61 / 96
61.それがなくても
しおりを挟む「フィーディ」
呼びかけられて振り向くと、部屋に入ってきたルオンが、俺たちを眺めて微笑んでいた。
見られていたのか? 少し恥ずかしい……
ルオンも、ヴァグデッドと一緒に駆けつけてくれたらしく、笑顔で言った。
「無事でよかった……回復の魔法も、必要なさそうだな」
「……る、ルオン様こそ、ご無事で何よりです……」
ルオンが無事でホッとした。
後からティウルも部屋に飛び込んできて、王子に駆け寄っていく。
「殿下っ……! ご無事ですか!?」
「ティウル……私は無事だ。魔物はどうした?」
「僕とルオンとヴァグデッドで追い払いました。殿下……素晴らしい回復の薬があるのですが、いかがでしょう?」
「……ティウル。私は無事だ。薬は必要ない」
王子が断ると、ティウルは少し不満そう。
しかし、王子の方は、魔物の大群と戦ったティウルのことの方が心配のようだ。ティウルの頬にあるかすり傷を見て、そっと手を伸ばす。
「……お前こそ、怪我をしている。待っていろ。今……」
「こんなの、僕の回復の魔法で治ります!!」
王子の言葉を遮ったティウルは、魔法を使い、一瞬で自分の傷を治してしまう。
「そんなことより、本当にこれはよく効くんです! 殿下!! ぜひ!!!」
諦めずに回復の薬を王子に勧め始めるティウルに、俺は慌てて駆け寄って、耳打ちした。
「ティウル……その……それがなくても、殿下はティウルのそばにいてくれる……せっかくだから、殿下に回復の魔法をかけてもらってはどうだろう……」
「そんなこと言って。フィーディ……王子殿下と何かしてたんじゃないだろうね?」
「は!? 何かって、何をだ! 何もするはずがないだろう!!」
「本当ーー?」
「ほ、本当だ……」
「ちなみにこれは、僕が作った、僕が見ていない間に何があったのか包み隠さず話したくなる回復の薬なんだけど、飲んでみる?」
「そんな訳の分からない効果のある回復の薬は聞いたことがない! 絶対に飲みませんいりません捨ててくださいそんなもの!!」
「試してーー」
「いらないと言っているだろうーーーーっっ!!!!」
慌てて逃げ出す俺の腕から、ヴァグデッドが飛んでいき、ティウルに牙を向ける。もちろんそれでティウルが引き下がるはずもなく、彼も魔法で応戦しようとするから、また殺伐とした空気になってしまう。
「フィーディに近づかないでくれる? 俺は我慢してるのに、平然と追いかけるなんて、羨ましくて腹が立つんですけど?」
「そっちこそ! 僕の殿下に近づかないでくれる!?」
せっかく再会できたのに、何でこうなるんだ。
俺は、二人の間に入って叫んだ。
「二人ともっ……! 頼む!! やめてくれ!! ヴァグデッド!」
「だってフィーディ!! こいつ、放っておいたら何をするか分からない!!」
そう言いながらも、ヴァグデッドは俺の腕に戻ってきてくれる。
「フィーディ! あいつ、放っておくと危険だ!」
「……俺は平気だよ……喧嘩はやめてくれ……」
「平気じゃない。変なの飲まされそうになったのに!」
「……俺は飲まないから……」
本当なら、俺が怒るところなのだろうが、ヴァグデッドが代わりに怒っている。そのおかげか、俺はあまり腹が立たない。飲まなくて済んだし、怖くもなくなった。
「……お前は……ここにいろよ……」
俯きながら、ぼそっと言うが、ヴァグデッドは俺の腕の中で、ますます不満そうにしていた。
ともあれ、これで俺たちは全員揃った。いなくなった王子の護衛たちのことは心配だったが、彼らのことは、ルオンが城に連絡してくれたらしい。
そして、ルオンはすぐに、ソファのそばで眠ってしまっているウィエフを見つけた。
「ウィエフ!!」
彼はすぐに、ウィエフが後ろ手に縛られていることに気づいて、俺に振り向いた。
「彼は……」
「あ、えっと……ルオン様たちより先に、ここについたようで、ドアを開けた途端、飛び込んできて……王子殿下を狙っていたので、眠らせました……魔法で……」
「ウィエフをか……? そんなことができるのか……? …………すごい魔力だ……」
「へっ!? そ、そんなっ……俺は何もっ……! 魔力は関係ないんです! 多分、ティウルに眠りの魔法を強化してもらったからできただけです」
「そうか……」
ルオンはそう言って、倒れたウィエフに触れる。そして彼を抱き上げると、ソファに横たえた。
「……魔物の魔力につられて、魔獣まで集まってきている…………森に、魔物を遠ざけるための結界を張っているが……それが効いてくるまで、少し……時間がかかりそうだ……ここで森の結界の効果が表れるのを待って、出発しよう……」
「ルオン様?」
俺が声をかけても、ルオンは額をおさえて俯いている。それに、ひどく顔色だって悪い。さっき、森の中でもそうだった。
魔物と連戦してここまで来てくれたんだ。ルオンだって、かなり疲れているんだろう。
「ルオン様……少し、休みましょう……このままでは、ルオン様の方が倒れてしまいます……」
「……フィーディ……私のことは、気にしないでくれ」
ルオンは、そっとウィエフの頬に手を伸ばす。そして、その頬を軽く撫で始めた。何度も。彼はずっと、ソファのウィエフを見下ろして、目を離そうとしない。倒れたままのウィエフのことが、よほど心配なのだろうか。
「あの……ルオン様……」
「……眠りの魔法は、どのようなものを使った?」
「へ!?? えっと……魔法自体は、大したものではありません。ただ、強化してもらっただけで……」
って、さっきも説明したような気がする……? もっと詳しくということか? だけど、俺には詳しいことはよく分からない。
「俺にも……強化のことは分からなくて……それはティウルに……」
彼に聞いてみないと分からない、そう思ってティウルに振り向くが、ティウルはまるで聞いてない。
ティウルは、窓際で王子に怪しげな薬を見せながら、笑顔で魔法について話していた。キラフェール王子の方も、興味ありげに何度も頷いている。
ティウルと王子がそうしていることは嬉しいが、俺の話も聞いてくれ。
29
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。


モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる