悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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61.それがなくても

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「フィーディ」

 呼びかけられて振り向くと、部屋に入ってきたルオンが、俺たちを眺めて微笑んでいた。

 見られていたのか? 少し恥ずかしい……

 ルオンも、ヴァグデッドと一緒に駆けつけてくれたらしく、笑顔で言った。

「無事でよかった……回復の魔法も、必要なさそうだな」
「……る、ルオン様こそ、ご無事で何よりです……」

 ルオンが無事でホッとした。

 後からティウルも部屋に飛び込んできて、王子に駆け寄っていく。

「殿下っ……! ご無事ですか!?」
「ティウル……私は無事だ。魔物はどうした?」
「僕とルオンとヴァグデッドで追い払いました。殿下……素晴らしい回復の薬があるのですが、いかがでしょう?」
「……ティウル。私は無事だ。薬は必要ない」

 王子が断ると、ティウルは少し不満そう。

 しかし、王子の方は、魔物の大群と戦ったティウルのことの方が心配のようだ。ティウルの頬にあるかすり傷を見て、そっと手を伸ばす。

「……お前こそ、怪我をしている。待っていろ。今……」
「こんなの、僕の回復の魔法で治ります!!」

 王子の言葉を遮ったティウルは、魔法を使い、一瞬で自分の傷を治してしまう。

「そんなことより、本当にこれはよく効くんです! 殿下!! ぜひ!!!」

 諦めずに回復の薬を王子に勧め始めるティウルに、俺は慌てて駆け寄って、耳打ちした。

「ティウル……その……それがなくても、殿下はティウルのそばにいてくれる……せっかくだから、殿下に回復の魔法をかけてもらってはどうだろう……」
「そんなこと言って。フィーディ……王子殿下と何かしてたんじゃないだろうね?」
「は!? 何かって、何をだ! 何もするはずがないだろう!!」
「本当ーー?」
「ほ、本当だ……」
「ちなみにこれは、僕が作った、僕が見ていない間に何があったのか包み隠さず話したくなる回復の薬なんだけど、飲んでみる?」
「そんな訳の分からない効果のある回復の薬は聞いたことがない! 絶対に飲みませんいりません捨ててくださいそんなもの!!」
「試してーー」
「いらないと言っているだろうーーーーっっ!!!!」

 慌てて逃げ出す俺の腕から、ヴァグデッドが飛んでいき、ティウルに牙を向ける。もちろんそれでティウルが引き下がるはずもなく、彼も魔法で応戦しようとするから、また殺伐とした空気になってしまう。

「フィーディに近づかないでくれる? 俺は我慢してるのに、平然と追いかけるなんて、羨ましくて腹が立つんですけど?」
「そっちこそ! 僕の殿下に近づかないでくれる!?」

 せっかく再会できたのに、何でこうなるんだ。

 俺は、二人の間に入って叫んだ。

「二人ともっ……! 頼む!! やめてくれ!! ヴァグデッド!」
「だってフィーディ!! こいつ、放っておいたら何をするか分からない!!」

 そう言いながらも、ヴァグデッドは俺の腕に戻ってきてくれる。

「フィーディ! あいつ、放っておくと危険だ!」
「……俺は平気だよ……喧嘩はやめてくれ……」
「平気じゃない。変なの飲まされそうになったのに!」
「……俺は飲まないから……」

 本当なら、俺が怒るところなのだろうが、ヴァグデッドが代わりに怒っている。そのおかげか、俺はあまり腹が立たない。飲まなくて済んだし、怖くもなくなった。

「……お前は……ここにいろよ……」

 俯きながら、ぼそっと言うが、ヴァグデッドは俺の腕の中で、ますます不満そうにしていた。

 ともあれ、これで俺たちは全員揃った。いなくなった王子の護衛たちのことは心配だったが、彼らのことは、ルオンが城に連絡してくれたらしい。

 そして、ルオンはすぐに、ソファのそばで眠ってしまっているウィエフを見つけた。

「ウィエフ!!」

 彼はすぐに、ウィエフが後ろ手に縛られていることに気づいて、俺に振り向いた。

「彼は……」
「あ、えっと……ルオン様たちより先に、ここについたようで、ドアを開けた途端、飛び込んできて……王子殿下を狙っていたので、眠らせました……魔法で……」
「ウィエフをか……? そんなことができるのか……? …………すごい魔力だ……」
「へっ!? そ、そんなっ……俺は何もっ……! 魔力は関係ないんです! 多分、ティウルに眠りの魔法を強化してもらったからできただけです」
「そうか……」

 ルオンはそう言って、倒れたウィエフに触れる。そして彼を抱き上げると、ソファに横たえた。

「……魔物の魔力につられて、魔獣まで集まってきている…………森に、魔物を遠ざけるための結界を張っているが……それが効いてくるまで、少し……時間がかかりそうだ……ここで森の結界の効果が表れるのを待って、出発しよう……」
「ルオン様?」

 俺が声をかけても、ルオンは額をおさえて俯いている。それに、ひどく顔色だって悪い。さっき、森の中でもそうだった。
 魔物と連戦してここまで来てくれたんだ。ルオンだって、かなり疲れているんだろう。

「ルオン様……少し、休みましょう……このままでは、ルオン様の方が倒れてしまいます……」
「……フィーディ……私のことは、気にしないでくれ」

 ルオンは、そっとウィエフの頬に手を伸ばす。そして、その頬を軽く撫で始めた。何度も。彼はずっと、ソファのウィエフを見下ろして、目を離そうとしない。倒れたままのウィエフのことが、よほど心配なのだろうか。

「あの……ルオン様……」
「……眠りの魔法は、どのようなものを使った?」
「へ!?? えっと……魔法自体は、大したものではありません。ただ、強化してもらっただけで……」

 って、さっきも説明したような気がする……? もっと詳しくということか? だけど、俺には詳しいことはよく分からない。

「俺にも……強化のことは分からなくて……それはティウルに……」

 彼に聞いてみないと分からない、そう思ってティウルに振り向くが、ティウルはまるで聞いてない。

 ティウルは、窓際で王子に怪しげな薬を見せながら、笑顔で魔法について話していた。キラフェール王子の方も、興味ありげに何度も頷いている。
 ティウルと王子がそうしていることは嬉しいが、俺の話も聞いてくれ。
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