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53.目を離さないようにしなくては……
しおりを挟むウィエフは未だに、キラフェール殿下を睨んでいて、殿下のそばにはティウルがついている。殿下の護衛をするはずの魔法使いたちは腰を抜かしていて、ウィエフを止められるとは思えない。
というか、真っ先に王子を守らなくてはならないのは、ウィエフだろう。王子殿下の護衛なのだから。
ルオンは、ため息をついて俺に振り向き、小声で言った。
「……ティウルの方を頼めるか?」
「え!?」
「私は、ウィエフの方を止める」
ティウルを止めるのは骨が折れそうだが、俺にウィエフは止められないし、それが一番か……
そう思ったけれど、俺より先に、俺が抱っこしていたヴァグデッドが「嫌」と答えてしまう。
「ここで二人が争っている間に、俺がキノコを手に入れて、王家を滅ぼす」
「それはやめてくれ……」
言って、俺は彼の頭を撫でて、ルオンに向き直った。
「…………はい……わかりました……」
本当は怖いからやりたくないのだが……しかし、二人が争うのは嫌だし、二人が争っている間にヴァグデッドが暴れ出すのも嫌だ。
もう魔物なんかより、この二人の争いの方が恐ろしくなりそうだ。
俺は、恐る恐る、キラフェール殿下のそばでウィエフと対峙するティウルに声をかけた。
「ティウル……お、落ち着いてくれ」
「フィーディは黙ってて。だいたい、フィーディって、公爵家のご令息なんだろ? なら、僕の側につくべきじゃない?」
「僕の側と言われても困る……俺はその家から命を狙われているんだ。それに俺は、王子殿下にも命を狙われてるし……」
「大丈夫。僕が伴侶になったら、殿下は一人ではもう何もしなくなるから」
「そういうのはやめてくれ! そもそも俺たちは、キノコを探しにきたんだろう? もうすぐ、キノコのあるあたりに着く。急ごう……」
「……いいよ…………途中であいつ、殺していく」
「それはやめてくれ。頼む。落ち着いてくれ……」
ダメだ。ティウルはすっかり、ウィエフのことしか見えなくなっている。殿下に手を出したのが、よほど気に入らないらしい。
ウィエフの方は、ルオンに言われて大人しく頭を下げている。けれど、多分それはルオンの前でそうしているだけだ。ルオンがいなくなったら、絶対にティウルと喧嘩始める。
ティウルは俺の言うことなんかまるで聞いてくれないし、「フィーディも、あいつに命狙われてるなら、あいつ殺すの手伝って」と言い出す始末。俺は殺人の片棒なんて担ぎたくない。
すると、俺に抱っこされたままのヴァグデッドが、顔を上げて言った。
「ティウルーー。ウィエフにばっかり構っていると、王子が拗ねちゃうよ? 後ろで震えているみたいだし、今チャンスじゃない?」
「……そうだね……」
今度は存外あっさり答えて、ティウルは王子に駆け寄っていく。あくまで大事なのは王子らしい。
彼がそう言ってくれて、ほっとした俺は、腕の中のヴァグデッドを見下ろした。
「……あ、ありがとう……」
「面倒なこと引き受けないで、放っておけばいいのに」
「そ、そういうわけにはいかない……」
俺はティウルが誰かと争うなんて嫌だ。
ティウルは王子に駆け寄り、ご無事ですかとたずねていた。
「殿下のことは、僕がお守りします」
「ティウル…………あ、ありがとう……」
そう言って王子は、ティウルが差し出した手をとっている。
ティウルがまるで、勇敢な騎士に見えるが、それを台無しにする、彼が右手に握った瓶を、俺は慌てて握って止めた。殿下には見えないように背中に隠しているけど、俺はティウルの背後にいたから、ずっと見えていた。
「い、今はやめておこう……それがなくても、殿下はティウルを愛してくれる」
「えーー? これはただの回復の薬だよ?」
「……そんな怪しい瓶に入った怪しい色の回復の薬なんて見たことがない…………さっき作っていたものだよな?」
「なんのこと?」
普通に笑顔でとぼけるな……あの時、薬を作っていたのを見てなかったら、誤魔化されそうだ。
俺に見つかったからか、ティウルは薬の瓶をしまってくれたけど、殿下から目を離さないようにしなくては……
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