悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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22.狙ってるんだろ

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 ティウルは、じっと俺を睨んで言った。

「…………それで、ここに僕を連れて来たの?」
「え!? あ、うん…………ティウルは……俺に……用があるんだろ? その……昨日からずっと……俺に声をかけて来ていたから…………」
「……」
「こ、ここなら、他の人にも聞かれない。警備兵の人も、ここまでは来ない…………お、俺のことが気に入らない……んじゃないのか?」
「……まさか、それで自ら人気のないところに僕を呼び出したの?」
「…………け、警備兵の人がたくさんいたら、ティウルも、は、話しづらいかと思って……」
「…………」
「あ、あのっ……で、できれば、今俺に全部ぶつけて、それで、全部終わりにしてほしい…………あのっ……!! あ、えっと…………できれば、怖くない方法で……」
「……」
「……あの……殴るなら、なるべく怖くないやり方で…………断罪はやめてほしくて…………あの……怖くなければ、なんでもいいです……」
「……」

 ティウルは、ずっと黙っていた。

 ど、どうしよう……やっぱり、気に障ったんだろうか。だけど、他にどうしていいかも分からなかったんだぁぁ……

 これ以上、俺の揉め事のせいで、ヴァグデッドに魔法をかけてほしくない。あの竜、何を言っても俺から離れそうにないし、だったらティウルにやめてもらうしかない。

 しばらく待つと、ティウルは俺を睨みつけて、ニヤリと笑った。

「バーカ」
「え!? えっ……!?」
「君は僕が君を殺すためにここに呼び出してたら、どうする気なの?」
「………………え?」

 ……えーーっと? 今、なんて? 殺す?? 殺すって言いましたか?

 き、聞き間違いかなぁ? さすがに、そんな返事が来るとは思わなかった。

 ティウルが、出会ってすぐに俺を嫌うことはあると思う。
 自分が人に好かれるような奴じゃないことくらい、分かっている。
 だけどさすがに、天真爛漫で優しい主人公に、出会った次の日に殺意を持たれるなんて、思わなかった。

 な、何かの冗談??

「あ、あのー……えっと? ティウル?」

 恐る恐る声をかける俺に、ティウルは一気に距離を詰めてくる。その右手には、短剣が握られていた。
 剣が俺の目の前で光ったかと思えば、首に微かに、冷たいものが当たった気がした。

「え……?」

 動けなくなった。首元に、短剣を当てられている。あと少し前に動いたら、首が落ちてしまう位置だ。

 な、なんで急に……!!??

 ティウルは、凶悪な顔をして笑っていた。

「邪魔なんだよ。お前」

 邪魔……? 俺が? なんで? なんでこんなことされてんの!? なんで刃物が俺の喉元に突きつけられてるの!?

「ひっ……うああっ!!」

 逃げるはずが、足に力が入らない。俺の両足は、自分でもびっくりするくらい震えていた。これだけ震えてたら、立っていられない。へたり込んで、ティウルを見上げることしかできない。

 逃げなきゃ……でも、足がこれじゃ逃げられない……そもそも、あんな風に刃物を持っている人に背中を向けるのも怖い。

「あっ……あにょっ……オレっ……にゃっ、な、なにきゃっ……何かしたでしょうかああっ!?」
「…………鼻水出てる」

 そんなの俺だって気づいてる。涙だって滲んでる。だって相手は俺を殺す気だ。

 いきなり殺そうとしてくるとは思わなかった。
 天真爛漫、無邪気を絵に描いたような可愛い主人公どこ行ったんだよ!? ゲームではいつもニッコリ優しい好青年だったのに!
 あ、でも、よく見ると俺の前に立つ笑顔はゲームの時の無垢な微笑みそのもの。だから余計に怖い!

 ガタガタ震える俺に、ティウルが手を出す。

「ひいぃっ……」

 泣きながらせめて頭を両手で守って体を丸める俺。
 だけど、ティウルが出したのは、綺麗に畳まれた白いハンカチだった。

「な、なにっ……!?」
「……ふいてよ。顔。あまりに汚いから」
「……」

 そっと、ハンカチに手を伸ばす。だけど、それを受け取ってしまう直前で、慌ててすぐに手を引っ込めた。危なかった。危うく罠にかかるところだった。

 俺は思いっきり、首を横に振った。

「い、いらないっ……!」
「……遠慮しなくていいよ。汚れても、洗えばいいだけだから」
「そんなこと言って! 後で洗剤代とか水道代とか言われても払えませんから!」
「……」
「俺が触れて気持ち悪いから弁償とかいうんだろう!! 金などないからな! 無一文だ! ない袖は振れない! ざまあみろ!!」
「あ?」
「すみません……お金はないんです」
「……請求したりしないから……服で拭くなよ!!」

 そんなことを言われても、俺はハンカチなんて持ってない。俺がこの城に持って来れたのは、俺自身と、今着ている服、それと、ずっと使っていたボロボロの短剣だけなんだーー!!

 ハンカチなんてなくても顔は拭ける。涙を拭いた俺は、なんとか立ち上がることもできた。

「な、なんでっ……お、俺が邪魔って、なんでなんですか? お、俺っ……! 俺、あなたに何かしましたか!? 俺が何をしたっていうんだっ!! 昨日会ったばかりですよね!?」
「お前、王子殿下を狙ってるんだろ?」
「…………は?」

 狙ってるって、なんのことだ!?
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