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41.それは、私が許可することではありません
しおりを挟む日が暮れる頃、俺はヴァグデッドとティウルと一緒に、城門へ向かった。なぜティウルまでついてきたかと言うと「魔法強化のキノコがあれば、僕の殿下用の薬も、きっともっといいものができるー!」と言い出したからだ。
当然、説得には失敗している。「僕のいないところで殿下に手を出す気?」と、笑顔で聞かれたら、断りきれない。怖くて。
ヴァグデッドは未だに「フィーディを狙う奴は俺が消す」なんて言ってるし、こんな二人を放っておいたら、絶対にバッドエンドだ。
結局、ゲームと同じように手下のヴァグデッドを連れ、主人公のティウルとともに、キノコを取りに行くことになってしまった。
ただ少し違うのは、二人が王国滅亡を目論んでいることと、森に出発する時間が、俺の暗殺におあつらえむきな夜で、俺は命を狙われていることだ。
……なんてことだ。最悪じゃないか。もう何もしない方が、全てうまくいくのではないだろうか。
肩を落として、城の裏手に向かう。そこに、森につながる扉があるはずだ。
暗い庭を抜けていくと、その扉が見えてくる。その前には、ウィエフと城主のルオン、キラフェール殿下と、彼の護衛たちがいた。
俺たち一行に気づいて、ウィエフが振り返る。
「フィーディ……なんですか? その二人は……」
「え、えっと……みんなで行こうってことになりまして……」
苦しい言い訳をしてみるが、ウィエフは多分聞いていない。彼は、ヴァグデッドを睨みつけていた。
ウィエフに嘘をついてはいけない。彼に嘘をついても、すぐにバレて、酷い目に遭う。
ヴァグデッドがウィエフの前でなんて言ったのかは教えてくれなかったが、少なくとも、彼の魔力が減っているというのは嘘なんだ。
それがバレたら、恐ろしいことになるのではないだろうか……それとも、もうバレているのか!?
考えたら、恐ろしくなってきた。とにかく、ウィエフにはこれ以上嘘をつかないようにしなくては……
「あのっ……! 俺一人じゃ彼らも不安みたいで……も、もう夜だし暗いし俺は魔法も使えないし、あのそのっ……!」
「キノコ狩りにでも行くつもりですか? あなたは」
「そんなつもりではありませんが……その……ふ、二人も行きたいらしいんです……どうか、お願いできませんか?」
なんて、いかにも嘘くさい。しかし、俺の言ったことは、それぞれの企みを話していないだけで、嘘ではない。
後ろの二人が余計なことを言い出す前に、なんとかこの場を収めなくては。
「せっかくだから、みんなで行った方が……あ、安全だと思います。それにその……き、キノコ狩りは、みんなでやったほうが楽しいはずです」
「……キノコ狩りではありません。相手は魔力を持つキノコです」
「わ、分かってます。でも、みんなで取りにいったほうが、見つかりやすいのではないでしょうか。き、キノコを見つけることが、最優先です。その……だめ? ですか?」
「……それは、私が許可することではありません」
ウィエフが、ルオンに振り向く。
するとルオンは、難しい顔をして言った。
「……ヴァグデッドを連れていくことには賛成できない。ティウルにも、もしものことがあったら……」
するとすぐに、ティウルが反論する。
「僕は大丈夫です!! 王国のために、キノコを取りにいってきます!」
「……しかし……」
頷かないルオンに、王子のキラフェールが微笑んだ。金髪の美しい姿をした人で、緑色の優しそうな目と、薄桃色の唇が優しげに笑っている。細身に見えるが、こう見えて、魔物を一撃で切り裂く長剣の使い手だ。王国では、優秀な魔法使いであるとともに、国一番の剣士らしい。
「ルオン殿……彼にも行ってもらおう。人数が多い方が、キノコも早く見つかる」
キラフェールが近づいてくると、ティウルの雰囲気が変わる。いつもより少し高い声で「殿下!」と呼びかけて、王子に駆け寄っていった。当然、王子の護衛たちに止められるけど、王子は護衛たちの方を制して、ティウルに微笑みかけた。
「ティウル……また会ったな」
「キラフェール殿下……! こんなところでお会いできるなんて……」
俺の前にいる時と、雰囲気が全然違う……顔も変わって、声のトーンまで変わっている。
王子はそんな変化を知ってか知らずか、ティウルに向かって、にっこり笑う。
「君もキノコを取りに行ってくれるか?」
「はい!! もちろんです!」
「……ありがとう。君には期待している。その魔力を存分に発揮して欲しい」
「お任せください! 殿下!! 必ずや、あのキノコを手に入れてご覧に入れます! あの……キラフェール殿下……」
「どうした?」
「一つ、お願いしたいことがございます」
ティウルがそう言うと、王子の後ろにいた護衛たちが、「無礼者!」と怒鳴りつけ、剣に手をかける。
けれど、王子は再び、護衛たちの方を制止した。
「やめろ。この島にいる間、私は彼らと行動をともにすることになる。いわば、同志だ。そんな彼らの話を聞こうともしないのでは、こちらの方こそ無礼ではないか」
「殿下……」
王子に言われて、護衛たちは剣から手を離す。
するとティウルはそれを見て、かすかに笑って続けた。
「もしも、キノコを取ってくることができたら、僕にも、殿下の護衛をさせていただけませんか?」
「……君に?」
「はい。殿下がここにいらっしゃる間は、僕が殿下をお守りしたいのです」
にっこりと、自信に満ちた顔でティウルが笑うと、護衛たちから、図々しい、平民の分際で、と不満の声が上がる。
しかし、王子は意外にもあっさり頷いた。
「そうだな……君に頼もう」
「光栄です。殿下に近づく魔物は、僕が全て消滅させてご覧に入れます」
キラフェールは、ティウルに「がんばってくれ」と声をかけて、今度は俺たちの方に振り向く。
「フィーディ・ヴィーフ……お久しぶりです」
ひ、久しぶり? 俺のことを覚えているのか? 晩餐会で少し会ったことがあるだけなのに。
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