24 / 96
24.やり直したいのですが
しおりを挟むすでに泣きそうになっている、情けない俺。やっぱり俺は、どこまでも情けない。ヴァグデッドまで出てきて、ますます殺されるんだと思って、ずっと涙を流す俺を、ヴァグデッドは睨んでいた。
「なんかされた?」
「へ!?? お、俺?? あ、いや、な、な、何……も……」
「何もされてないわけないだろ!!」
「ひっ……!」
「ティウルが短剣持ってる。なんかされただろ?」
怯えてへたり込んだままの俺の足に、ヴァグデッドが降りてくる。そして、俺の顔に鼻先を近づけてきた。
「……俺、一応心配してるんだけど?」
「し、心配!?? あ……朝食の卵なら生卵も用意してあると思います……」
「なんで今俺が卵の心配すると思うの!? フィーディは俺の手下だろ。なんかされたんなら言え」
「……ちなみにそれって言ったらどうなるんでしょう……?」
「そこにいる奴殺す」
「なんっにもされてません!! 仲良く友達同士語らっていただけです!!」
即座に立ち上がって答える。
ティウルを殺すなんて、もってのほかだ。この竜は俺を殺す気か。
ティウルは、いずれ王子ルートに行って、ティウルに酷いことばかりする俺を王子と共に打ち負かす。最終的には、俺は王子の伴侶に無礼を働いた反逆者として公の場で告発され、その後はずっと陰でヒソヒソ言われながら怯えつつ生きていく毎日だ!
怯えつつ生きていくところは今と変わらない気がするが、王子が来るこの日に、ティウルに俺が手を出すなんて、絶対にダメだ!
だいたい、ティウルが死ぬなんて俺が嫌だ。無垢で優しくて元気な主人公が、俺は気に入ってたんだ。こっちのティウルは怖いけど、それでも俺はティウルが死ぬなんて嫌だーーーー!!
「お、お話ししていただけです! と、とと友達だから! 何にもされてない!!」
慌てて言い訳を続ける俺の声を遮って、凛としたティウルの声が響く。
「殺す気で呼び出した」
何言ってんのこの人!?? 今は話を合わせるべきだろ? なんでそんなこと言うの!? 俺、一応主人公くん守ろうとしてるのに!
そして……殺す気で呼び出したって言った……? 本当に俺を殺したかったのか……?
それはそれでショックだ。だが、ショックを受けて落ち込んでる場合じゃない。だってヴァグデッドがずっとティウルを睨んでる。
ティウルも、俺が知ってるよりは魔法を使えるみたいだけど、昨日廊下を破壊していたヴァグデッドを止められるとは思えない。
「あっ……あの!! な、仲良くしましょう!!」
慌てる俺は全くの無視で、俺の目の前でヴァグデッドとティウルは睨み合ってしまう。
「……俺の手下に手ェだして、ただで済むと思った?」
「はあ? 僕の魔法でぐっすり眠ってた間抜けはそっちだろ? よく眠れたあああ?」
「寝ているところを襲うなんて、図々しいにも程があるね。君の魔力程度じゃ、寝てる俺相手じゃないと勝てないもんね?」
「今の今まで寝ていたくせに、何を偉そうに言ってんの? ここで刻んでやろうか?」
……なんでこんなことになってるんだ。俺はただ、何事もない平穏な日々を送りたいだけなのに。それなのに、なんでこんなことになってるんだ!? なんで二人とも、仲良くしてくれないの!?
「や、やめてくれ!! 頼むから!! 何か気に入らないことがあるなら俺を殴っていいからやめてくれーーーー!!」
「とりあえず、俺の手下に何したか教えてくれる? 倍にして返すから」
「は? 教えて欲しいんなら、もっと真面目に頼めば?」
二人とも、まるで聞いてくれない……少しくらい、俺の話を聞いてくれ。今だけでいいから。
まずい……なんとかして、二人の気を逸らさなくてはっ……!
「あ、あのっ……! あっ……あーーーー!! もう少しで王子が来る時間だ!!!!」
「え!? 王子!!」
ティウルは驚いて、俺が指差した方にふりむく。
王子という一言が効いたらしい。わかりやすい人だ。
そして、ヴァグデッドまでもが反応してくれた。
「王子?」
「あ、あの……た、多分、これから、キラフェール殿下がいらっしゃるんだ…………ティウルは、王子に会いたいらしい……」
「ふーん……キラフェールが、ね……」
ヴァグデッドが、ニヤリと笑う。な、なんだろう……俺、なんかまずいこと言っちゃったのかな??
そういえばヴァグデッドって、王都で暴れてここに連れてこられたんだっけ……もしかして、ウィエフみたいに王家を恨んでいたりするのか!?? ま、まずいこと言っちゃった!!??
「あ、あの……ヴァグデッド…………」
「……行こうか……王子殿下のところ」
彼はニヤリと笑って羽を広げる。喧嘩を止めてくれて何よりだけど、ますます状況が悪化した気がする!
「い、いや……あ、あの……やっぱりやめましょうか……あの、多分俺の勘違いだったかなーって……」
なんとか王子のところへ向かうことを阻止したい俺だけど、ティウルは俺の手をぎゅっと握って、微笑んだ。
「協力……してくれるんだよね?」
……手を握る力が、昨日の五、六倍はありそうなんですが……
そして手の力からは考えられないくらい、ニコニコしてる。笑顔で圧力をかけられているんだ。
「あ、いやー…………あのぉ……そのぉ……」
怖くて、「痛い」って言うこともできないでいたら、ヴァグデッドがそいつの手を羽で叩いて払ってくれる。だけど彼も、俺に振り向いて笑う。
「そいつのことはここで殴り倒していくことにして……フィーディ、キラフェールがここに来るなら、会いに行こうか」
「………………」
なんで俺、あんなこと言ったんだろう。
ヴァグデッドに魔法をかけるあたりからやり直したいのですが、ダメだろうか……
48
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】
瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。
そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた!
……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。
ウィル様のおまけにて完結致しました。
長い間お付き合い頂きありがとうございました!
悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
*
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!
華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる