悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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43.初めて

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 ウィエフが一同の前でドアの鍵を開ける。扉の向こうには、鬱蒼とした森が広がっていた。この先は、魔物が溢れる森だ。貴重な素材も多くあるが、強力な魔法でないと傷ひとつつけることができないような魔物が闊歩する、危険な森だ。

 キラフェールは、俺たちに振り向いた。

「では、出発するか。フィーディ、せいぜい死なないように頑張ってくれ」

 そう言って彼はふわりと浮き上がると、護衛たちを連れて森の中を飛んでいってしまう。

「すごい……」

 つい、感嘆のため息をついてしまう。さすが王子。護衛を引き連れて森の中に飛んでいくその様すら優雅だ。あと、ちょっと言葉に棘があるあたり、ティウルに似ている。

 急に飛び出していくキラフェールを、ルオンが「お待ちください!!」と言って止めているけれど、キラフェールには聞こえていないようだ。
 ウィエフも、護衛たちと共に王子について行って、あっという間に一同は見えなくなった。

 王子の見えなくなった方を見つめて、ルオンは険しい顔をしていた。

「殿下……森の中は慣れている者でないと危険だと話したのに…………ウィエフ……あいつまで……」

 そう言う彼は、どこか冷たい目をしている。王家から、次期国王として期待されているキラフェール殿下がやってきて、かなり気が立っているらしい。

 それに……気のせいだろうか。

 ルオンはウィエフにだけ、ちょっと厳しい気がする。ウィエフの方は、ルオンにはひどく忠実なのに。

 だけど、ウィエフは魔法強化のためのキノコを狙っている。ヴァグデッドも、彼が魔法を強化して何をするつもりなのかは知らなかった。魔法の強化は誰もが望むことで、そのために手段を選ばない人は結構いるから、魔法を強化しようとしているだけで、犯人扱いはできないけど……ヴァグデッドを脅してまで強化がしたいなんて、あまり平穏な目的とは思えない。

「あ、あの……ルオン様……」
「どうした? フィーディ」
「あの……ウィエフから、目を離さないでください。彼は魔法を強化するための道具を欲しがっているようなんです……」
「…………ウィエフのことは、私に任せろ」
「は、はいっ……」
「代わりに、ヴァグデッドの監視を頼めるか?」
「へ!??」
「すまない……私がするはずだったのだが、キラフェール殿下を追わなくてはならない。魔物がうろつく森では、護衛を連れているとは言え、危険だ」
「……わ、わかりました。彼のことは、俺に任せてください」
「では、フィーディ、素材の回収を頼む。取りに行くものは分かっているな?」
「え? あ……は、はい!」

 ちょっとびっくりしたけど、さっきの、俺に素材の回収を頼むセリフは、ゲームの通り。

 王子が素材を集めるために先に森に入って行ってしまい、ルオンは王子を守るため、主人公とフィーディに素材集めを託して、森の中に一足先に入っていく。
 彼らが魔法で猛スピードで飛んでいくのを見て、主人公は「早くあんな魔法を使えるようになりたいね」といって、魔法を学ぶことへの決意を固めるんだ。
 ティウルは王子の去っていった方を見つめながら、「もうすぐ僕のものー」なんて言ってニコニコしているけど……

 ルオンは、ヴァグデッドに振り向いて釘を刺す。

「決して暴れるなよ……」
「分かってまーす!!」

 ヴァグデッドがそう言って手を上げると、ルオンは俺たちに背を向けて飛んでいった。

 それを見送ってから、ティウルは楽しそうに俺たちに振り向く。

「じゃあ、僕たちも行こう! いい素材が見つかるといいね!」

 そう言って意気揚々と魔法を使って飛んで、森に入っていく。ティウルは怖くはないのだろうか。

 すでに夜を迎えて、森の中は真っ暗。微かに風が吹いて、ザワザワと木々が揺れている。つまり、不気味なことこの上ない。この中に入るのか……

 俺も森に入るけど、当然俺に、空を飛ぶ魔法なんて使えない。ビクビクしながら森の中を歩いていると、隣を飛んでいたヴァグデッドが首を傾げた。

「飛んで行かないの?」
「お、俺、飛べないんだ……それに、と、飛べたところでこんな暗い森を猛スピードで飛んだら怖いだろう!! 魔物が出てきたらどうするんだ!!」
「…………それでよくキノコを取りに行くって言ったね……」
「だ、だって、こ、こんな暗くなってから行くなんて思わなかったからっ……!」
「じゃあ、俺の背中に乗ってよ。キノコが出るところまで行くから」
「の、乗らない……俺がキノコを手に入れても、お、王国を滅ぼすなら渡せない」
「いいよー。キノコを手に入れるのは、俺だし」
「……ま、まだ王国を滅ぼす気なのか!?」
「うん!」
「……」

 もしかして、このままキノコが見つからない方がいいのか? だけど、ルオンも結界のためにキノコが欲しいって言ってたし、他にもいくつか素材を頼まれている。ルオンには、相当迷惑かけてるからな……

「フィーディ?」
「…………ほ、滅ぼさないって言うまで乗らない!」
「ふーーん……」
「わっ!」

 彼は、馬くらいの大きさになると、俺の足の下に体を突っ込んで、無理矢理背中に乗せてしまう。

「お、おいっ……」
「急がないとウィエフに先を越されちゃうよ」
「え、で、でもっ……! や、やっぱり降りるっ! 降ろしてくれ……お、落ちそうで…………」
「大丈夫大丈夫! 落ちないように魔法をかけるから」
「で、でも……うわ!」

 彼は俺を乗せて、森の中を飛んでいく。すぐにふり落とされてしまうかと思ったけど、そんなことはなかった。
 周りの景色が、目に見えない速さで後ろの方に消えていく。それなのに、俺の周りには風ひとつこない。飛んできた木の葉も枝も、俺の体にぶつかる前に消えていく。全部、ヴァグデッドの魔法だろう。俺が落ちないように、常人からはかけ離れたスピードで飛んでも、怪我をしたりしないように庇ってくれているんだ。

 ……ヴァグデッドは、何で俺にこんなことをしてくれるんだろう。王国を滅ぼすとか、そんな恐ろしいこと言い出すくせに。

 しばらく飛ぶと、ティウルの後ろ姿が見えてくる。彼は、俺たちに振り向いて、どこか嬉しそうに微笑み、森の奥の方を指差している。

 すると、飛んでいく竜の前を横切っていくものを見つけた。
 ヴァグデッドが急ブレーキをかける。ティウルも止まって、あたりを見渡している。

 空を飛んでいても体に響くような、ずしんずしんという嫌な音がする。

 な、何かが近づいてくる……? キノコか?

 森の木々を揺らしながら、不気味な影がこっちに近づいてくる。大きさは、周りの森の木を遥かに凌駕するほど。あれ……ま、魔物だ!!

 それは、虫のような姿をした魔物で、周りの草木を薙ぎ倒しながら俺に迫ってくる。

 も、もう出た!!?? 嘘だろっ……!

 焦る俺に、ティウルが振り向いて叫んだ。

「フィーディ!! 眠りの魔法だ!」

 そうだ。落ち着け。俺はこの時のために、眠りの魔法を強化したんだ!

 俺は、魔物に向かって、魔法を放った。すると魔物はその場に沈み込むように倒れて動かなくなる。

「あ、あれ?」

 まさか……成功した?

 自分の魔法が信じられなくて、ヴァグデッドの背中から降りて、恐る恐る魔物に近づく。
 魔物はぐったりして、ピクリとも動かない。

 あ、あれ? まさか、本当に、うまくいったのか?

 恐る恐る近づいて、突いてみる。やっぱり魔物は動かない。嘘だろっ……!

「お、俺の魔法がっ……! 効いた!? の、か?」

 驚いて、震えながら自分の両手をまじまじと見下ろしてしまう。本当に、俺がやったのか?

 あまりに驚きすぎたのか、ティウルは、不思議そうに言った。

「……どうしたの? フィーディ。何か……不満?」
「いや……う、うまくいったから……び、びっくりして……」
「強化したんだから、当然だろ?」
「だって……」

 自分のしたことが、こんなにうまくいくこと、ほとんどない。というか、初めてじゃないのか?

「すごい……本当にできたっ!! あ、ありがとうっ……! ありがとう! ティウル!!」
「そんなに喜んでくれるなんて思わなかったなー。よかったねーー」

 ティウルが笑ってくれて、俺も今更めちゃくちゃ嬉しくなる。俺でも成功するんだっ……!!

 眠りの魔法にかかって動かなくなった魔物は、その場でボロボロ崩れていく。

「え……? な、なんで?」
「魔物はもともと、暴走した魔力だから。眠ったりはしないけど、眠りの魔法にかかると、蓄えていた魔力が霧散して、体が崩れていくんだよ」
「へえ……すごい。よく知ってるな」
「眠りの魔法に関する研究の本を読んでたからねー。何しろ僕は、殿下の伴侶になるんだから!! ちゃんと魔法の勉強もしないとね!」
「う、うん……そうだな……な、なにしてるんだ?」

 ティウルは、地面に落ちたブヨブヨした魔物の残骸を瓶に集め始めている。

「魔力と植物の汁が融合してるんだよ。魔法の薬の材料になるんだ」
「へえ……へ、変な薬じゃないよな!?」
「えー。違うよー。ごく普通のありふれた回復の薬だよー」

 本当かなあ……ちょっと怖いんだけど。

 手伝ってと言われて、ティウルの横に並んでそれを集めていたら、ヴァグデッドが声をかけてきた。

「……強化の魔法くらいなら、俺も使えるのに……」
「へ!? あ、そうなのか?」
「……今度から、俺に言えばいいから……」
「え…………? で、でも……い、いいのか?」
「全然いいよ? だから今度は俺に言って」
「う、うん……」

 返事をしても、彼はすぐに俺に背を向けてしまう。……どうしたんだ? ちょっと声も冷たい気がする。

「ヴァグデッド? どうしたんだよ?」
「なんでもなーい」
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