悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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67.何話してたの?

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 お風呂は城の一階の奥の方にあった。脱衣所まで来ると、ヴァグデッドは「俺は外で遊んでくるー!!」と言って、窓から飛んでいってしまう。呼び止める間もなかった。

 一人だけ取り残されてしまい、安心したような、ちょっと寂しいような、そんな感情が混ざったまま、浴場に向かう。

 体を洗って、木々に囲まれた露天風呂に入ると、また眠くなりそうなくらいに気持ちいい。

「あったかい……」

 湯気が立ち込めて、周りは真っ白。
 風呂にいるのは俺だけ。湯浴み着を着て肩までお湯につかって、ぼんやりしていた。この湯浴み着にも魔法がかかっていて、お風呂に魔物が出た時にすぐに応戦する助けになってくれたり、温泉から地下の素材を取りに行く時に役に立つらしい。

 魔物を警戒しながらでも、お風呂はやはり気持ちいい。
 だけど、さっき窓から飛び出して行ったヴァグデッドのことが気になる。どこへ行ったんだろう……
 だいぶわがままを言い過ぎてしまっただろうか。彼がいつも優しいから、つい頼りすぎてしまった。

 どこ行ったんだろう……ヴァグデッド……さっきの、意識されていない、というのは、どういう意味なのだろう……

 考え込んでいたら、突然耳元で叫び声がした。

「フィーディーーーーーーっっ!!!!」
「うわああああああああああっっっ!!!」

 耳元での声に驚いて、俺は大声をあげて飛び退いた。
 だけど、振り向いた先に声の主はいない。
 不可解な状況にキョロキョロしていたら、頭の上から「こっち!」と声がして、そこにティウル浮いていた。
 彼は、俺と同じように湯浴み着を着ているのに、なぜかいくつも不気味な形の瓶が入った大きなかごを抱えている。

「そんなにびっくりした?」
「び、びっくりした!! な、なんでっ……! な、何をしているんだ!?」
「温泉に入るふりをして地下にある素材の回収してた」
「……勝手にそんなことをしない方がいいです……地下にも魔物は出るのだから……」
「一人? 喉乾かない? これ、飲んでみる?」

 そう言って彼は、俺にかごの中の瓶を渡そうとする。
 それは受け取らず、首を横に振って断った。

「……お、俺はいい……そ、そっちこそ、いいのか? 俺に構っていないで、殿下のところに行った方がいいだろう」
「それが……殿下が僕を避けているような気がするんだ」
「え……ほ、本当か!??」

 まさか、すでにバッドエンドの兆候が出てきているのかと思った。それなら早く対処しなくてはならない。

 彼は、拳を握り締め、真剣な顔で続けた。

「殿下、森から帰ってきてから、様子がおかしいんだ!!」
「おかしいって、何がだ!?」
「……部屋にいるはずなのにいないんだ! 僕を避けている気がする!」
「……部屋にいないだけで避けていることにはならない…………」
「そんなの、分からないじゃないか! フィーディ!! どうしよう!」
「どうしようって言われても……と、とりあえず、風呂から出よう……それから話を聞く……」

 湯船にずっといたらのぼせてしまいそうだ。心配はいらないと思うのだが、ティウルは真剣に話しているし、バッドエンド回避のためにも、彼のためにも、二人には幸せになってほしい。

「フィーディ……優しい……ありがとうっ……!! そうだ! これあげる!!」

 そう言ってティウルは、俺に不気味な形の瓶を渡してくる。

「それはなんだ……俺はそういうものはいらない……」
「なんで!? それ、すっごくよく効くんだよ!?」
「な、何にだ…………?」
「フィーディも使ってみるといいよ! 僕からの贈り物だ!」
「いらない……」

 そう繰り返しても、ティウルが聞かないことは知っている。
 湯船から上がって脱衣所に向かうと、ティウルも飛んだままついてきた。

 脱衣所の扉を開くと、突然、大きくて真っ白でふわふわのものが視界に入ってきて、俺を包み込む。

「うわっ……なんだこれ!」

 ふわふわのそれが、俺の体の水滴を拭い去っていく。
 これ、バスタオルか!?
 体全体を、タオルで頭まですっぽり覆われているんだ。しかし、タオルは勝手に俺を包んだりしないはず。

 頭の上までタオルに包まれながら、顔だけ上げると、ヴァグデッドが俺を見下ろしていた。

 しかも、そいつは人の姿。いつも猫くらいのサイズの小さな竜なのに、今は俺より大きな男の姿だ。
 そんな奴が、俺をめちゃくちゃ大きなバスタオルで包んでいるから、びっくりした。

「お、お前っ……! なんで人の姿になっているんだ!??」
「こっちじゃないと、フィーディ拭けないから」
「か、体くらい一人で拭けるっ……!」

 って言っているのに、彼は俺の体をバスタオルから解放してくれない。ふわふわのタオルに包まれるのは気持ちいいが、なんだか恥ずかしい。
 それなのに彼は、そんなことお構いなしに、俺を乱暴に拭きながら言った。

「早く体を拭きなさい」
「お、おいっ…………な、何をするんだっ……! 体くらい、一人で拭けると言っているだろう!!」
「早く服を着なさい」
「な、なぜ命令口調なんだっ……!! おい!」

 彼は不機嫌そうにしながら、俺を包むふわふわのバスタオルごと、ぎゅっと抱きしめてくる。さっきまでお湯で温まっていた体が、タオルの向こう側から感じる彼の体温で、ますます熱くなる。

 俯き気味に俺を捕まえた彼の声は、耳元で聞こえた。

「……ティウルと、何話してたの?」
「へっ……!? な、何も……ちょっと話していただけ…………」
「ふーーん…………」
「い、いたっ……! ヴァグデッド! 体は自分で拭く!」

 だけど、彼は聞いているのかいないのか、俺を包むタオルを離してはくれなかった。
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