悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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71.落ち着いてくれ

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 部屋に戻ると、俺の部屋なのに、なぜか先客がいた。ティウルだ。

 彼は俺の部屋のテーブルで、優雅に紅茶を飲んでいた。あまりに当然みたいな様子でそこにいるから、俺の部屋だなんて思えなくなりそうなくらいだ。
 俺の部屋……? だよな? ティウルの部屋じゃなくて。

 キョロキョロしながら部屋の様子を確かめている俺に、ティウルは振り向いて、ひどく不満そうに言った。

「フィーディ! 遅いよ!」
「お、遅いって……お、おかしくないか? ……ここは俺の部屋……だよな?」
「そんなことはいいんだよ!! それよりフィーディ!! 僕の相談に乗ってくれる約束だろ!!」
「へ!? え、えっと……そんな約束、したか?」
「したよ!! したした!!」
「そ、そうだったか……?」
「殿下が僕を避けてる話、聞いてくれるんだろ? 早くこっちに来て!!」
「そ、それなら、部屋にいないだけで避けたことにはならないと言ったではないか……」

 反論しながらも、俺はテーブルについた。
 全く心配はいらないような気がするが、ティウルが不安だと言うなら仕方がない。

 ヴァグデッドもパタパタとテーブルまで飛んできて、不満そうにティウルを睨みつける。

「あの王子のことは、自分で解決してくれるー? フィーディを巻き込むな!」
「巻き込んでるんじゃなくて、相談に乗ってもらってるんだ。そっちこそ、僕のフィーディを襲わないでくれる?」
「何が、僕の、なの? フィーディは、俺のなんだけど?」

 二人が睨み合いを始めてしまう。せっかく部屋に戻ってきて、今日は休日だと言うのに、争いなんてごめんだ。

「ふ、二人とも……やめてくれ…………ティウルも、せっかく来たんだし……ヴァグデッドも、座ってくれ」
「……せっかく二人きりになれると思ったのにー……」
「……」

 そんなことをティウルの前で言われると、さっきのことを思い出してしまって、急に恥ずかしい。
 俯いていたら、そういう態度がティウルに伝わってしまったらしい。
 彼は、じーっと俺を見上げて言った。

「フィーディ、なんか変……僕の話、聞いてる?」
「へ!? あ、も、もちろん聞いている……お、俺は、殿下はティウルを避けたりしないと思う……むしろ、ティウルのことを考えてくれているのではないかな……」
「フィーディ……でも、昨日から殿下はおかしいんだ…………急に、反逆者のフィーディには近づかない方がいい、なんて言い出して……」
「ええっ……!? 殿下、まだそんなことを言っているのか!??」

 昨日の晩のキノコの件の時に、なぜか殿下には何度も反逆の意志があるのではないかと疑われた。その度に否定したのに、まだ疑っていたなんて。

「そ、それは困るっ……で、殿下にはちゃんと誤解だと分かっていただかないと……」
「僕も、フィーディはそんなことしないって言ったんだ」
「ティウル……あ、ありがとう……あ! も、もしかして、それで殿下と口論になったのか!?」
「全然なってないよ」
「え!? な、ならなかったのか?」
「うん。ティウルがそう言うなら、もう少し様子を見てみようって言われた」
「な、なんだ、そうか…………よ、よかったではないか! ティウル! 信用されている証拠だ!」
「うん……そう思って、油断している隙にできたての惚れ薬を飲ませようとしたら、そういうのはいらないって言われちゃったんだ……」
「……ティウル、そんなものがなくても、殿下はティウルを愛してくれる……その……惚れ薬はやめた方がいい」
「僕もそう思って……」
「そ、そうか! 考え直してくれたか!」
「改良したのを今朝早く、日が昇る前に飲ませに行こうとしたんだ」
「ティウル……俺は改良しろと言っているのではない。それに、そんなに早く行ったら、まだ殿下も寝ているだろう」
「部屋に鍵がかかってた……」
「……」
「しかも、部屋の前でウィエフ様に見つかって……」
「……ウィエフに? ……そうか……一応護衛だからな……」
「揉み合いになって追い返されて、そのあと朝食の時間になった頃にもう一回、殿下の部屋に行ったら、殿下はいなかったんだ!」
「……朝食の時間だから朝食を食べに行っただけだと思う……」
「でも! 全然殿下に会えないんだよ!? 僕……殿下に嫌われたのかも…………改良してない惚れ薬なんて飲ませようとしたから……」
「ティウル……改良してるしてないの問題ではない。それに、殿下はティウルを避けたりしていない。落ち着いてくれ……」
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