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50.ずいぶん懐いているんだな
しおりを挟む「それより、フィーディは何してたの? ウィエフのこと、呼んでたみたいだけど」
ティウルに言われて、俺は慌てて倒れていたウィエフに駆け寄った。やっぱりちゃんと息もあるし、無傷だ。
「ヴァグデッド! ティウル! 助けてくれっ……! ウィエフが倒れたままで……回復の魔法をかけてくれ!」
「放っておけばいいよ」
あっさり言うティウル。彼は本当に、殿下以外にはひどく冷たい。
ヴァグデッドも「必要ない。すぐに目を覚ます」なんて言っている。
「で、でもっ……! 俺は見たんだ!! ルオン様が、ウィエフを雷撃で打つのを!」
喚く俺に、ヴァグデッドが呆れたように言う。
「またやってたの? それくらい、いつものことだよ」
「は!? い、いつものっ!? で、でもっ……!」
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俺を探してきたのか!? それとも、倒れたウィエフの様子を確かめに来たのか!?? どっちにしろ、まずいっ!! まだウィエフは目を覚ましていないのに! せめてウィエフの目が覚めるまで、ここに来られたら困るっ……!
「ど、どうしようっ……! まだ、ウィエフがっ……!」
すると、抱っこしていたヴァグデッドが、俺を見上げて言った。
「俺が足止めしてあげる。その間に、ウィエフを殺しておいてね」
「は!? おいっ……!」
「ちょうどいい憂さ晴らしになるーー!」
「ま、待て!!」
俺が止める間もなく、ヴァグデッドはルオンにむかって飛んでいく。心配だったけど、俺は彼の背中に向かって叫んだ。
「や、やりすぎるなよ!」
それからすぐにウィエフに駆け寄る。そして、ティウルに回復の魔法をかけるように頼むけど、ティウルは全く聞いてない。それどころか、俺から少し離れたところで、瓶の中に変な形の木の実をいくつも詰め込んでいる。
無視か! こうなったら自分で起こす!
「し、しっかりしろ!!! ウィエフっ……!! ウィエフ!! お、起きてえええっっ!!」
無我夢中でウィエフを揺り動かすと、彼は、呻いて目を覚ました。
よ、良かった……
ホッとする俺だけど、ウィエフは早速、俺を睨みつける。
「貴様……フィーディ……なぜ貴様がここに……」
「だ、だって、さっき……ルオン様に……そ、そんなことより、回復をっ……!」
焦っていると、瓶一杯に謎の木の実を詰めたティウルが近づいてきて、呆れたように言う。
「必要ないよー……無傷だし、気絶してただけだろ?」
「黙れ。私だって、あなたに魔法をかけられたくはありません」
ウィエフは平然と立ち上がる。どうやら、本当に無傷で、なんともなかったらしい。
「……あんなに強いに雷撃を打たのに……」
「……見ていたんですか? いやらしい」
「……」
何がどういやらしいと言うんだ。俺は覗き見をしていたわけではないぞ。
ティウルには「だから言ったのにー」と笑われてしまう。
だけど、とりあえずウィエフが無事でよかった。
ヴァグデッドが飛んでいった空に振り向くと、激しい爆発の音と共に煙が上がる。
ウィエフも、それを聞いて驚いたのか、焦った様子でそっちの方に走って行こうとする。
俺は慌ててそいつの腕を握って止めた。
「ま、待ってっ……! ヴァグデッドには、ルオン様を傷つけるつもりなんてないっ……! 足止めをしてくれているだけでっ……! る、ルオン様はあなたを殺そうとしているんじゃないのか!?」
叫んでも、ウィエフは俺の話なんて、まるで聞いていない。
それどころか、ルオンに向かって叫んだ。
「ルオン様っ……! そんな奴の相手ばかりしないでください!」
彼は俺を振り払い、魔法で空を飛び、ヴァグデッドの相手をしていたルオンに飛びついていく。
「ルオン様っ……!! ご無事ですか!??」
「ウィエフ……」
面倒臭そうに言って振り向いたルオンは、ウィエフの手を取って、地上に降りてくる。
捕まったウィエフは、先ほど雷撃で撃たれたにも関わらず、怯えることもなく、むしろ嬉しそう。
「ルオン様……やっと、私の方を見てくれましたね……」
「……ウィエフ……悪さをするなと言っただろう……」
「私だって、ルオン様を困らせたくなどないのです。だけど……ルオン様がその公爵家の御令息ばかりに構うから……」
「私は公爵家から、フィーディを頼むと言われている。彼の警護も、私の役目だ」
それを聞いたウィエフは、無言で俺に振り向く。そして、大きく見開いた目で、じーーーーっと、俺のことを見つめていた。
怖い。なぜそんな目で見る。俺がルオンに警護されいるのは、俺のせいではないだろう。
「あの……ルオン様……」
「どうした?」
「……公爵家からは、俺はいつ死ぬんだって、しつこく聞かれてるんですよね? だったら、俺のことは……守っていただかなくて結構です。ルオン様には、王子殿下の護衛もあることですし、俺のことは気にしないでください」
「そんなわけにはいかない。この城へ来て、私に師事する以上、あなたもこの城の大事な一員だ。何があっても、殺させはしない」
「でもっ……!! 公爵家は……」
「ヴィーフ家がなんと言おうが、あなたはここの一員だ」
「ルオン様…………」
くそ……そんなことを言われたら嬉しいじゃないか。俺は、ルオンに守られないことで、ウィエフの嫉妬をかわしたかっただけなのに。
この人が、ウィエフに手をあげたなんて、何かの間違いのような気がしてくる。
じっと見上げていたら、突然、後ろから襟を引っ張られた。
「うわっ……!!」
振り向くと、ヴァグデッドが俺の襟首に食いついている。
「なに他の男になびいてるんだよ」
「へっ……!? な、何を言っているんだ……そんなつもりはない。ただ、嬉しかっただけだ。あ…………お、お前にも……毎回、守られて……その、そ、そんなこと、これまでなかったから……あの…………」
な、なんだか、話しながら、すごく恥ずかしくなってきた……
俯いていたら、ヴァグデッドも頭をかきながら、俺に背を向ける。
か、かすかに顔が赤くなってなかったか……? 気のせいかな……
彼は、クルンと回りながら、ルオンに言った。
「あー……だ、だから……俺のものを誘惑するな!」
「……ずいぶん懐いているんだな……」
「そうだよ。なんか文句ある?」
「いいや……お前にそんな人ができたのならよかった」
あっさり言われて、ヴァグデッドはすぐに彼からも顔をそむけた。
すると今度は、ティウルが声を上げる。
「そんなことより、殿下をさがしましょう! ここにウィエフ様とルオン様がいるなら、殿下のそばには、森に詳しい人が一人もいないことになります!」
「あ、ああ……そうだった。すぐに行こう」
ルオンがそう言うと、ウィエフが唐突に手を挙げて提案した。
「手分けして探しましょう」
ウィエフの意見に、みんなしんとなる。
それもそのはず。無表情で、じーーっと俺を見つめているウィエフが、手分けをして、いなくなった王子を探そうなんて、考えているはずがない。
絶対に森の中で俺を殺す気だろう!
すると今度は、そんなウィエフを睨みながら、ヴァグデッドが手をあげた。
「さんせーい。手分けしようーー。暗い森の中だから、どこから魔物が襲ってくるか、分からないねー、ウィエフ?」
「なんのことでしょう?」
睨み合う二人は、絶対に王子なんか探しそうにない。ヴァグデッドは牙をむき出しにしていて、今にもウィエフに食いつきそうだ。
ルオンもそう思ったらしく、キッパリと言った。
「手分けはダメだ。全員で探す」
「……」
すると、今度はティウルが手をあげた。
「はーい! じゃあ、僕だけは手分けで殿下を探しまーす!」
「探すな。あなたにも私と共に来てもらう」
「えーー……抜け駆けのチャンスなのに…………ルオン様はウィエフ様の手綱握っておいてくださいよー」
「私は城の主だ。あなたのことも、任されている。それに、魔物よりあなたの方が、どちらかというと危険に見える」
「えー……なんのことですか?」
とぼけるティウルだけど、ルオンの冷たい視線は変わらない。ルオンも、ティウルのことは警戒しているらしい。
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