36 / 96
36.まだ無理です!
しおりを挟むフィーディ・ヴィーフは、公爵家の四男で、小さい頃は、王国と公爵家のために尽くせと、そんなことを言われて育った。結局出来の悪い俺は、そんな風にはなれなかったが、王国滅亡なんて、考えたくない。それくらいなら死罪でいいと言っているだけだ。
ヴァグデッドは昔、王国で暴れた竜で、海辺近くの街で、魔法使いの部隊を相手に、恐ろしい魔法を操り、部隊を戦闘不能に至らしめたらしい。王家は彼の扱いにほとほと困り果てていたが、今ではルオンの管理するこの城で、静かに暮らしている…………って聞いている。
もしも彼が力を取り戻して、王国に飛んでいったら……どうなるんだろう。そんなことは考えたくもない!
ど、どうしよう……
やめてくれって言う?
いや、無駄だ。だって、何度そう言っても、やめてくれないどころか、俺を脅し始めてるんだから。
じゃあ、ヴァグデッドを置いて逃げる? 絶対にすぐに追いつかれそうだ。
それなら、ウィエフに全部話して、魔法を強化する杖を作るのをやめてもらう? ……あいつが聞くはずないいい……
この際、事態を見守ってみる? ……絶対にダメだ!! 見守ってる間に王国滅びる!
そうだ!
ルオンに話してみる! これだ! ……でも、それを話したら、ヴァグデッドとルオンで死闘になってしまうのでは!? そうでなければ、ヴァグデッドが処分されてしまうのかもしれない。
それも嫌だ……ヴァグデッドが俺のせいで傷つくのも嫌だーー……
だめだ。混乱してて、いい選択肢がまっったく思いつかない。
オロオロしてる俺に、ヴァグデッドはにーっこり笑う。
「これで俺のために森に行く必要はなくなっただろ? 分かったら、危ないから大人しく城にいて」
「…………」
いられるわけがない。
だって、ヴァグデッドを一人で行かせたら、俺の命を狙っているウィエフを殺して、王国を滅ぼしに飛び出していってしまうかもしれないんだ。さすがにそれは駄目だ!
背を向けるヴァグデッドの羽を、俺は、咄嗟に握って止めた。
「フィーディ……?」
呑気な顔で振り向きやがって……そんなの聞いてしまったら、もう手を離すわけにはいかない。
「あ、あの…………ヴァグデッド。聞いてほしい……俺は、別に生きていたいわけじゃないんだ。その……恐ろしい理由でなかったら、死んでもいい…………いった!!!」
ぐいっと、強く抱き寄せられる。その金色の目で見下ろされただけで、恐ろしくなる。
どうやら、また怒らせてしまったらしい……
「フィーディは、そんなに怖い目に遭いたいんだ?」
「へっ……!? いや、ちょっ……! お、おかしくないか!? お、俺は怖い目にだけはあいたくないと言っているんだぞ!」
「今度そう言うこといったら、酷い目に遭わせるって言っただろ?」
「ひっ……」
何!? なんだこれ……な、なんか尻の辺りがむずむずする!?? し、尻撫でられてる!? なんで俺が尻撫でられてるの!?
「あ、あ、あのっ……ヴァグデッド……? こ、こういうことは、俺はちょっと……ひゃっ!!」
「初めて?」
……何がですか?
初めて……? 何がっっ!!??
俺と彼の服が擦れあって、彼が動くたびに、肌まで刺激されてるみたいだ。
抱きしめられたまま、目だけで自分の下半身を見下ろすと、ヴァグデッドの手が、俺の尻の方に回っていた。
……せくはら?
「ひゃっ……お、おいっ……何して……」
「……可愛い……」
「…………っ!」
頭に何か触れてる。今度は手じゃない。何!? く、くちびる!?
俺は他人に近づかれることが苦手だ。そもそも、そんなことをされることはなかったので、心配する必要もなかった。
それなのに、今は体を密着させられて、頭に顔を埋められてキスされて、その上、し、尻を撫でられてる!??
む、無理……なんだこれ!?? 俺がこんなことされるなんて聞いてない!!!
「あ、あのっ……ヴァグデッド……」
「どうしたの? やりたくなった!?」
「…………っ!!??」
なるわけない。
それなのに、見上げた相手の笑顔で、なんだか胸が熱くなる。体まで熱い。なんだこれは。緊張しているのか? それとも、ずっと抱きしめられているから熱いだけか!?
やるって、何をだよ!?? 尻撫でてるけど……まさか、そこを使うってこと!? 無理…………絶対に無理っ……!
「あ、あ……あのっ……る、ルオンさまが見てるんじゃないかなーって……」
恐る恐る、唯一自由だった手を動かして、階段の方を指差す。指なんかガタガタ震えているし、声も消えそう。だって全部嘘だから。ルオンが見ているなんて、この場を逃げ出すためだけの嘘だから! だけどいきなりこんなの無理だっ……! キスだってまだしてないのに!!
こんなのに騙されるわけないかと思ったけど、彼は、俺の指差した方に振り向いてくれた。
「は? なんだよ、のぞき?」
そう言って、彼が振り向いた隙に、全身の力を振り絞って、俺はヴァグデッドを突き飛ばす。
「ご! ごめんなさい! まだ無理ですーーーーっっ!!!!」
叫んで、俺は逃げだした。
31
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼毎週、月・水・金に投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる