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46.そんな奴らばっかりだな
しおりを挟む結局、ティウルの回復の薬っぽいものは、ヴァグデッドが焼き尽くして、眠ったままのウィエフには、ヴァグデッドが回復の魔法をかけてくれた。
ヴァグデッドも、冷たいことを言っていたけど、ウィエフのことが心配だったんだ。
「お前もウィエフのこと、気にかけていたんだな」
と、回復が終わったヴァグデッドに声をかけるけど、彼にはふいっと顔を背けられてしまう。どうしたんだろう……
ウィエフは、魔物との戦闘で怪我をしていたけど、それもヴァグデッドの魔法で癒えた。
傷が治ると、ウィエフは何度かうなされたように苦しそうな声をあげ、目を覚ます。
「……フィーディ……??」
「あ、あのっ……こ、こんばんはああっ!!」
起きるなり、彼は俺に短剣を向ける。
それはそうだろう。怒っていて当然だ。何しろさっきは、魔物との戦闘の途中で眠らせてしまったんだ。魔物を使って殺そうとしたんだと思われても仕方がない。
「あ、あのっ……! すみませんごめんなさい悪気はなかったんです!!」
涙目で言う俺の前に、小さなヴァグデッドが飛んできて、ティウルも不気味な瓶を持って駆け寄ってくる。
「なんなのお前。今度は俺に殺されたい?」
「殿下はどうしたの!? 殿下はどこ!!?? まさか僕を差し置いて、殿下を監禁してるんじゃないだろうね!?」
二人に喚かれて、ウィエフはすぐに言い返すかと思いきや、頭を押さえながらふらふらと数歩下がり、さっき俺に向けた短剣をぶら下げたまま、あたりを見渡していた。
「……ここは、一体……な、何があったのですか……?」
「へ!? お、覚えていないんですか?」
俺が尋ねると、彼は頷いた。
「…………魔物に襲われたところまでは覚えているのですが……頭がふらふらする…………」
彼はこめかみに手を当てていて、なんだか苦しそうだ。どうやら、本当に覚えていないらしい。
俺が間違えて眠りの魔法をかけてしまったことを忘れてくれたのはありがたい。けれど、それを覚えていないと言うことは、さっきは理由なく俺に切り掛かってきたことになる。それはそれでもっと怖い。
ウィエフは、俺を睨みつけて言った。
「あなたはなぜこんなところにいるのですか?」
「へ!? あ、えっと……え、えっと……キノコを探していたら、ここに来ていて……そ、そしたら、あなたが魔物に襲われていたのが見えたので……そ、その……とっさに、魔物に眠りの魔法をかけて………………」
嘘ではないが、しどろもどろだ。
キノコを探していたことも、魔物に魔法をかけたことも本当で、嘘はついていないが、ウィエフも間違えて眠らせたことは話していない。
だけど、話したら絶対に首を切られる。
それを承知で話せるほどの勇気もなく、正直でもない俺は、罪悪感に苛まれながら話しつつ、ウィエフが無事だったことを喜んでいた。
「ぶ、無事でよかったっ……」
「そうですか…………」
「あ、あの……」
「助けていただき、ありがとうございました」
「へ!!??」
「危ないところでした。あなたのおかげです」
「…………」
あ、頭でも打ったのか? ウィエフが俺にお礼を言っている。
……そういえば打っていた! 俺の魔法で倒れた時だ! そ、そのせいでどこかおかしくなったのか!? ……全部、俺のせいではないか。
「あ、あの……」
「ここの魔物は他より強力なんです。それなのに、私としたことが油断していました」
「……」
それは、俺が眠らせたせいであって、彼の油断のせいではない。良心がずきんずきん痛む。
俺は、そんなふうに素直にお礼を言われていいような人間ではないんです。
「あ、あの……い、いえ……本当にっ……! すみませんっ……!」
「……何がです?」
「ぶ、無事でよかったです……本当に……ごめんなさい……」
「…………ところで、キノコは見つかりましたか?」
「へ? あ、えっと……まだ……わ!」
答えかけた俺の前に、ヴァグデッドが飛んでくる。
「何素直に答えてるの!」
「え、だ、だって……聞かれたし…………」
「聞かれたからって答えない!」
「あっ…………! う、うん……」
慌てて頷いた。俺はそもそも、ウィエフにキノコを渡さないようにするために、ここまで来たんだ。
ウィエフはいずれ、死の魔法で王族の虐殺を企む。おそらく、ヴァグデッドを脅してても魔法を強化したいのはそのためだ。
だけど……ウィエフが王国滅亡のために動き出すのって、ゲームでは終盤くらいになってからだったのに……
それに、ウィエフが王国滅亡を企んでいるって言うなら、ヴァグデッドはキノコを手に入れて王国を焼き払いにいくつもりだし、ティウルはいずれ王国を統べるはずの王子に、怪しげな薬を作って飲ませようとしている。
誰の手にキノコが渡っても、バッドエンドになるような状況を、なんとかしなくてはならない。
まだ、ルオンやキラフェール殿下がいる。
ルオンは王国の滅亡なんて企まないはずだし、キラフェール殿下のことは怖いけれど、キノコを手に入れても、王国の滅亡なんて考えないはずだ!
「あ、あの…………な、なんでこんなところに、お一人でいたのですか? 殿下や、ルオン様はっ……!」
尋ねる俺に、ウィエフが急に迫ってくる。震え上がる俺に、ウィエフは冷たい目をして言った。
「前から感じていたのですが」
「は!? え!!?? な、何をっ……!?」
「あなたは少し、ルオン様を気にしすぎではありませんか?」
「え? えっと……」
彼は俺をますます睨みつける。
本当に、なんでこんなに敵視されているんだ。
ヴァグデッドが言っていた通り、俺がルオンに近づくからなのか? 俺が、ルオンの周りをチョロチョロしてるって思っているのか?
もしかして、ウィエフって、ルオンに気があるのか? そんな設定、あったかな……
だけど、ティウルはキラフェール殿下のことが好きなようだし、それなら、ウィエフとルオンの仲が深まっても、バッドエンドにはならないか……
もしも、ウィエフがルオンを思っているなら、ティウルの時みたいに、誤解さえ解けば、彼の俺に対する敵対心も消えるかもしれない。そうなれば、俺と彼が対立する理由はなくなる!!
「あ、あのっ……ウィエフさんは、る、ルオン様と……な、仲がいいんで、すね……」
「……そう見えますか?」
嬉しそうだな。そんな嬉しそうな顔、初めて見たぞ。
やっぱりか……だったら!! 攻略の糸口はある!!
「はい!! い、いつも一緒だし……あのっ……! 俺は、ルオンに気があるわけではないんです!!」
「そうですか……」
「は、はい……俺、よく誤解されるんですけど……」
「それは良かったです」
彼は、にっこり笑ってくれる。
やった……!! やったぞ! ついにうまくいったんだっ! こんなこと、ほとんどないから嬉しい。 さっきは魔物も倒せたし、すごいぞ! 俺!!
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