悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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68.邪魔だったね!

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「僕、邪魔だったね!! 先に行ってるねーー!」

 そう言って、ティウルは俺たちに手を振り、脱衣所を出て行ってしまう。

 これでここにいるのは、俺と、なんだか怒っているようなヴァグデッドの二人だけ。なぜか彼は、俺が言っても俺を拭くことをやめてくれなくて、俺は巻かれたバスタオルを奪い取り、それで体を包んだまま、彼から離れた。

 彼は俺を追ってくることはしない。どうしたんだ……? やはり、何か怒っているのか?

 言われたとおり、すぐに服を着て、先に脱衣所を出て行ってしまった彼を急いで追う。廊下を、俺に背を向けて歩くヴァグデッドは、まだ人の姿のままだった。

「ヴァグデッド!! 待ってくれ!!」

 大声で呼び止めると、彼は振り向いてくれる。彼が人の姿でいるだけで、少し緊張してしまう。

 それでも急いで追いつくと、俺のまだ濡れていた髪の毛に、暖かい風が吹いてきた。渦巻くように吹いたそれのおかげで、俺の髪はすぐに乾いた。ヴァグデッドの魔法だろう。

「……ちゃんと拭いてこいって言っただろ?」
「それくらい自分でできる……そ、それよりヴァグデッド……」
「…………」

 俺が彼を見上げても、彼にはすぐに目をそらされてしまう。

 ヴァグデッド……もしかして、ちょっと拗ねている?? 彼のこと、待たせてしまったからか?

「あ……そ、その…………ティウルとは、少し話してただけだ…………その、あー……え、えっと…………あの…………す、好きな人の話……」
「…………は……?」
「こういうの……飲ませちゃダメだろうって……」

 恐る恐るティウルから渡された瓶を見せると、彼がそれに手を伸ばそうとするから、俺は慌てて遠ざけた。

「な、何をするんだっ……!?」
「……なんでー? 飲む飲むー。全然平気」
「は!? な、何を言っているんだ!! こ、こんな危険なものっ……!」
「なんで? 強化の薬だろ?」
「へ!?? そ、そうなのか?」
「それ強化の薬だよ。魔法を強化するためのものだ」
「強化……そ、それだけ? そうなのか?」
「うん。その中身なら、見たことあるし、魔法で確かめられる」
「そ、そんなことができるのか……」

 なんだ……ホッとした。

 俺には、瓶の中身が正確に何なのかなんて分からない。
 だけど、それが本当なら、ティウルを疑うような真似をして悪かったな……

「……教えてくれてありがとう……でも、これ…………殿下のためのものだから……」
「…………は? …………それ…………王子にあげるつもりだったの?」
「へ!? う、うん…………ティウルが……」
「………………え? 今の、ティウルの話だったの?」
「え? う、うん……え? な、なんの話だと思ったんだ?」

 たずねて見上げると、またまずいことを言ってしまったような気がした。俺を見下ろす彼の目が鋭い。怖いくらいだ。

「…………ヴァグデッド? ど、どうしたんだよ…………」
「フィーディはさぁ……そういうこと言うたびに、俺がどれだけ乱されてるか、知ってる?」
「は……? わっ…………!」

 抗う間もなかった。強く腕を掴まれて、引き寄せられて、また逃げられないくらいに、強く抱き寄せられる。俺より大きな彼に包まれるように捕まってしまう。

 見上げたら、彼はひどく苦しそうで、俺は言葉が出なくなってしまった。さっきまで、冗談のようなことを言って、笑っていられたのに。
 下手なことを言ったら、ますます彼を傷つけてしまうような気がする。
 俺は、やはり臆病だ。けれど、そんな俺でも、彼を傷つけたくはない。

「ヴァグデッドっ……?! ど、どうしたんだっ…………! 俺っ……な、何かしたか!? あのっ……え、だ、だったらごめんっ……! 俺っ……お前には感謝してて…………」
「……フィーディ……ずるい…………」
「え……? ひっ!!」

 背中に回された腕の力が強くなって、俺がちょっとだけ喘いだら、彼は力を緩めてくれた。
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