悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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26.簡単には近づけないと思う……

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 もう朝食の時間だ。早く行かないと、朝ごはんを食べられない。
 俺は朝は弱くて、転生する前は朝食を抜いてフラフラと仕事に行っていた。
 転生してからも、朝は苦手。だから絶対に朝食を食べに行きたいわけではない。
 しかし、こんな一行と一緒に、いずれ俺を糾弾するはずの王子に会いに行くくらいなら、食堂でコーヒーでも飲んでいたい。
 二人はそう思わないのだろうか。
 他人になんか関わらず、のんびりコーヒーを飲んでいようじゃないか……って、二人に言う勇気もない俺は、意気揚々としているティウルと、楽しそうなヴァグデッドの後について、とぼとぼと庭を歩いていた。

 そろそろ、王子殿下が城に着くはず。城門のあたりから見下ろせば、遠くから王子一行を眺めることくらいはできる。もちろん、王子殿下のそばには、一緒に来た王城からの使者と護衛の人がいる。簡単には近づけないと思うんだけど……

 そう話したら諦めてもらえるかと思い、口を開こうとしたが、ティウルの方が先に、俺に振り向いた。

「フィーディーー!」
「ひえ!?」
「王子殿下はいつ到着するの?」
「え!!?? えーーっと……それは……いつだったかなあ……」
「フィーディ」

 睨みつけるティウルの目を見て、俺は震え上がった。
 そんなティウルから隠すように、ヴァグデッドが俺とティウルの間に入る。

「俺の手下を脅さないでくれる?」
「……君は、王子殿下を狙ってるわけじゃないんだよね?」
「少なくとも、お前と同じ意味では狙ってないよ」
「……王子殿下は、僕を幸せにするためのものなの。余計な真似をすることは許さない」
「は? 許さないって、だったらどうする気なの?」

 睨み合う二人の間に、俺は無理矢理入った。

「や、止めましょう!! ね? ね? ほら!! ティウル! 急がないと王子が来ちゃうぞ!」

 かなり無理矢理ニコニコして、俺はティウルの手を握って、走り出した。

「城門の方だ!! だ、だけどそのっ……あ、会えるかは分からない! ご、護衛の人とかに止められたら諦めてっ……あ、諦めてっ……くださいね!!」

 俺は何を言っているんだ。対策が行き当たりばったりすぎる。こんなことをしているから状況が悪くなっていくのではないだろうか。もっと先を見据えた対策を立てるべきなのではないだろうか? だけど先を見据えた対策って、どんなものだ? 走りながらじゃ何も思いつかないぞ!!

 ティウルの手を握って、真っ青になりながら考えついた唯一の作戦は、城門あたりで王子を探すふりをして「いなかったねー」なんて言いつつ誤魔化すという、いかにも姑息な手だった。
 結局先延ばしかよ。だけどこれでも、必死に考えた作戦なんだ。

 確か、王子が来るのは朝食の時間が終わった頃。急げば、王子が来るちょっと前に、城門に着くはずだ。
 とりあえず行くだけ行って、できるだけ早く逃げ出す!!

 けれど、にわか作りの作戦は、あっさり瓦解した。

「あっ……! あれ!!」

 ティウルは急に、俺の手をぎゅーっと握って立ち止まる。彼が指差す方には、一人の男が立っていた。

「あれって……キラフェール殿下!?」
「へっ!??」

 嘘だろ!? こんなところにいるはずがない!!

 慌てて振り返ると、庭の、幾つも魔法の果物がなる木々が並ぶ辺りに、一人の男が立っていた。

「あー……えっと……ど、どうだったかなーー?? あ、あんまり王子に似てないんじゃないかなーーーー」

 なんて言いながら、俺は確信していた。

 本当に王子がいる……

 なぜこんなところにいるんだ!? 城門からくるはずなのに!! まだ王子が来るには少し早いはずなのに! それなのに……なんでここにっ……!!

 真っ青になっておろおろしてる俺に、ティウルが迫ってくる。

「そうなんだよね!?」
「ふえっ!? は、はいい……」
「やった…………!! だったら……」

 彼は嬉しそうにポケットから小さな瓶を取り出す。真っ黒で、骨や魔獣や魔物みたいなものとハートらしきものと魔法の道具っぽいものが描かれた、いかにも怪しい変な形の瓶だ。彼が瓶の蓋を開けると、中から怪しげな色の煙が出てくる。ティウルは嬉しくてたまらないといったような顔をしてるけど、あまりにも怖い。

 ビクビクしている俺を置いて、ヴァグデッドはその瓶に興味津々のようだ。

「ティウル、それ、なに?」
「惚れ薬!」
「なにそれ。効くの?」
「もっちろん。毎日僕を足蹴にしてたやつを実験台にしたら効いたから。そいつ、一時間くらいで急に喚き出して、自分に風の魔法をかけて体を切り刻んだ挙句、倒れてたけど。その後はなんでも僕の言うこと聞いてたよ!」
「なーーんだ……それじゃ役に立たないじゃん」
「そんなことないよ。改良したし! 王子殿下には、とりあえず生きていてもらって、僕のことを伴侶にしてくれればいいんだから!」

 つまらなそうに言うヴァグデッドに、にこにこと答えるティウル。
 それは惚れ薬とは言わん! ただの毒じゃないのか!? 言うことを聞いたのは、毒に怯えたからでは??
 こいつっ……!! 絶対に王子に会わせちゃダメだーー!!

「待ってくれ! ティウル!! そんなのバレたら斬首だ! そんなことしなくても、いずれ王子はティウルを好きになるから!!」
「僕は今すぐがいい」
「ま、まま待って!! ダメだ! ヴァグデッド!! 見てないで止めてくれ!」

 ヴァグデッドに振り向いて言うけど、ヴァグデッドはまるで止める気がないようだ。

「いいじゃん別に。王家の奴らが一人減るんだよ? そのまま殺しておけば?」

 それを聞いたティウルが「殺すんじゃなくて、僕の伴侶になるの!」と反論している。
 ヴァグデッドとティウルは平然と話しているけど、そんなの絶対にダメだ! 王家に手を出したら反逆の疑いをかけられるかもしれないんだぞ!

 それなのにティウルは嬉々としていて、俺の言葉なんか全然聞いてくれない。

「見てよ! 都合よく一人だ!! フィーディとヴァグデッドはここで見張りをしててね!」
「俺はしないよ」

 あっさり断るヴァグデッドの言葉に、俺の言葉が続く。

「お、俺もそんなことできない! た、たのむ! ティウル!! 馬鹿なことはやめてくれ!! 頼むからっ……! そんなことしなくても、王子はティウルに惚れる!! 必ず!! 俺はそうなるのを知っているんだ!」
「じゃあ、今僕に惚れても、問題ないね」
「なんでそうなるんだ!!! とにかく頼む! やめてくれっっ!! そんなの良くない!」
「黙ってろよ」

 彼は瓶を持って走り出していく。

 とっさに俺は、ティウルに飛びついた。

「ティウル!」
「うわっ……!!」

 飛びつかれたティウルは、地面に倒れてしまう。非力な俺は、今にも振り払われそうだったけど、必死に、暴れるティウルを押さえつけて、声を張り上げた。

「殿下ーーーーっっ!! 逃げて下さーーいっっ!!!!」

 目一杯の声で叫んで、力の限り、さっきの光のキノコを投げた。俺の魔力を得たキノコは、激しい光を放って周りを照らす。目が眩むほどの光だ。

 そばで、ティウルの悲鳴が聞こえた。彼も光にやられて動きを止めてくれたらしい。これで光が収まるまでに、殿下が逃げてくれますように!!

 光がおさまった頃、俺は恐る恐る目を開いた。

 そこにはまだ王子がいたけども、彼の周りにはさっきまではいなかった人たちが集まっている。みんな魔法使いだ。十人ほどの人が王子の周りに集まって、王子の無事を確かめている。さっきの光に驚いて集まってきたんだろう。

 なんだ……そんなに護衛いるなら、王子から目を離すなよ。
 だけど、あれだけ人が集まれば、殿下も大丈夫だろう。

 あとは……多分本気でキレているであろうティウルをなんとかするだけで……

「フィーディ」

 呼ばれて、顔を上げる。だけど、俺を呼んで俺の前に立っているのは、ティウルじゃなかった。ヴァグデッドでもない。

 背の高い男だった。金色の長い髪が風で舞い上がる。新緑の目が、俺を冷徹に見下ろしていた。紛れもなく、ウィエフだ。

 なんでこんなところに!? …………いや、いて当然か。だって、ウィエフはもともと、王子殿下の護衛なんだから。

 だったら最初からそばにいろ。そしたら俺がこんなことしなくてもよかったんだ。
 それなのに、なんでそんな怖い顔で俺のこと見下ろしているんだ。何か怒っているのか? なんで俺が怒られるんだ。俺は王子殿下を必死に守ったんだぞ!! なんでキレられてるんだ!
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