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25.なんでこんなことに
しおりを挟むなんでこんなことに。
って、俺、ここに来て何回言ってるんだ??
落ち着け俺。何も悲観的になることはない。
だいたい、ティウルが王子に会うのはゲームの通りで、彼は王子を好いているようだし、ここで彼と知り合い、王子ルートで幸せになるんだろう。
俺はそれに、一切干渉しなければいい。遠くから見守らせてもらおう。王子と一緒にいる時の幸せそうなティウルに、俺は癒されていたんだ。
だから今回は「なんでこんなことに」なんて言わなくていい。全てうまく行っている。
王子に会えると知って、ティウルは終始、俺が知っている笑顔で楽しそうにしている。さっきから鏡を見ながら、「ねえ、僕、かわいい?」なんて聞いてきて、同じ返事をするのに疲れるくらいだ。
「かわいいと思う……」
「本当!? よかった!」
嬉しそうに笑うティウルに、今にもヴァグデッドは飛びかかりそう。
三人で王子のところに向かって歩き出す前も、ヴァグデッドはずっと、ティウルに飛びかかろうとしていた。俺が涙ながらに頼んだら、なんとか止めてくれたが、今もまだ、ティウルを睨んでいる。ティウルに対する怒りを収めてくれたわけではないらしい。
俺は仕方なく、ヴァグデッドからティウルを守るように、二人の間に入って歩いていた。
ハラハラしながら歩く俺の隣で、ティウルはひどく楽しそう。
「本当に可愛い? 僕、王子殿下に会うなら可愛くしていたいんだから、ちゃんと真面目に答えてね」
「ま、真面目です……」
答えると、ティウルは嬉しそうに笑う。
怯える必要はない。俺のバッドエンドは、嫉妬に狂った俺が、ティウルに嫌がらせをすることで招かれるんだ。だったらティウルを応援することは、バッドエンドに近づくようなことじゃない。
絶対にそうだ。
自分で何度も頷く。無理矢理、自分を納得させる。全ては、間違ってなんかない。ティウルと王子の邪魔をしないよう、最大限の注意を払えばいいだけだ!!
キラフェールルートに行くと、ティウルは王子の伴侶になり、共に国を守っていくことになる。しかしバッドエンドなら、ティウルは嫉妬に支配された王子に塔に監禁される。
だけど……とりあえず、なんて理由で俺に短剣を向けたティウルが、大人しく監禁されるだろうか。むしろ、監禁されているふりをしながら、裏で王子を操るくらいしそうだ。
ティウルは王子を愛しているんだし、ティウルが幸せなら、それもありか?
「あ、あのさ……ティウル……ティウルは…………あの……」
「どうしたの?」
なんだかニコニコ笑ってるけど、顔、怖い!!
「フィーディが僕に協力してくれるなんて嬉しいな!! 心強いよ!」
「……そ、それは何よりです……」
「それで? なに? 僕、こう見えて王子殿下に会う前で結構ドキドキしてるんだから、手短に済ませて」
「あの……えっと、はい。ごもっとも……だ、だけど、あのその……あ、あの……ち、ちなみに、ティウルって……王子が好きなん……だよね?」
「へ? あー、うん。好きだよ?」
「そ、そうか……よ、よかった……」
「だって、キラフェール様は、いずれ国王になるんだよね?」
「へ!? あっ……はい。多分……第二王子だけど……魔力の点から、有力視されてるのはキラフェール殿下だって聞いたことがある……」
「だよね!? だから好き!」
……それは王子が好きなのではなくて、いずれ国王という地位が好きなのでは?? ティウルって、王子と愛し合うはずなのに。あ、あれーー??
だけどティウルはニコニコと本当に楽しそう。
「いずれ王子が国王になって、伴侶の僕の言いなりにしてしまえたら、あの気に入らないクソ貴族どもを、いびって虐めて嬲って踏み躙って冤罪かけて無惨に処刑台で殺せるだろー? だから大好き! 王子様! 僕はぜーったいに王子様の伴侶になるんだ!!」
「…………」
……今、なんて? その、邪気のない顔でなんて言ったの!?
そんなこと言うなら、むしろ邪悪な顔して欲しかった。顔だけ俺の知ってる無邪気なティウルで微笑まないで! 怖さが倍増する!
だいたい、そんなことしたらティウル自身もめちゃくちゃ恨まれるっ……いつか貴族たちにも仕返しされる!
それが分かっていながら、王子に会わせていいの……か?
恨まれたティウルが貴族たちが送った暗殺者に殺されるかもしれないし、やり過ぎた彼の方が断罪されて処刑台に上がるのかもしれない。俺のせいで無惨にティウルが処刑……それは嫌だ……悪夢にうなされそう。
そんなの、伴侶になってもティウルが幸せとは思えない。
それに、王子殿下は一歩間違えばティウルを監禁してしまうような男だ。へたをすれば、返り討ちに会って酷い目に遭うのはティウルの方かもしれない。
このティウルは怖いけど、ティウルが泣くのは嫌だ。
だけど俺のバッドエンドも嫌だああああっっ……! だから、ティウルの邪魔をするわけにはいかない。できることなら関わりたくない!
しかし遠くから見てるだけってのも許してくれそうにないし、かと言って、ティウルと王子がうまく行っても、幸せな結末が来るとは思えない!
ど……どうしよ、う? 一体、どうするのが正解なんだ?
ダメだ。混乱してきた。俺は全てを知っているのに、何にも分からなくなりそうだ。
すると、ヴァグデッドがティウルに振り向いて言った。
「お前、王国が嫌いなの?」
「……王国っていうより、貴族が気に入らないだけ」
「ふーーん……」
にやあっと、ヴァグデッドが笑う。
こいつは何がそんなに嬉しいんだ……き、聞いてみたい。なんで王子に会いに行きたいのか。
もしかしたら、すごく友好的な理由かもしれないじゃないか。これから視察に来る王子殿下を案内したい、とか。
「あ、あの……ヴァグデッド。あのさ……な、なんでヴァグデッドはキラフェール殿下に会いたいんだ?」
「王家は俺をここに幽閉してるんだよ? 顔くらい見ておきたいじゃないか」
「……」
どうしよう。もう、王子に飛びかかるヴァグデッドしか想像できない。
……一体、なんでこんなことに……どこで選択肢を変えたら、俺は「なんでこんなことに」って言わなかったんだろう……
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