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30.思い通りにはさせない!
しおりを挟む俺は、ヴァグデッドがいるはずの部屋に急いだ。
絶対に何があったのか話させてやる! このままなんて、俺が嫌だっ……!
彼の部屋のドアを叩くけど、誰も出てこない。ここにはいないのか?
だったら城の中を探すまで!
廊下を走って階段を上ると、踊り場まで来たところで、誰かの声が聞こえた。階段の上で、誰かが話している。俺は、とっさに踊り場にあった大きな魔物を模した彫刻の陰に身を隠した。
こっそり頭を出して階段の上で話している奴らを盗み見る。
小さな竜が飛んでいるのが見えた。猫くらいの大きさの竜だ。
あれ……やっぱり、ヴァグデッドだ。
こんなところで何をしているんだ?
彼と一緒にウィエフもいる。二人で何か話しているみたいだ。
ウィエフがニヤリと笑って言った。
「やっとあのキノコが手に入る……」
「……本当に、いいの?」
どこか冷めたような口調で聞くヴァグデッドに、ウィエフが「勿論だ」と答えている。
意味が分からなかったけど、ウィエフは、ヴァグデッドを睨みつけて冷たく言う。
「いちいち反論しないでください。私はこのために生きてきたんです」
「……」
「あの餌係のことが気になるのですか?」
「……」
「惨めなものですね。吸血を禁じられては、私に歯向かうこともできないのですか?」
「……うるさいよ。お前がルオンに変なこと言おうとするからだろー」
言い返して飛んでいるヴァグデッドの羽を、ウィエフが叩いていた。
あいつっ……何してるんだよ!!
ヴァグデッドは大したダメージはないのか、彼の周りを飛び回っている。
なんでヴァグデッドは反撃しないんだ?? あんなことされたら、絶対に怒りそうなのに。ウィエフの魔法だって、彼はあっさり吹き散らしていたのに。何でそうしないんだ?
もしかして、吸血を禁じられているせい? その上、彼は今、最低限の魔力しか使えないように制限されている。
俺……何度も庇ってもらっていたけど、そのせいで、魔力が尽きたんじゃ……
だって、そうでないなら、ウィエフの言うことなんか、聞く必要ないはずだ。
そんな状態なのに、あいつは何度も俺を庇っていたのかっっ……!! 俺はっ……なんてことを……
ウィエフが勝ち誇ったように笑っている。
「これで、魔法強化のための杖ができる……」
「……本当に……それで完成するの?」
「私の計画に抜かりはありません。あなたはフィーディを見張っていなさい。あの男は……何かと邪魔ばかりする」
「…………はーーい……」
「それと、余計なことをルオン様に話さないように。公爵令息を陥れたことがバレれば、あなたも処分を受けるんですから」
「分かってまーす」
あいつ、ウィエフに脅されている。
ウィエフの目的は、魔法の強化か。
魔法の強化は、魔法を使う者なら誰もが望むことだ。ウィエフの場合は、きっと死の魔法の強化だろう。最終的に、ウィエフが王都を狙うためのものだ。
俺が城主と約束したキノコがあれば、魔法強化のための道具ができる。
それがあれば、ルオンのように結界の魔法を強化することもできるし、ウィエフの狙う死の魔法や、他の魔法の強化だって可能になってしまうんだ。
あいつっ……そのためにヴァグデッドを脅したのか……
ウィエフーーーー!! あの野郎!! お前が足蹴にしてるそれ、一応俺の手下だからな!!
このままだと、ウィエフがキノコを手に入れて、全部あいつの思い通りじゃないか!!
俺は何度もヴァグデッドに庇ってもらってる。そんなヴァグデッドを足蹴にする奴の思い通りになんか、させるもんか!!
……って、気づいたら二人ともいない!
考え込んでたら、いつのまにか、二人ともいなくなってる。
なにしてんだよ、俺。
ど、どうしよう……探さなきゃっ……!
すぐに階段を登って周りを探したけど、二人の姿はなくて、どこへ行ったのかも分からない。
このままじゃ、ウィエフに先を越されてしまう。もうすぐウィエフは、キノコをとりに出かけるはずだ。ウィエフだけを行かせるわけには行かない。
二人を探すのは後にして、ルオンにかけ合おうっ……! そして、俺もキノコを探しに行くんだ!
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