悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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29.悪いことだって

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 王位継承を最有力視されているキラフェール殿下のそばで、光のキノコを暴走させたという容疑をかけられてしまった俺は、自分の部屋に戻り、両足を抱えて小さな椅子に座り込んでいた。

 なんでこうなるんだ……

 俺はただ、悪役になりたくなかっただけだ。誰とも関わらずに、誰とも争わずに、静かに生きていたかった。

 それなのに、王子が来て早々、俺は王子を危険な目に遭わせたと疑われて謹慎だ。馬鹿じゃないのか。王子に手を出すなんて。
 俺じゃないフィーディは、王子に直接手を出したりはしない。やるなら、後ろ盾や身分のない平民の主人公くんにばっかり手を出す。

 だけど、俺は何もしていない。それなのに、主人公くん、ひどい……俺は何もしていないのに、踏み台にされた。

 主人公に対する怒りがふつふつと沸いてくる。

 ……ティウルーーーー……!! 今度会ったら……お、俺でもできる小さな仕返しをしてやる! ……って言いたいところだけど、俺は主人公には手を出せないんだ。そんなことしたら、結局バッドエンドじゃないか!!

 俺はこれからどうすればいいんだろう……

 やったことが、光るキノコを魔力で強く光らせただけだから、多分すぐに謹慎は解けるって、ルオンは話していたけど……

 いつになったら、ここから出ていいんだろう。もう昼過ぎだ。

 食事は部屋に運んでもらえたけど、ほとんど喉を通らなかった。
 テーブルの上の皿には、サンドイッチが並んでいる。そのそばに卵が置いてあった。そっとそれを割ろうとしたら、それは茹で卵だった。

 ヴァグデッドは、朝食の卵、食べられたかな……

 またあいつに庇われてしまった。
 ティウルと対峙していた時も来てくれた。あいつが来てくれた時、俺は怯えながらも安心するようになっていた。

 あいつ……大丈夫かな……

 あいつに会いたいな……

 しばらく卵をつつきながら待っていると、コンコンと、ドアをノックする音がした。誰か来たんだ。俺の処分……決まったのか?

 ビクビクしながら、ドアを開ける。

 すると、そこにいたのは、難しい顔をしたルオンと、なんだか勝ち誇ったような顔をしたウィエフ、それに、まだ人の姿のままのヴァグデッドだった。

 急に背の高い三人に前に立たれて、俺は数歩下がってしまう。

 ヴァグデッドは、俺に気づいて、ちょっと気まずそうに顔を背けて、今度は笑った。普段俺を見る時とは違う、ひどく怖い顔だった。

 そして、ルオンが少し困ったように口を開く。

「フィーディ・ヴィーフ」
「は、はいっ!」
「……」
「……? あ、あの……いつ俺はここから出れるんですか? 調査って……お、終わったんですか? ここから……すぐに出られるんですよ……ね?」
「……」
「る、ルオン……様? お、俺は本当に何もしてないんですっ……本当に……!」
「……昨日、ティウルを追い出すと息巻いていたのは本当か?」
「へ!?」

 彼が厳しい目をして俺を睨む。そんな風ににらまれたら、俺はまるで、心臓を握られたような気になる。
 だけど俺はそんなことをした覚えはない。俺が主人公に手を出すはずがないじゃないか。

「し、知りません! そんなの! ご、誤解です!」
「けれど、ヴァグデッドがそれを聞いたと話している」
「……え?」

 俺は、ヴァグデッドに振り向いた。人の姿になって俺を見下ろすヴァグデッドは、すぐに俺から顔をそむけてしまう。

 確かに、ヴァグデッドの前ではそんなことを言った。
 その時ヴァグデッドは「平民だからって追い出すの?」なんて、いつもの軽い口調で話してた。あれは誤解って、分かってくれたんじゃないのか?

「ヴァグデッド……あ、あれは、誤解だ……し、知ってるだろ?」
「……」

 ヴァグデッドは、何も答えなかった。目も合わせようとしない。一体どうしたんだ?

 慌て始めた俺に、ルオンは尚もたずねる。

「本当なのか?」
「ま、待ってください! 確かにそんなこと言いましたけど……それは誤解です! 俺はそんなつもりじゃ……ここは、あ、危ないことも多いし……帰った方が身のためっ……じゃなくて、平民なのに、こんなとこいたら大変っ……じゃなくて、あのっ……」
「……落ち着いてくれ。キラフェール殿下も、あれは光のキノコの暴走だとおっしゃっていた。それについては、糾弾するつもりはないらしい。しかし、ティウルは貴族たちからも期待されている身だ。それに手を出そうとしたことは見過ごせないらしい」
「そんな…………」
「だが、フィーディ。私はあなたがそんなことをするとは思えない」
「ルオン様……」

 そ、そうだよな……俺は何もしてない。確かに追い出すみたいなことは口走ったが、ティウルを追い出そうなんて、微塵も考えていない。

 ルオンのその言葉がよほど気に入らないのか、ウィエフが俺を睨んでいて怖いけど、ルオンは、さらに続けた。

「あなたに頼みがある。キラフェール殿下のために働いてくれないか?」
「……え?」
「ティウルに聞いたんだが、あの時投げたキノコはあなたが見つけたんだろう? キノコ採りの名人だと、ティウルが熱弁していた」
「……」

 熱弁されてもなぁ……
 ティウルめ。さてはルオンに適当なこと言ったな……どうせさっさと終わらせて王子と二人きりになりたかったに決まってる!!

「あの……俺はキノコを採るのが得意なわけじゃありません」
「森の方にあるキノコの位置はわからないのか?」
「そ、そんなに期待されても困りますっ……! ほ、本当に名人じゃないです……」
「そうか……」
「……あ、あのっ……でも、えっと……もしかして、魔法強化のために使うもののことですか?」
「分かるのか……」

 この城の周辺には、魔法の道具を作るための素材がいくつもある。森にある光のキノコは、ここにあるものとは違ってかなり大きく成長しているのに、なかなか見つけることができず、貴重なんだ。そして、それがあれば、魔法の威力を飛躍的に高めてくれる様々な魔法の道具を作ることができるはず。

 ルオンは、真剣な顔をして言った。

「分かるなら、それがある場所を教えてほしい」
「でも……」
「王子殿下の今回の視察は、素材を集めることを兼ねている。この城でも、最近魔物が増えていて、殿下がいらっしゃる間だけでも、結界の魔法を強化させたい。頼む……」
「……分かりました」

 ルオンも、多分それだけで済むように一生懸命に交渉してくれたんだ。
 元々それは、今日主人公がフィーディと森の中に出かけた時に見つけるもので、俺が見つけるものでもあるんだし、話してもいいだろう。

 俺がキノコの場所を話すと、ウィエフが口を挟んだ。

「場所が分かれば、私が取りに行きます」
「え!? でも……」
「殿下には、あなたが協力したとお伝えしておきます」
「でも……それ……殿下は俺に行くようにっておっしゃったんじゃないんですか?」
「確かにそうですが、森は魔物が多くて危険です。あなたのように下手くそな魔法しか使えない人に行かせても、途中で野垂れ死ぬのが関の山です」
「そうですね……」

 しまった。何を俺はあっさりと同意しているんだ。

 ルオンも微笑んで「もう謹慎していなくていい」と言って、ウィエフとヴァグデッドを連れて去っていく。その間、ヴァグデッドは一度も振り向かなかった。

 こうして、部屋に残ったのは俺一人。

 何とか部屋から出られることになったのに、気は晴れない。

 ヴァグデッドは、本当に俺のことをそんなふうに話したのかな……??
 そんなの、信じたくないけど、ルオンは俺がティウルを追い出すと口走ったことを知っていた。あれは、ヴァグデッドの前でしか話していない。だったら、やっぱり、ヴァグデッドが話したんだろう。多分、俺に不利になるように多少脚色して。

 なんでそんなことするんだ? そもそも手下だなんだって言って、俺に付き纏ったのはそっちだろ!! 最低な竜だ!! あんな竜のことなんかっ……もう知るか!!

 腹が立って、テーブルから卵サンドを取って一気に口に入れる。ヴァグデッド……ちゃんと生卵食べられたかな……

 あいつがあんなこと言うなんて、何かあったのか? さっきのあいつ、何か変だったし……やっぱりおかしい。

 俺は、茹で卵を持って、部屋を飛び出した。

 どうせ何もしなくてもどんどん状況は悪くなってるんだ! だったらあいつから何があったのか聞き出してやる!! 俺に隠し事できると思うなよ!

 ……もし本当に、俺を陥れたいだけなら、この茹で卵を生卵と偽って渡してやろう。せいぜいがっかりしろーーーー!! 俺、悪役令息なんだからな! 悪いことだってできるんだぞ!

 俺は、城の中をヴァグデッドの部屋目指して走った。
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