悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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32.脅す?

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 まだ声が震えているなんて、情けない俺だ。しっかりしなくては。俺はもう、ウィエフには負けないって、決めたんだ。

 扉の中は、広い部屋だった。大きなテーブルには、地図が置いてある。素材の場所を確かめていたのかと思ったけど、それは城内の地図のようだ。結界を強化する位置を選んでいたらしい。各所に印と強化の文字が書いてある。殿下が来て、相当ルオンも気を張っているのかもしれない。
 城の周りを強固な結界で覆うつもりのようだ。出入り口や城の上空は分かるが、城内から城の外へ出る抜け道の辺りまで塞ぐつもりらしい。よほど魔物を警戒しているのか……?

 ルオンは俺に振り向いた。

「フィーディ。窮屈な思いをさせて悪かった。食事は取れたか?」
「あ……は、はい……ルオン様が謝ることはないんです。迷惑をかけてしまったのは、俺なので……そ、それより、素材集めですが……お、お、おおお……」
「……? フィーディ? どうした?」
「おっ……おれにっ……い、行かせて、もらえませんか?」

 ガタガタ震えながらも、なんとか言えた。

 ヴァグデッドは驚いて俺を見上げて、ルオンも、キョトンとしている。

「あなたを? しかし……」
「む、無理は承知の上で……お願いいたします!! 俺が行きたいんです!」
「しかし……外は危険だぞ」
「分かっています……でも、あのっ……! 危険でも構いません! 俺も行きたいんです! ど、どうか、俺に任せてください!」
「しかし……あなたは公爵家の……」
「ど、どうせ父上からは、魔物に襲われて死んでほしい、みたいに言われてるんですよね?」
「…………知っていたのか」
「……」

 本当に言われているとは思わなかった。しかし、今更傷つきもしない。今はそれを落ち込んでいる場合ではないんだ。

「どうか、お願いします。ルオン様!」
「黙れっっ!!」

 喚いたのはウィエフ。この人は俺のことを目の敵にしすぎではないか?

「貴様程度が森へ向かったところで、野垂れ死するだけだと分からないのか!!? 貴様のような役立たずでも、死ねば責任を問われるのはルオン様なのだぞ! 役立たずは大人しく部屋でじっとしていろ!」
「……」

 口喧嘩じゃ、絶対に勝てそうにない。
 だけど、役立たずは認めるが他人には言われたくない。それに、そもそも俺はこの人と喧嘩をしたかったわけじゃない。

「そ、そ、そっちこそっ……!! ヴァグデッドを脅していたくせに!」

 思いっきり指差して、暴露してやる。それでもウィエフは、顔色ひとつ変えない。

「脅す? 私が? 何を言っているのか……」
「だ、だって……」
「何か、証拠でもあるんですか?」
「それはっ……」

 もちろん、そんなものはない。
 そして、ヴァグデッドまでもが、首を傾げて言った。

「なんのことー? フィーディ。誤解じゃない?」
「でもっ……お前、さっきっ……!」

 言いかけた俺の前に、ヴァグデッドが飛んでくる。そして、俺の目の前まで飛んで来ると、じーっと俺を見つめて、囁いた。

「……誤解じゃない?」
「あ…………うん……」

 つい、頷いてしまった。うんって、何で同意してるんだよ。だって俺は、確かに見たし、聞いたのに。

 だけど、なぜか背筋がひどく冷たくなったような気がして、気づけば頷いてしまっていた。そうしなければ、自分が危うくなるような何かを察知したような気がした。生存本能……みたいなものを刺激されたのだろうか?

 だけど、なぜだ?

 なぜ今、ヴァグデッドに対して、そんなものを感じるんだ? 俺はただ、彼を傷つけられたくなかっただけなのに。

 もしかしたら、彼はウィエフに脅されているのかもしれない。ルオンに話してはいけないと、そう言いつけられているのかも。それなら、俺が勝手に話しても、ヴァグデッドを傷つけることになるのか……?

 すると、それを見ていたルオンが、首を傾げて言った。

「フィーディ? どういうことだ?」
「あ、あのっ……それはっ……」

 言いかけた俺は、ウィエフとヴァグデッドに振り向かれて、彼の誤解です、と言われてしまった。
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