悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
45 / 96

45.そんなにそいつを助けたかった?

しおりを挟む

 まるでやる気のない二人を置いて、俺はウィエフが襲われている方に走った。

 はっきり言って怖いし、行きたくなんかないし、できるなら無視しておきたいが、すぐそばで人が襲われているのも怖い。それを無視するのも怖い。万が一、死んじゃったりしたら、もっと怖い。
 正義感はまるでないが恐怖に負けた俺は、ビクビクしながら、魔物が放つ光の方に近づいていった。

 真っ暗な中、草むらを抜け、たまに木にぶつかりながら歩くと、背後からにゅっと、ぼんやりした光が出てきた。

「ひ、人魂っっ!?」

 びっくりして飛び退くと、今度は背後にあった木に頭をぶつけた。痛い……

 出てきた光はもちろん人魂ではなく、魔法の明かりだ。ヴァグデッドの魔法らしい。彼は明かりの下をパタパタ飛びながら、堪えきれないと言った様子で笑っている。

「人魂だってー」
「う、うるさい!!! な、なんだ! 結局ついてきたのか!!??」
「だって、魚、美味しそうに焼けたんだもん。食べてよ」
「なぜ人が襲われてる時に魚を食べるんだ!」

 と怒鳴っても、彼は串焼きにした魚を咥えて楽しそう。ティウルの方は、「コーヒーが入ったよ」なんて言いながらマグカップを持ってくる。
 なぜこんな時に二人とも俺に食事を勧めてくるんだ。彼らは怖くないのか?

 しかし、断る勇気も持てなくなってきた俺は、串焼きの魚を口の中に突っ込んで、マグカップも受け取った。

「あ……これ、うまい……」
「だろ?」

 ちょっと得意げに言うヴァグデッドは、なんだか楽しそうで、少し心が温かくなるけど、そんなことしてる場合じゃない!

「じ、じゃなくてっ……! ウィエフはどこだ!? く、暗くて見えないんだっ……! 魔法で照らしてくれ!」
「…………そんなにあいつが心配なの?」
「頼む!! お、俺にはできないんだ! 頼めるのはお前だけなんだ!」
「…………俺だけ?」
「は、早く!!」
「……今回だけだよ」

 ヴァグデッドはそう言って、ウィエフがいた方に魔法の光を飛ばす。すると、少し離れた木々の向こうに、弱い光に照らされた、ウィエフの姿が見えた。
 ウィエフを追っているのは、彼の身長を遥かに凌駕する大きさの真っ黒な蜘蛛のような魔物だ。
 ウィエフは、自分を照らす光に気づいたようだけど、こっちには一瞬視線を送っただけで、すぐに魔物に向き直り、自分に向かって振り下ろされる魔物の足を避ける。同時に魔物に向かって魔法の光を放つけど、それは効かなかったようだ。魔物は微かに怯んだだけで、すぐにウィエフに向かっていく。

 彼を追う魔物には、さっきから魔法がほとんど効いていない。かなり不利な状況なんじゃないか?

「な、なあ……ヴァグデッド……あ、あれ……だ、大丈夫なのか?」
「……かなり力の強い魔物みたいだけど、ウィエフなら、死にかけるくらいにまで追い込まれれば勝てるんじゃない?」
「は!? え!? そ、そんなにまずいのか!? 落ち着いてる場合じゃないだろ!」
「監獄の島だから。それくらい、いつものことだ。心配しなくてもいい。放っておけ」
「ば、馬鹿言え! だからって、見てるなんて良くないっ……!」

 なんて、偉そうに言いながらも、俺には助ける力なんてない。とは言え、放ってはおけない。

 そうだ! 俺は眠りの魔法を強化したんだ!!

「ヴァグデッド!! 魔物の位置がわかるように照らしていてくれ!」

 叫んで、俺は魔物に向かって、思いっきり魔法を放つ。さっきだってできたんだ!! 俺にだって、できるんだ!!

 けれど、俺が放った魔法は魔物ではなく、それに応戦しようとして飛びかかるウィエフに当たってしまう。
 ウィエフはふらふらと木にもたれかかり、そのまま動かなくなった。

 う、嘘だろっ……! はずした!? しかもこんな時に限ってめちゃくちゃ効いてる!!

 真っ青になる俺の横で、ヴァグデッドは「眠らせて殺そうなんて、やるねー」なんて言って大笑いしているけど、そんなことしてる場合じゃない。
 ウィエフと戦っていた魔物は、その足を大きく振り上げて、今にも彼の体を切り裂いてしまいそう。

「い、今のはっ……ね、狙いが外れたんだ!」

 言い訳をしながら走って、ウィエフに駆け寄る。
 彼は、木に寄りかかったまま動かない。立ったまま眠ってしまっているんだ。

「お、起きてっ……! 起きてください! 起きて起きて起きて!! ま、魔物が来てるっ……!! 起きて起きて起きてーー!!」

 いや、違う!! 魔法で魔物を眠らせればいいんだ!

 俺は飛びかかってくる魔物に向かって魔法を放った。今度は遠くから動く魔物を狙うんじゃなくて、自分に向かってくる魔物を狙うんだから、外さなかった。

 魔物は俺の目の前で倒れて、その体が崩れていく。

 あ、当たった……成功した……

「や、やった…………やった……」

 まだ、恐怖が残っているようで、声も足も震えている。とっくに腰が抜けていたらしく、もう立っていられない。その場にへなへなと座り込む俺のすぐ背後で、声がした。

「大丈夫?」
「ヴァグデッド……なんだ……放っておけ、なんて言っておきながら……お前も来たのか……」
「…………フィーディが行っちゃうから。放っておけばいいのに。そんなにそいつを助けたかった?」
「お、襲われてたんだから……見てるわけにはいかないだろ……なぜ拗ねているんだ?」
「拗ねてない」
「そうか? さっきからひどく機嫌が悪いような気がしたのだが……お、俺が何か……き、気に食わないことをしたなら、教えてくれ……」
「別にしてない……」

 ……そうか? それにしては、さっきから目を合わせてくれない。

 ティウルも、多分素材を集めるためのものだろう大きな袋を持って、俺たちの方に走ってきた。

「フィーディ! ヴァグデッド!! 無事? 素材!」

 ……俺たちの無事を聞いているのか、素材の無事を聞いているのか、どっちなんだ……

 彼は、俺たちの前を素通りして、地面に散らかった魔物の破片を集め始める。

「よかった! 素材は無事だね!」
「……そうだろうと思ったよ」
「……? 何が?」
「……なんでもない」
「ウィエフはなんで寝てるの?」
「な、なんでって……見てなかったのか!?」
「素材に夢中だったんだもん。ウィエフのことはあまりにもどうでもよすぎて、見えてなかった」
「……俺が間違えて眠りの魔法をかけちゃったんだ……ま、まだ起きないし……あの……目を覚まさせる方法を知らないか?」
「これを飲ませれば起きるよ」

 そう言って、彼は怪しげな瓶を渡してくれた。瓶も不気味だけど、中身はもっと不気味だ。薬というより灰色の泥のようで、黒いもやのようなものが浮いている。その上、蓋がしてあるにもかかわらず、瓶全体から煙のようなものが出ている。

「こ、こんなの飲ませて……大丈夫なのか?」
「もちろん! よく効くよ!!」
「……で、でも……ウィエフは眠っているんだ。飲ませれば、と言われても、寝てる人相手に、どうすればいいんだ?」

 俺がたずねると、ティウルは自分の唇に人差し指で触れて、可愛く笑った。

「口移しで飲ませればいいよ」
「口移し!? これ、俺も口に入れなきゃダメなのか!?」
「自分で飲めないものを人に飲ませちゃダメだよー」
「もっともらしいことを言わないでくれ! だ、だったらティウルがやってくれよ!」
「嫌。僕には殿下がいるんだから」
「お、俺だって、こんな怖い薬嫌だ!」

 言い合っていたら、ヴァグデッドが俺の握っていた瓶を叩き落としてしまう。

「お、おいっ……! 何するんだっ……ヴァグデッド!??」

 彼は落ちた瓶に炎を吹いて焼いてしまう。一体何をしているんだ!?

 俺が止めてもやめてくれないし、ティウルはそれを見て大笑いしていた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

処理中です...