悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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47.何をしているんだ!?

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「あの! ルオン様のことより、殿下はどこですか!?」

 怒鳴るように言って、ウィエフに詰め寄るティウル。彼には、何より殿下のことが大切らしい。

「ウィエフ様は殿下の護衛ですよね? こんなところで、何をなさっているのですか?」
「キノコを探す途中、魔物の大群に襲われて、私は囮となってここまで来たのです。殿下のそばには、私が魔法を教えた魔法使いたちがいます。問題なく、先に進んでいるはずです」
「そんなの、無事とは限らないじゃないですか! 僕のものになる予定のものに傷でもついたらどうするんだよ……せっかく強力な惚れ薬ができたのに……」
「……惚れ薬?」
「なんでもないです。惚れ薬なんて、あなたの聞き間違いです」
「……殿下のことより、ルオン様はどうなさったのです? あなたたちと一緒にいたのではなかったのですか?」
「ルオン様はあなたを追って、森の中に入っていきました。殿下の護衛が重荷なら、僕に任せてくれませんか!? あなたはルオン様のそばにいればいいじゃないですか!!」
「…………ルオン様が、私に殿下の護衛につくようにおっしゃるのです……そうでなければ、誰があんな下衆のお守りなんて……」

 ……なんだかすごいことを言っていないか?

 よほどウィエフは王子殿下の護衛が嫌らしい。

 しかし、一応ウィエフは王城に仕える身。それなのに、王子を下衆なんて言っていいのか? それに、そんな理由で王子殿下を放っておいたらまずい。こんなところで殿下が行方不明になれば、俺たちが責任を取ることになる。

「あ、あのっ……! とりあえず……王子殿下を探しませんか? この森は魔物が多いし、危険だと思います……」

 相手の身の安全より、自分の保身で頭がいっぱいの自分に嫌気が差しつつ、恐る恐る俺が提案したその時、森に、不気味な咆哮が響き渡った。魔物の声だ。

 空を見上げれば、夜空の星を覆い隠すくらい巨大な、黒い雲のような形の魔物が浮いていた。雲が光り輝き、それから輝く針が雨のように俺たちめがけて降ってくる。

 とても避けられないようなそれを、小さな竜の姿のままのヴァグデッドが、吹いた炎で焼き払った。

「フィーディは、ここにいて」
「で、でも……」
「すぐ戻るー」

 彼はそう言って、空に飛び上がる。すぐにそれを、ティウルが追っていった。

「待ってよっ……! そんな大きな魔物の素材を独り占めなんてずるい!!」

 彼も、魔法で空を飛んで、魔物に向かっていく。あの二人には恐れはないのだろうか。

 彼らが負けるとは思えないけど……無事にすぐに帰ってきてほしい。

 そう思って見上げていると、いつのまにか、ウィエフと二人きりになっていることに気づいた。

 俺がルオンに近づいているというのは誤解だって、分かってくれたんだよな?

 だけど、いざ二人きりになると、やっぱりまだ怖い。

「……あ、あの……王子殿下とはぐれたのって、どのあたりですか?」
「ルオン様!?」
「え? あっ……!」

 ウィエフは、何かを見つけたのか、真っ暗な森の奥の方に走っていく。まだ回復しきっていないのに、魔物がうろつく森になぜ一人で走っていく!??

「あ、あのっ……! ま、待ってっ……!」

 手負のウィエフより、この島を管理しているルオンの方が、魔物退治の能力に関しては長けているはずだ。だったら、こんな暗くて視界も悪い中、回復していない体で、魔物がいっぱいうろついている森の中を走らなくてもいいだろう!

 ……そんなに、ルオンのことが好きなのか?

 暗い森の中を走っていると、足を木々の根に取られ、転んでしまう。

 起き上がった時には、ウィエフの姿はすでに森の中に消えていた。しまった……見失った!

 あたりをキョロキョロしてみる。
 森は真っ暗で、何も見えないくらいだったけど、遠くに、小さな光が見えた。魔法の光だ。

 ウィエフが作ったものか? いや、違う。

 小さなランタンくらいの光のそばには、ルオンが立っている。そして、彼にウィエフが駆け寄って行った。どうやら、探していた人に会えたらしい。
 ルオンは怪我をしているようではないし、周りに魔物もいない。無事だったんだ。よかった……

 ルオンは、駆け寄るウィエフに気づいて、彼に振り向き手を上げている。

 二人とも、会えてよかった……

 出ていくタイミングを失ってしまったな。

 だけどウィエフは嬉しそうだし、俺は邪魔なのかもしれない。だったら、出て行くのも野暮か? これ以上、ウィエフには敵意を持たれたくない。

 二人とも嬉しそうに話しているんだし、俺は邪魔なら出ていくべきではないだろう。ヴァグデッドたちが戻ってくるのを待つか……

 そう思って、その場でじっとしていると、突然、ルオンの手に、魔力の光が宿る。それは激しい雷撃に姿を変えて、ウィエフの体を貫いた。

 崩れるように、その場に倒れていくウィエフ。ルオンはそれを、微動だにせずに見下ろしていた。
 倒れたウィエフに手を貸す様子もないし、回復の魔法をかけているようにも見えない。

 え……え?

 今、ウィエフに向かって、ルオンが魔法を放った? なんで??

 ウィエフは今、何かをしようとしていたようには見えなかった。ウィエフが先に手を出したのではなく、ルオンから、ウィエフを傷つけたんだ。

 な、何をしているんだ!??

 ルオンがウィエフを傷つけるなんて……

 理由はわからないが、ウィエフは倒れてしまった。救助に向かうべきだ。
 それなのに、動けない。
 なんで、ルオンはあんなに冷たくウィエフを見下ろしているんだ。

 倒れたウィエフの体は、草むらの中に隠れて見えないままだ。ま、まさか、死んだりしてないよ……な? ルオンがウィエフを殺すはずがない。……と、思う。

 じっと立ち尽くしたまま様子をうかがっていると、突然、ルオンは俺の方に振り向いた。

 慌てて隠れる。

 み、見つかった!??

 草むらの中で息を殺す。

 なんで俺は隠れているんだ? 相手はルオンなのに。

 ウィエフが倒れたのだって、もしかしたら、俺の見間違いかもしれない。
 倒れたように見えたけど、本当はまだ体が回復しきっていないことが原因で倒れただけかもしれない。
 暗かったし、遠かったし、魔物か何かと見間違えたのかもしれない。
 もしかしたら、別の原因で倒れたのかもしれないじゃないか。

 そうだ。きっと俺の勘違いだ。俺はいつも、そそっかしい。きっとそうだと、何度も自分に言い聞かせているのに、俺はずっと、草むらで息をひそめたまま。

 と、とりあえず、ヴァグデッドとティウルのところまで、こっそり見つからないように逃げよう……

 だけど、もたもたしていると、頭の上から、声がした。

「フィーディ? そこで何をしている?」
「……っっ!!!!」

 びっくりしすぎて、本当に心臓が止まりそうになった。一気に変な汗で全身が濡れる。今の声は、ルオンの声だ。

 どうしよう……

 草むらにしゃがみ込んだままじゃ、どうしようもないのだが、恐怖で体が動かない。

「フィーディ? どうした? 動けないのか?」

 そう言われて、頬に、何か冷たいものが当たる。
 俺の口元から、「ひっ……!」と、微かに息だけが漏れて、俺はウサギみたいに跳ねて飛び退いて振り向いた。

 するとそこには、微かな魔法の明かりを顔のすぐそばに浮かせて、俺を見下ろしているルオンがいた。

「る……る、ルオン……様……」
「どうした? そんなに震えて……寒いのか?」

 彼が、俺に向かって、手を差し出している。どうやら、さっき俺の頬にあたったのは、彼の手だったらしい。

「い、いいいいいえ!! そ、そんな! そんなことは決してありません!! た、ただ、ち、ちょっ……びっくり、し、た、だけ……」

 だめだ。言葉が全く出てこない。
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