悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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24.やり直したいのですが

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 すでに泣きそうになっている、情けない俺。やっぱり俺は、どこまでも情けない。ヴァグデッドまで出てきて、ますます殺されるんだと思って、ずっと涙を流す俺を、ヴァグデッドは睨んでいた。

「なんかされた?」
「へ!?? お、俺?? あ、いや、な、な、何……も……」
「何もされてないわけないだろ!!」
「ひっ……!」
「ティウルが短剣持ってる。なんかされただろ?」

 怯えてへたり込んだままの俺の足に、ヴァグデッドが降りてくる。そして、俺の顔に鼻先を近づけてきた。

「……俺、一応心配してるんだけど?」
「し、心配!?? あ……朝食の卵なら生卵も用意してあると思います……」
「なんで今俺が卵の心配すると思うの!? フィーディは俺の手下だろ。なんかされたんなら言え」
「……ちなみにそれって言ったらどうなるんでしょう……?」
「そこにいる奴殺す」
「なんっにもされてません!! 仲良く友達同士語らっていただけです!!」

 即座に立ち上がって答える。
 ティウルを殺すなんて、もってのほかだ。この竜は俺を殺す気か。

 ティウルは、いずれ王子ルートに行って、ティウルに酷いことばかりする俺を王子と共に打ち負かす。最終的には、俺は王子の伴侶に無礼を働いた反逆者として公の場で告発され、その後はずっと陰でヒソヒソ言われながら怯えつつ生きていく毎日だ!

 怯えつつ生きていくところは今と変わらない気がするが、王子が来るこの日に、ティウルに俺が手を出すなんて、絶対にダメだ!

 だいたい、ティウルが死ぬなんて俺が嫌だ。無垢で優しくて元気な主人公が、俺は気に入ってたんだ。こっちのティウルは怖いけど、それでも俺はティウルが死ぬなんて嫌だーーーー!!

「お、お話ししていただけです! と、とと友達だから! 何にもされてない!!」

 慌てて言い訳を続ける俺の声を遮って、凛としたティウルの声が響く。

「殺す気で呼び出した」

 何言ってんのこの人!?? 今は話を合わせるべきだろ? なんでそんなこと言うの!? 俺、一応主人公くん守ろうとしてるのに!

 そして……殺す気で呼び出したって言った……? 本当に俺を殺したかったのか……?

 それはそれでショックだ。だが、ショックを受けて落ち込んでる場合じゃない。だってヴァグデッドがずっとティウルを睨んでる。

 ティウルも、俺が知ってるよりは魔法を使えるみたいだけど、昨日廊下を破壊していたヴァグデッドを止められるとは思えない。

「あっ……あの!! な、仲良くしましょう!!」

 慌てる俺は全くの無視で、俺の目の前でヴァグデッドとティウルは睨み合ってしまう。

「……俺の手下に手ェだして、ただで済むと思った?」
「はあ? 僕の魔法でぐっすり眠ってた間抜けはそっちだろ? よく眠れたあああ?」
「寝ているところを襲うなんて、図々しいにも程があるね。君の魔力程度じゃ、寝てる俺相手じゃないと勝てないもんね?」
「今の今まで寝ていたくせに、何を偉そうに言ってんの? ここで刻んでやろうか?」

 ……なんでこんなことになってるんだ。俺はただ、何事もない平穏な日々を送りたいだけなのに。それなのに、なんでこんなことになってるんだ!? なんで二人とも、仲良くしてくれないの!?

「や、やめてくれ!! 頼むから!! 何か気に入らないことがあるなら俺を殴っていいからやめてくれーーーー!!」
「とりあえず、俺の手下に何したか教えてくれる? 倍にして返すから」
「は? 教えて欲しいんなら、もっと真面目に頼めば?」

 二人とも、まるで聞いてくれない……少しくらい、俺の話を聞いてくれ。今だけでいいから。

 まずい……なんとかして、二人の気を逸らさなくてはっ……!

「あ、あのっ……! あっ……あーーーー!! もう少しで王子が来る時間だ!!!!」
「え!? 王子!!」

 ティウルは驚いて、俺が指差した方にふりむく。

 王子という一言が効いたらしい。わかりやすい人だ。

 そして、ヴァグデッドまでもが反応してくれた。

「王子?」
「あ、あの……た、多分、これから、キラフェール殿下がいらっしゃるんだ…………ティウルは、王子に会いたいらしい……」
「ふーん……キラフェールが、ね……」

 ヴァグデッドが、ニヤリと笑う。な、なんだろう……俺、なんかまずいこと言っちゃったのかな??

 そういえばヴァグデッドって、王都で暴れてここに連れてこられたんだっけ……もしかして、ウィエフみたいに王家を恨んでいたりするのか!?? ま、まずいこと言っちゃった!!??

「あ、あの……ヴァグデッド…………」
「……行こうか……王子殿下のところ」

 彼はニヤリと笑って羽を広げる。喧嘩を止めてくれて何よりだけど、ますます状況が悪化した気がする!

「い、いや……あ、あの……やっぱりやめましょうか……あの、多分俺の勘違いだったかなーって……」

 なんとか王子のところへ向かうことを阻止したい俺だけど、ティウルは俺の手をぎゅっと握って、微笑んだ。

「協力……してくれるんだよね?」

 ……手を握る力が、昨日の五、六倍はありそうなんですが……
 そして手の力からは考えられないくらい、ニコニコしてる。笑顔で圧力をかけられているんだ。

「あ、いやー…………あのぉ……そのぉ……」

 怖くて、「痛い」って言うこともできないでいたら、ヴァグデッドがそいつの手を羽で叩いて払ってくれる。だけど彼も、俺に振り向いて笑う。

「そいつのことはここで殴り倒していくことにして……フィーディ、キラフェールがここに来るなら、会いに行こうか」
「………………」

 なんで俺、あんなこと言ったんだろう。

 ヴァグデッドに魔法をかけるあたりからやり直したいのですが、ダメだろうか……
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