悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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64.ここにいる彼らとも、そんなふうに

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 キノコを詰めた袋が戻ってきてホッとしたけれど、まだそれを諦めていないティウルが、俺に迫ってくる。

「フィーディ!! だったらそれ、僕にちょうだい!」
「え……えっと……ちなみに……わ、渡したら何に使うんだ?」
「えー、秘密ー」

 そう言ってティウルは、にっこり笑う。教えてくれそうにないが、王子の方をチラッと見て楽しそうにしている様子だけで、答えなんて一目瞭然だ。

 まだ惚れ薬を諦めていないのか……そんなものがなくても、王子はティウルに振り向くと言っているのに!

「てぃ……ティウル……これは渡せない。そんなことより、王子殿下のそばにいてはどうだろう」
「もちろん、殿下のそばにはいるよ!! だけど、キノコも欲しい! それがあればっ……フィーディ!! お願い!!」
「お、落ち着いてくれ……頼むっ……」

 ティウル……目が怖い。何がなんでもキノコが欲しいらしい。

 キノコの袋をぎゅーっと抱きしめ、後ろに下がる俺。するとそこに、ヴァグデッドまで飛んできた。

「フィーディ、じゃあそれ、俺にちょうだい? 王国滅ぼすから」
「ま、まだそんなことを言っているのか!! その件は諦めろ! あっ……諦めてくださいっ!!」
「なんで止めるの? フィーディのためにもなるのに」
「お、俺はそんな怖いことは嫌だと言っているだろう!!」

 って言って逃げても、ヴァグデッドは俺を追いかけて飛んでくる。
 ティウルまで一緒に「待ってよー」なんて言いながら俺を追いかけてくるから、本当に怖い。

「や、やめろっ……お前たちっ……わっ!」

 前を見て走っていなかった俺は、ウィエフにぶつかってしまった。

「あ……す、すみません……」
「……全く……一体、何をしているのですか……そもそも、なぜあなたがそのキノコを持っているのですか?」
「え、えっと……」

 なぜ、と言われると困る。俺はただ、あの時ヴァグデッドが切り裂いたキノコを回収しただけだ。

「それは、たまたまあなたが手に入れただけです。もっと相応しい者が持つべきです」
「え、えっと……はい……」

 そんな風に言われると、つい頷いてしまう。確かにキノコを倒したのは俺じゃない。
 しかし、ヴァグデッドの目的は王国の滅亡。それを知っていて、渡すわけにも……

 戸惑う俺に、ウィエフはさらに詰め寄ってきた。

「あなたがそれを持っていても、宝の持ち腐れでしょう。こちらに渡しなさい」
「えっ……あ、そ、それは、ちょっと……え、えっと……ち、ちなみに……渡したら、どうするんですか? キノコ……」
「当然、ルオン様の死霊の魔法の強化のために役立てていただきます」
「え…………? も、目的は、それですか?」
「はい。それがどうかしましたか?」

 ウィエフはキョトンとしている。

 お、王国を滅ぼすつもりじゃなかったのか? なんだ……てっきり、王家が気に入らないから滅亡を企んでいるのかと思っていたのに……

「す、すみませんでした……」
「……? 何がですか?」
「……えっと……いろいろ……」

 勝手に、王国の滅亡が目的なんだと決めつけていた。
 申し訳なくて頭を下げる俺を、ウィエフはキョトンとして見下ろしている。
 ルオンの死霊の魔法の強化が目的なら、渡してもいいのか?

「そんなことを考えていたのか?」

 そう聞いて、ルオンがウィエフに振り向く。
 ウィエフはどこか、気まずそうにしていた。

「ルオン様……出過ぎた真似かと思ったのですが……最近、悩んでおられるようだったので……」
「……悩んでいた? 私が……? ああ……」

 今度はルオンが気まずそうに顔をそむけ、小さな声でまたウィエフに謝っていた。多分、死霊の魔法にかけようとしたことを詫びたのだろうが、ウィエフは違うように受け取ったらしく、力強く言った。

「ルオン様……そんなに心を痛めておられたなんて……ご安心ください。あなたを悩ませる王国は、私が必ず滅ぼします」

 そう言って、ウィエフはニヤリと笑う。やはりちゃんとそっちも企んでいる……少し安心して損をした……

 それに、ルオンの死霊の魔法の強化に使われたら、一番の被害者になるのはウィエフではないのか? それでもウィエフは喜びそうだけど……

 そもそも、ウィエフは死霊の魔法で王国の滅亡を企むのだから、彼にも渡せない。

 いつもはウィエフを止めてくれるルオンも、今は全くウィエフを止めようとしない。彼は、ずっと何か考え込んでいるようだった。

「あ、あの……る、ルオン様! ウィエフを止めてください!

 恐る恐る声をかけると、ルオンは俺に振り向いた。というより、多分、キノコの袋の方に振り向いている。じーーっとキノコの袋を見つめていた。

「強化か…………」

 ……絶対に、死霊の魔法とウィエフのことで、頭がいっぱいになっている……さっき、俺が眠らせたウィエフに夢中になっていたし……キノコは結界の魔法を強化させるために使うって言っていたのに!

「け、結界!! 結界の強化に使いましょう!! このキノコは!!」
「……」
「……」

 ルオンもウィエフも、返事がない。

 今度は、王子がウィエフを怒鳴りつけた。

「ウィエフ! 貴様っ……! 王家に仕えているのではなかったのか!? そのキノコは、王家のものだ!」
「まだそんなことを言っているのですか?」
「き、貴様っ……!!」

 王子は、今度は俺に振り向いて怒鳴る。

「フィーディ!! この男にはキノコを渡すな!! 反逆罪に問われることになるぞ!! 強化のキノコは私に寄越せ!」

 俺に迫ってくる王子に、ヴァグデッドが牙を向け、ティウルと喧嘩になりそう。
 ルオンは死霊の魔法とウィエフのことばかり考えているようだし、ウィエフは「王族にキノコは渡しません」と言って、今にも王子に斬りかかりそう。

 なぜこうなってしまうんだ。せっかく危機が去ったのに。

 俺は、キノコの袋を抱きしめて言った。

「あ、あのっ……! お、俺…………やはり、結界の強化に使うべきだと思いますっ……! 魔物を遠ざけて、みんなで安全に暮らすのが先決では……ないでしょうか……」

 もう、今にも泣き出してしまいそうだったが、正直な気持ちだった。

 これから俺は、しばらくあの城に住まなくてはならない。住処は安全な方がいい。
 そして今、ここにいる彼らとも、そんなふうに過ごしたいと思う。

 しかし、これは俺の勝手な望みであって。彼らが同じ気持ちかは分からない。

 けれど、恐る恐る顔を上げれば、ヴァグデッドが、クルンと回って言った。

「仕方ないなー……あそこが魔物に襲われたら面倒臭いし……俺はそれでもいいけど?」
「えー……僕はまだ諦めきれない」

 そう言いながら、ティウルはまだ残念そうだったけれど、もう俺を追いかけようとはしなかった。

 ルオンも、少し恥ずかしそうに言った。

「そうだな……すまない……つい……」
「……ルオン様がそうおっしゃるなら……」

 ウィエフの方は、まだかなり不満そうだが、とりあえず、キノコの袋を見つめることはやめてくれた。

 キラフェール王子はまだ諦めきれない様子で、「だったら私に寄越せ」と言っていたけれど、ティウルに「そんなキノコより、僕の強化の薬を飲んでください!」と言われて逃げ回っている。

 ヴァグデッドが、俺に振り向いて言った。

「帰ろっか。キノコも一応、見つかったことだし!」
「う、うんっ……!」

 返事をすると、彼は俺の方に飛んできて、俺は心底ホッとした。
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