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56.そっちはお前が守れよ
しおりを挟むヴァグデッドが、王家に狙われるようなことにならなくて、ホッとした。
けれど、安心したのも束の間、地面を揺るがすような音がした。周囲の木々が倒れ、何がが轟音を立てて近づいてくる。
ウィエフが、魔法で周囲を明るく照らす。光の中に見えたのは、周りの木々から飛び出している丸い屋根のようなもの。けれどそれは、すぐに周りの夜空と同じ色になって見えなくなってしまう。
一瞬しか見えなかったけど、間違いない。森に出る光のキノコだ!!
森の魔力をもらい急成長したそれは、周囲の木々より大きい上に、光を自在に操る力を手に入れ、自身で跳ねて動く。その上、擬態して周囲の景色に紛れこみ、待ち伏せしては獲物を狩るので、ここまできたら、もうキノコというより魔物に等しい。
一瞬キノコが見えた方に、ルオンが魔法の光を放つ。すると、擬態が解けたのか、少しずつキノコの姿が露わになる。いかにも毒々しい、鮮やかなピンク色のそれは、ぼんやりした光を放っている。それが体を震わせると、キノコから飛び出した光の槍のようなものが、いくつも俺に向かって飛んできた。
そんなスピードで攻撃できるのか!!??
確かに、乱暴なキノコであることは知っていたけど、そんなスピードで攻撃魔法が飛んでくるのを、俺は初めて見た。
すぐに応戦しなくてはいけないのに、ろくに動けもしない俺の目の前で、光はヴァグデッドの炎で焼かれ、爆発する。
激しい爆発音と爆風が吹いて煙が上がる。
俺のことは、ヴァグデッドが守ってくれて、すぐそばにいた王子は、ティウルが魔法の壁を作って庇ったから、無傷だ。
ティウルがヴァグデッドに向かって怒鳴る。
「ヴァグデッド!! いきなり、乱暴な真似しないで!!! 殿下に当たるだろ!」
「そっちはお前が守れよ」
言い返すヴァグデッドを一番の敵と見做したのか、キノコは彼に向かっていく。
ヴァグデッドは空高く飛び上がり、自分を狙って飛んできたキノコを、一刀両断にしてしまった。
二つに裂けたキノコの破片が地面に落ちる。ずしんと大きな音がして、森の木々を押し倒したキノコは、そのほとんどが、ボロボロと粉のようになって崩れて消えていく。魔力を失って、体を支えていることができなくなったんだ。
そうだ。今は呆然としている場合じゃない。俺はキノコを取りに来たんだ。
俺にだって、倒れて崩れていくキノコを集めることくらいできる。
目の前に落ちたキノコの破片に近づいて、微かな光を放ちながら消えていくそれを、袋に詰める。これを残しておくと、光の小さな粒になって、そこからいくつもキノコが生えてくる。これが、魔法の道具を作る材料になるんだ。
すぐに袋はいっぱいになって、キノコが消えた森が静かになる。
ちゃんとキノコが手に入った……俺のすることが、こうも連続でうまくいくなんて、今日はすごい日だ!
そう喜んでいられたのは一瞬で、頭上から激しい羽の音がする。夜空を見上げれば、先ほどまで星が埋め尽くしていた空は、真っ暗になっていた。
空を覆い隠したのは、雲ではなくて、魔物の大群だ。キノコの魔力に惹かれて集まって来たんだ。羽のある巨大な虫のようはそれは、全て俺たちを見下ろしているように見えた。
せっかくキノコを手に入れたのに、魔物に渡してたまるか。
ぎゅっと強く袋を抱きしめる俺の前に、ヴァグデッドが降りてくる。
少し離れたところでは、ティウルが王子の前に立って、彼を庇っていた。
「キラフェール殿下。僕のそばを離れないでください」
「……ティウル。お前は使えそうだ」
「……ありがとうございます」
「命令だ。フィーディ・ヴィーフを殺せ。そして、あの男が持っているキノコを奪ってこい! そうすれば、お前を伴侶にしてやろう!!」
「…………殿下……」
ティウルはじっと、王子を見つめていた。
魔物があれだけ集まってきている時に、まだ俺を殺すことを諦めていない。俺の言ったことをまるで聞いていない……
あの王子に怖いものはないのかっ……! それは少し羨ましくなりそうだっ! 俺なんか、怖くてもう動けそうにない。
その上、敵は魔物だけではなかったようだ。
暗い森の奥に、かすかに、光が見えた。魔力のそれだ。
「危ないっ!!」
俺が叫ぶと、ティウルはすぐに気づいたらしい。魔力の壁を作って、飛んできた光の弾丸から、自分と王子を守る。
俺のことは、ヴァグデッドが羽を広げて守ってくれた。
間違いなく、ウィエフの魔法だ。しかもそれは、間違いなく王子を狙っていた。キノコを持っているのは俺なのに、彼は王子を狙っているようだ。
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