上 下
50 / 96

50.ずいぶん懐いているんだな

しおりを挟む

「それより、フィーディは何してたの? ウィエフのこと、呼んでたみたいだけど」

 ティウルに言われて、俺は慌てて倒れていたウィエフに駆け寄った。やっぱりちゃんと息もあるし、無傷だ。

「ヴァグデッド! ティウル! 助けてくれっ……! ウィエフが倒れたままで……回復の魔法をかけてくれ!」
「放っておけばいいよ」

 あっさり言うティウル。彼は本当に、殿下以外にはひどく冷たい。
 ヴァグデッドも「必要ない。すぐに目を覚ます」なんて言っている。

「で、でもっ……! 俺は見たんだ!! ルオン様が、ウィエフを雷撃で打つのを!」

 喚く俺に、ヴァグデッドが呆れたように言う。

「またやってたの? それくらい、いつものことだよ」
「は!? い、いつものっ!? で、でもっ……!」

 その時、背後のほうで、大きな音がした。森の木々が焼けて、灰になって空に浮き上がり、キラキラ光りながら消えていく。恐ろしい魔力だ。
 空は光の粒に照らされて、明るくなった夜空を、ルオンが飛んでくる。

 俺を探してきたのか!? それとも、倒れたウィエフの様子を確かめに来たのか!?? どっちにしろ、まずいっ!! まだウィエフは目を覚ましていないのに! せめてウィエフの目が覚めるまで、ここに来られたら困るっ……!

「ど、どうしようっ……! まだ、ウィエフがっ……!」

 すると、抱っこしていたヴァグデッドが、俺を見上げて言った。

「俺が足止めしてあげる。その間に、ウィエフを殺しておいてね」
「は!? おいっ……!」
「ちょうどいい憂さ晴らしになるーー!」
「ま、待て!!」

 俺が止める間もなく、ヴァグデッドはルオンにむかって飛んでいく。心配だったけど、俺は彼の背中に向かって叫んだ。

「や、やりすぎるなよ!」

 それからすぐにウィエフに駆け寄る。そして、ティウルに回復の魔法をかけるように頼むけど、ティウルは全く聞いてない。それどころか、俺から少し離れたところで、瓶の中に変な形の木の実をいくつも詰め込んでいる。

 無視か! こうなったら自分で起こす!

「し、しっかりしろ!!! ウィエフっ……!! ウィエフ!! お、起きてえええっっ!!」

 無我夢中でウィエフを揺り動かすと、彼は、呻いて目を覚ました。

 よ、良かった……

 ホッとする俺だけど、ウィエフは早速、俺を睨みつける。

「貴様……フィーディ……なぜ貴様がここに……」
「だ、だって、さっき……ルオン様に……そ、そんなことより、回復をっ……!」

 焦っていると、瓶一杯に謎の木の実を詰めたティウルが近づいてきて、呆れたように言う。

「必要ないよー……無傷だし、気絶してただけだろ?」
「黙れ。私だって、あなたに魔法をかけられたくはありません」

 ウィエフは平然と立ち上がる。どうやら、本当に無傷で、なんともなかったらしい。

「……あんなに強いに雷撃を打たのに……」
「……見ていたんですか? いやらしい」
「……」

 何がどういやらしいと言うんだ。俺は覗き見をしていたわけではないぞ。

 ティウルには「だから言ったのにー」と笑われてしまう。
 だけど、とりあえずウィエフが無事でよかった。

 ヴァグデッドが飛んでいった空に振り向くと、激しい爆発の音と共に煙が上がる。
 ウィエフも、それを聞いて驚いたのか、焦った様子でそっちの方に走って行こうとする。

 俺は慌ててそいつの腕を握って止めた。

「ま、待ってっ……! ヴァグデッドには、ルオン様を傷つけるつもりなんてないっ……! 足止めをしてくれているだけでっ……! る、ルオン様はあなたを殺そうとしているんじゃないのか!?」

 叫んでも、ウィエフは俺の話なんて、まるで聞いていない。
 それどころか、ルオンに向かって叫んだ。

「ルオン様っ……! そんな奴の相手ばかりしないでください!」

 彼は俺を振り払い、魔法で空を飛び、ヴァグデッドの相手をしていたルオンに飛びついていく。

「ルオン様っ……!! ご無事ですか!??」
「ウィエフ……」

 面倒臭そうに言って振り向いたルオンは、ウィエフの手を取って、地上に降りてくる。

 捕まったウィエフは、先ほど雷撃で撃たれたにも関わらず、怯えることもなく、むしろ嬉しそう。

「ルオン様……やっと、私の方を見てくれましたね……」
「……ウィエフ……悪さをするなと言っただろう……」
「私だって、ルオン様を困らせたくなどないのです。だけど……ルオン様がその公爵家の御令息ばかりに構うから……」
「私は公爵家から、フィーディを頼むと言われている。彼の警護も、私の役目だ」

 それを聞いたウィエフは、無言で俺に振り向く。そして、大きく見開いた目で、じーーーーっと、俺のことを見つめていた。

 怖い。なぜそんな目で見る。俺がルオンに警護されいるのは、俺のせいではないだろう。

「あの……ルオン様……」
「どうした?」
「……公爵家からは、俺はいつ死ぬんだって、しつこく聞かれてるんですよね? だったら、俺のことは……守っていただかなくて結構です。ルオン様には、王子殿下の護衛もあることですし、俺のことは気にしないでください」
「そんなわけにはいかない。この城へ来て、私に師事する以上、あなたもこの城の大事な一員だ。何があっても、殺させはしない」
「でもっ……!! 公爵家は……」
「ヴィーフ家がなんと言おうが、あなたはここの一員だ」
「ルオン様…………」

 くそ……そんなことを言われたら嬉しいじゃないか。俺は、ルオンに守られないことで、ウィエフの嫉妬をかわしたかっただけなのに。

 この人が、ウィエフに手をあげたなんて、何かの間違いのような気がしてくる。
 じっと見上げていたら、突然、後ろから襟を引っ張られた。

「うわっ……!!」

 振り向くと、ヴァグデッドが俺の襟首に食いついている。

「なに他の男になびいてるんだよ」
「へっ……!? な、何を言っているんだ……そんなつもりはない。ただ、嬉しかっただけだ。あ…………お、お前にも……毎回、守られて……その、そ、そんなこと、これまでなかったから……あの…………」

 な、なんだか、話しながら、すごく恥ずかしくなってきた……
 俯いていたら、ヴァグデッドも頭をかきながら、俺に背を向ける。
 か、かすかに顔が赤くなってなかったか……? 気のせいかな……

 彼は、クルンと回りながら、ルオンに言った。

「あー……だ、だから……俺のものを誘惑するな!」
「……ずいぶん懐いているんだな……」
「そうだよ。なんか文句ある?」
「いいや……お前にそんな人ができたのならよかった」

 あっさり言われて、ヴァグデッドはすぐに彼からも顔をそむけた。

 すると今度は、ティウルが声を上げる。

「そんなことより、殿下をさがしましょう! ここにウィエフ様とルオン様がいるなら、殿下のそばには、森に詳しい人が一人もいないことになります!」
「あ、ああ……そうだった。すぐに行こう」

 ルオンがそう言うと、ウィエフが唐突に手を挙げて提案した。

「手分けして探しましょう」

 ウィエフの意見に、みんなしんとなる。 
 それもそのはず。無表情で、じーーっと俺を見つめているウィエフが、手分けをして、いなくなった王子を探そうなんて、考えているはずがない。
 絶対に森の中で俺を殺す気だろう!

 すると今度は、そんなウィエフを睨みながら、ヴァグデッドが手をあげた。

「さんせーい。手分けしようーー。暗い森の中だから、どこから魔物が襲ってくるか、分からないねー、ウィエフ?」
「なんのことでしょう?」

 睨み合う二人は、絶対に王子なんか探しそうにない。ヴァグデッドは牙をむき出しにしていて、今にもウィエフに食いつきそうだ。

 ルオンもそう思ったらしく、キッパリと言った。

「手分けはダメだ。全員で探す」
「……」

 すると、今度はティウルが手をあげた。

「はーい! じゃあ、僕だけは手分けで殿下を探しまーす!」
「探すな。あなたにも私と共に来てもらう」
「えーー……抜け駆けのチャンスなのに…………ルオン様はウィエフ様の手綱握っておいてくださいよー」
「私は城の主だ。あなたのことも、任されている。それに、魔物よりあなたの方が、どちらかというと危険に見える」
「えー……なんのことですか?」

 とぼけるティウルだけど、ルオンの冷たい視線は変わらない。ルオンも、ティウルのことは警戒しているらしい。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

処理中です...