35 / 96
35.どこで間違えたんだ!?
しおりを挟む「あ、あ、あの……? ヴァグデッド?」
強く抱き寄せられたまま、顔を上げたると、彼と目があってしまい、すぐに背けた。
抱き寄せると言う行為は、少なくとも、敵意をもってすることはないと思う。
心底嫌悪している人間を抱き寄せることが、たとえばあったとしても、敵意なく抱き寄せることの方が、圧倒的に多いはずだ。
だったら、俺をこうして抱き寄せるヴァグデッドも、そんな稀な状況ではなく、一般的な感情でこうしているのだと思う。
抱き寄せた隙に刺殺しようとか、腕力で締め殺そうとか、そんな目的ではなく、なんらかの好意的な感情で、こうしてくれている…………はず! さすがに、殺したいほど憎まれているとは思いたくない。
それなら、怯える必要はない。
しかし、こんなに、そばに、ひ、人がいると……
緊張なのか、恐怖なのか、それとも違う感情か、汗が流れてきた。
大丈夫か、俺。臭かったりしないだろうな? ……って、何の心配しているんだ。
「あ、あの……あにょ、は、は、なして……」
「フィーディ、素直すぎ。魔物に襲われて死んでほしい、なんて、そのままの意味だと思ってるの?」
「え?」
「公爵は、フィーディの死亡の報告を早くくれって、ルオンに迫ってるらしい」
「へ?? な、なんだそれ! は、早くくれと言われても、し、死亡の報告なんて、催促してもらえるものではないはずだっ……!」
「遠回しに、早く君を魔物に殺させろって言ってるんだよ?」
「…………」
俺はそんなにも命を狙われてたのか。俺の存在が邪魔なことは知っているし、死んで欲しいと思われていることも知っていたが……まさか、殺されようとしているとは。
まあ……何度も「死んでくれ」とか、そんな感じのことを言われていたので、もう驚かないが……
「間違いないよ。ルオンが困ってた。それに、ウィエフも君のこと消す気だ」
おい。あちこちで命狙われてるな俺。
ゲームのフィーディだって、きて早々殺意を向けられたりしていなかったのに。
俯く俺の髪に、温かいものが触れる。包むように触れたそれは、赤子を慰めるように動いていた。どうやら、頭を撫でられているらしい。
びっくりして身を引くが、抱きしめられていては、ほとんど逃げることもできなかった。
顔を上げと、すぐに、ヴァグデッドと目があった。彼は怖いくらいに真剣で優しそうなのに、やっぱり怖いっっ!! 俺は何をされてるの!?
「困るよね。みんな、俺の大事なものに手を出そうとする…………」
「……」
何を言われたんだ俺は。
訳がわからない。混乱した頭を何とかしたい。
彼から顔を背けるが、それでも視線を感じて、なんだかくすぐったい。どんどん心臓が高鳴っていくのは、怖いからか?
それとも、まさか俺。
こ、こいつに気があるのか!??
おいおいおいおいっ!
庇ってもらって落ちちゃったのか俺! 確かに誰かにそんなことをされるの初めてだが!!
チョロいな、俺。
いやまて。相手は俺を追いかけ回した竜だ。いいのか俺。そんなことで、本当にいいのか!??
それともこれは、吊り橋効果的なアレだろうか! 確かにいきなりこんなことされて吊橋より怖くてドキドキしてる。そうなのか!?
そもそも俺は、さっき命を狙われてることを自覚したばかりだぞ。それで今度はこの事態。もう頭がついていかないんだがーーーー!?
「…………あ、あの……ヴァグデッド…………俺……」
「そんなに震えなくても大丈夫。俺がいるんだから、怯えなくていいよ」
いや、俺は今、この事態に怯えているのだが。そして、混乱し続けているのだが。なので、離してもらえれば、少し回復できそうなのだが!??
「あ……いや、そ、そにょっ…………」
「……大丈夫だよ。俺の大事な手下を狙うような王国は、俺が滅ぼすから」
「………………え……?」
えーーっと? 何か言いましたか? そんな優しい笑顔からは、考えられないようなことを言われたような気がしたのだが。
また、見上げる。
目が合う。
やっぱり、ヴァグデッドは優しそうに微笑んでいた。こんな笑みから囁かれる言葉は、優しく思いを告げる言葉だったりしないのか? いやむしろ、怖くない言葉なら、俺は何でもいいのだが。
「あ、あの……ヴァグデッド……じ、じょ、じ? 冗談……だよな?」
「え? なんで?? 本気本気ー」
「…………」
言葉はすごく軽いのに、多分本気だと信じさせられてしまうのは、なぜだろう。
本気で、王国滅ぼすの?? なんのために?
「そ、そんなこと、できる訳…………」
「ウィエフが作る魔法強化の杖があれば、俺をこの城に幽閉している結界も、破壊できる。フィーディを狙った奴らは森で殺してくるから、フィーディは、この城にいなきゃダメだよ? 巻き添え、喰らいたくないだろ?」
「………………」
……どうしよう……本気だ。これ。
え?? え? え!? ダメだろこれ!! 絶対バッドエンドになるやつだ!! なんでこんなことに!? って、言ってる場合じゃない!
「ヴァグデッド! わ、悪い冗談はやめてくれ!」
「冗談じゃないよ」
「だ、だって……え!!?? な、なんで!? そんなことのために王国を……俺別に死んでもいいよ!?」
「今のもう一回言ったら、死ぬより怖い目に合わせるから」
「はっっ!?? え、なんで……」
「だって俺、フィーディがいなくなるの、嫌だから」
「だ、だって……じゃあなんで、俺のこと陥れるようなこと…………」
「そうでもしないと、ウィエフを信用させられなかったんだ。ごめんね? でも王子は、俺の教えた魔力強化の杖の話に夢中で、ティウルのことも、フィーディのことも、すでに興味ないから大丈夫」
「今の絶対ティウルに言わないでください本当に本当にお願いします」
今のこいつとティウルがやりあうところなんて、見たくない。もう、考えようとしただけで怖い。
何でみんな、すぐに破壊的な手段を取ろうとするの!!?? もっと無難な方法を取ってくれ! 命を狙われるのは嫌だが、王国の崩壊を企てられるのも困る!!
「ヴァグデッド……頼む。あの……お、落ち着こう……」
「俺、落ち着いてるよ? フィーディを処分なんて、絶対にさせないから、そんなに震えないでよー」
「いやあのあのあのっ……! そ、そんな事態になるくらいなら、俺、処分でいいので……なんなら処刑でいいです」
「なに言ってるのー? そんなに怖い目にあいたい?」
「ひいぃっっ…………!」
なぜそんなに迫ってくる!??? 怖い怖い怖いっっ!!
何でこんなことになってるんだ。俺はどこで選択肢を間違えたんだ。
38
お気に入りに追加
781
あなたにおすすめの小説

俺の婚約者は悪役令息ですか?
SEKISUI
BL
結婚まで後1年
女性が好きで何とか婚約破棄したい子爵家のウルフロ一レン
ウルフローレンをこよなく愛する婚約者
ウルフローレンを好き好ぎて24時間一緒に居たい
そんな婚約者に振り回されるウルフローレンは突っ込みが止まらない



モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!


隠れヤンデレは自制しながら、鈍感幼なじみを溺愛する
知世
BL
大輝は悩んでいた。
完璧な幼なじみ―聖にとって、自分の存在は負担なんじゃないか。
自分に優しい…むしろ甘い聖は、俺のせいで、色んなことを我慢しているのでは?
自分は聖の邪魔なのでは?
ネガティブな思考に陥った大輝は、ある日、決断する。
幼なじみ離れをしよう、と。
一方で、聖もまた、悩んでいた。
彼は狂おしいまでの愛情を抑え込み、大輝の隣にいる。
自制しがたい恋情を、暴走してしまいそうな心身を、理性でひたすら耐えていた。
心から愛する人を、大切にしたい、慈しみたい、その一心で。
大輝が望むなら、ずっと親友でいるよ。頼りになって、甘えられる、そんな幼なじみのままでいい。
だから、せめて、隣にいたい。一生。死ぬまで共にいよう、大輝。
それが叶わないなら、俺は…。俺は、大輝の望む、幼なじみで親友の聖、ではいられなくなるかもしれない。
小説未満、小ネタ以上、な短編です(スランプの時、思い付いたので書きました)
受けと攻め、交互に視点が変わります。
受けは現在、攻めは過去から現在の話です。
拙い文章ですが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
宜しくお願い致します。

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる