38 / 96
38.お世話になったし
しおりを挟む真っ青になる俺を押し退けて、ヴァグデッドはドアに手をかける。
「こんなの、さっさと開けちゃえばいいんだよ」
「お、おいっ……! そんなっ……勝手にっ……!」
止めようとした俺の目の前で、ヴァグデッドは体当たりで無理矢理ドアを開けた。バキッと音がして、鍵が壊れる。ドアも凹む。ドアノブがかすかに外れて、もうドアは使い物にならなくなったけど、代わりにドアは開いた。
「お、お前っ……! な、何してるんだよ!! なんで壊すんだ!!??」
「開いたからいいだろ?」
「壊さなくても開く!!」
焦ってドアに駆け寄るけど、ドアはひしゃげて、すでに役に立ちそうにない。何をしてくれているんだ。この竜は。もう、傷がどうとかってレベルじゃない。ドア壊してるんだから。
焦る俺に、部屋の中からティウルが近づいてくる。
「あ、フィーディ。どうしたのー? ムカつく竜に何かされた?」
ティウルにからかうように言われて、俺はビクッと震えてしまう。さっきのこと、思い出した……
けれど、俺にそんな真似をしたヴァグデッドは、お前には関係ないと言って、ティウルと睨み合っている。
い、今のうちにドアを直せないだろうか。
壊れた破片をドアに当てていたら、ヴァグデッドが、俺の方に飛んできた。
「俺が壊したんだから、フィーディが気にしなくていいのに」
「で、でもっ……でも……」
慌てる俺だけど、ティウルは壊れたドアを気にする様子もない。
「フィーディー。そんなのいいから、こっちきなよ。せっかくきてくれたんだし」
「え? えっと……うん…………」
まだビクビクしていた俺は、少し息を整えて、口を開いた。
「あ、あの……ティウル……」
「どうしたの? 何か用ー?」
「ドアを叩いてごめん……しかも壊して……」
「壊したのはそこの竜だろ……」
ティウルに睨まれても、ヴァグデッドは「それがー?」なんて言いながらクルクル回ってる。もう、むしろ羨ましい。
「ど、ドアも殴ったわけじゃないんだ! そんなつもりはなかった!」
「僕寝てたし、それくらいしないと気づかないから、ちょうどよかったよ」
「……寝てた?」
あのすごい音のノックの中で寝ていたのか? すごいなぁ……
ティウルはひどく楽しそうでニコニコ笑っている。
「お陰でまたフィーディがビクビクメソメソしてるの、聞けたし。令息様の可愛い声、もっと聞きたかったなー」
「……あ、あの……き、傷もついてしまって……」
「へ?」
「き、傷があったから……」
「傷? 壊れたから傷どころじゃないけど……あ! もしかして、ドアの切り傷のこと?」
「う、うん……」
「気にしなくていいよ。それ、僕がやったんだ」
「え!? なんで?」
「ドアの前で暴漢に襲われそうになった可哀想な僕を演じて殿下に近づこうと思ったんだけど、僕一応、貴族たちから期待されてる身だし、護衛でもつけられたら、動きにくくなるなーって思ってやめた」
「……それで、ドアの傷の偽装を……?」
「うん!」
「それは俺を犯人にする気じゃないだろうな……」
「ちょうどいい犯人役だとは思ってたけど」
「おいっ!! や、やめろ! 二回も犯人にされてたまるか!」
「フィーディに僕を襲うなんてできっこないから。やめた」
「……その作戦は絶対にやめてくれ。他人を巻き込むのは……ど、どうかと思う!」
「それで? フィーディは何の用? もしかして文句でも言いに来た?」
「文句じゃない! 正当な抗議だ!! よ、よ、よく、よく、よ……」
「落ち着いて話していいよー」
「あ、ありがとうございます…………え、えっと……な、何で俺が王子を殺そうとした感じになってるんだ! おかげで俺は謹慎だ! お、お、俺っ……め、迷惑して、ます!」
「ルオン様にバレちゃったからしないよー。もうしないから、安心して」
「……」
怪しいものだ。ヘラヘラしやがって。罪悪感はないのかっ! ……って、言えない俺。
「……それなら、よかった……」
「…………もっと怒ってもいいよ?」
「……俺のせいで傷がついたんじゃないなら……それでいい」
「……それで? フィーディは、それを言いに来たの?」
「そ、それと……あの……頼みがある」
「僕に?」
ティウルは少し間を置いてから、驚いた様子で言った。
「…………意外」
「な、何がだ?」
「二度と口ききたくないって言うかと思った」
「……ほ、本当はそう言いたい! だけど今は、それより大事なことがあるんだ……」
「……なに?」
ちらっと、ヴァグデッドの方に振り向く。彼は、すぐに俺の視線に気づいて、何が楽しいのか、クルンクルン回ってた。
「何をしても絶対に森には行かせない」
「……」
あいつ、頑なだな。どれだけ俺を森に行かせたくないんだ。
眠りの魔法を強化したら、キノコ採りがおわるまで、この城にいてもらおう……
俺は、ヴァグデッドに聞こえないよう、ティウルに耳打ちした。
「……ね、眠りの魔法……使ってただろ? ヴァグデッドに」
「うん。その仕返ししに来たの?」
俺に合わせて、ティウルも声を小さくしてくれる。だけどすごく楽しそう。王国の危機なのに。
「ち、違うっ! なぜいちいち仕返しという発想になるんだ!」
「普通するでしょ? フィーディが珍しいんだよ」
「そんなことはない。そ、そうじゃなくて、竜族のヴァグデッドにあれだけ効くなんて……き、強化してたのかなって……眠りの魔法」
「よく分かったね」
「お、俺もやってみたいと思ったことがあって、それで……知ってるんだ。その時は叶わなかったけど、眠りの魔法を強化できるなら、俺もやってみたい。その……頼めないか?」
「いいよー」
「え?」
「どうしたの? そんなに切羽詰まって。何かあった?」
「え?」
「え? なに?」
「ず、ずいぶん簡単にいいよって言うんだな……」
「僕、別にフィーディのこと、嫌いなわけじゃないよ? 友達になれて嬉しいのも本当。だけど、友達と仲良くすることと、王子を手に入れることを比べたら、王子の方が圧倒的に大事なだけ」
「…………」
あっさり友達より王子を取るって言ったな。もう格好いいよ。
王子に変な薬を飲ませようとするのは止めなければならないが、怯えてばかりの俺から見たら、自信に溢れているところは羨ましい。
「フィーディは利用できそうにないって分かったから、これからはただの友達に戻ろうね」
「戻りたくありません」
あっさりと凄いことを言ってくれる。俺の感情は完全無視だ。格好いいとは思うが、これ以上彼に利用されるのはごめんだ。
けれどティウルは、ニコニコしながら振り返る。
「フィーディにはお世話になったしね。眠りの魔法の強化くらい、なんでもないよ。入って入ってー。美味しいお菓子があるんだよ!」
「いらない……何入ってるか分かんないし……」
「やだなー。フィーディには何も入れないよ!」
「殿下のにも入れないでください」
「殿下には今、新しいものを作ってるんだ!!」
「今すぐそれは捨ててくれ!!」
20
お気に入りに追加
769
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる