまで席についている。
楽しそうなティウルに、キラフェール王子が微笑んだ。
「ティウル、甘いものは好きか? 王都の方に、うまいと評判のケーキを出す店がある。今度取り寄せるから一緒に……」
「殿下! ケーキでしたら! 僕が作ります!!」
「……」
「今すぐにでも特製のケーキをご用意致しますので、小一時間ほどお待ちください!」
「ティウル……それはまた今度でいい……座ってくれ……」
「そうですか……? でも、お茶菓子ないと寂しいですよね!? 僕、何かご用意します!」
「菓子はいい……ティウル。私は君に喜んでもらいたいんだ」
「僕は殿下がいれば楽しいです!」
「ティウル…………」
ティウルに微笑まれて、王子は嬉しそう。
「……そ、そうだ。ティウル、たまには息抜きも必要だろう? この城の庭には、そろそろ果物がなる時期だ。どうだろう……一緒に……」
「だったら僕がとってきます!! 殿下はここで待っていてください!」
「いや……そうではなく……」
「僕が美味しいデザートにして、殿下のお部屋にお持ちします!」
「ティウル……デザートはいい……」
「そうですか? すぐに準備できますよ?」
そう言うことじゃないと思うぞ。ティウル……
殿下の方は、なんとかしてティウルを誘いたいようだが、ティウルには全く伝わっていない。
それどころかウィエフが「食べられるかどうかも分からない菓子の話はやめて部屋に戻りましょう」なんて言い出すから、ティウルと睨み合いになっている。
「ウィエフ様ーー? 僕は殿下に美味しいお菓子を召し上がっていただきたいだけですーー。邪魔しないでもらえます?」
「あなたの作る不気味なものを、殿下に近づけるわけにはいきません。私は護衛ですから」
「は? 何が護衛ですか? 守る気なんか、さらさらないくせに。さっきから殿下に一人になるようにすすめて、どういうつもりですか! 殿下のことは、僕がお守りします!!」
二人が言い合いを始めると、ルオンが二人を宥めにかかる。
「ティウル……落ち着いてくれ……ウィエフ、座れ。殿下の命を狙うような真似は許さないと言ったはずだぞ」
「ルオン様……」
ルオンに言われて、ウィエフは不承不承座る。
相変わらず、ルオンはウィエフにだけ、遠ざけるような態度をとる。死霊の魔法のことを考えないためなのだろうが、ウィエフは寂しそう。
それを見て、ティウルが怖い目でニヤリと笑って言った。
「ウィエフ様ーー? お疲れなら、僕が眠りの魔法をかけて差し上げましょうかー?」
「必要ありません」
「でも、ルオン様だって、ウィエフ様にちゃんと休んでほしいみたいですよ?」
ティウルが、確実に何か企んでいるような笑顔でルオンに振り向くと、ルオンはすぐに顔をそむけてしまう。けれど、やはりウィエフのことが気になるらしく、彼から離れようとはしない。
それを見て、ウィエフはなんだか顔が赤いし、「そうですね……」なんて言い出したけど、死霊にされてもいいのか??
「……ルオン様…………その……私は……」
「ダメだ……本当に、それは…………部屋に戻れ」
昨日の晩以来、距離は近づいたようだが、ルオンはますますウィエフから遠ざかっていく。
平穏なハッピーエンドのためにも、ここで死霊の魔法とか、暗殺とか、そんなことが起こっては困る。
俺は、ヴァグデッドを抱っこしたまま、恐る恐る口を挟んだ。
「あ、あの…………今日は、皆さん休んだほうがいいと思います……昨日あんなことがあったし……えーっと……で、できれば、自分の部屋で…………静かに過ごすのは……ど、どうかなーって…………」
けれど、ティウルと王子とウィエフとルオンが同時に俺に振り向いて、あっさり怯えてしまう。
ティウルが、目を潤ませて言った。
「僕……フィーディと一緒にいたい……」
するとそれを聞いた王子が、腕を組んで言う。
「ティウルがここにいるなら、私もいる。フィーディ、茶を持ってこい」
今度はウィエフまで「殿下がここにいるなら、私もここにいます。護衛ですから」と言い出す。お前は王子を消すチャンスがくるのを待っているだけだろうっ……!
王子は明らかに自分の命を狙っているウィエフがそばにいていいのか!??
いつもはウィエフを止めるルオンも、ウィエフから顔をそむけたまま動こうとしない。絶対に死霊の魔法のことを考えている……
こんな危ない状況が俺の部屋で続くなんて、冗談ではない。ティウルはともかく、王子とウィエフとルオンには、自分の部屋に戻って欲しい。
「あ、あのっ……!!」
再び声をかける俺に、全員が振り向くが、そこで「帰れ!」と言えない情けない俺。
「あ、あの…………の、飲み物持ってきます……何がいいですか……?」
何を言っているんだ、俺は。
これでは、俺の部屋に集まったままでいることを許可したも同然ではないか。
ティウルが「僕、紅茶のおかわり欲しいー!」と言い出し、殿下まで「コーヒーを持ってこい」と腕を組んで言う。
持ってきますと言ってしまったのは俺……厨房へ行ってもらってくるか……
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