悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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21.やめてくれないか?

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 ビクビクしながら、なんとか畑の近くまで来ると、そこは背の高い草木が生い茂っていた。ゲームの通りだ。
 足元に気をつけながら、俺は、ティウルに振り向いた。

「あの……ティウル」
「……? どうしたの?」
「お、俺はっ……その……あの……き、君のことがすきだ」
「…………は?」
「あっ……! ち、違う!! す、好きって、あの……友人として慕ってるって意味だ!!」
「ああ……うん……紛らわしいな……」
「ごめん……その……た、ただ、分かってほしいんだ! 俺には、君に対する敵意はまるでないことを……」
「うん……昨日からずっとそんなこと言ってたけど、分かってるよ? 君が僕に、危害を加える気がないことくらい」
「本当か!? そ、それはありがたい……」
「君みたいに、ビクビクおどおどしてる人が、危害を加えてくるとは思えない」
「そ、そうか……」

 それはそれで、ちょっと情けない気もする。
 だけど、敵意がないことを分かってくれているならありがたい。何よりもまず、俺はそれを伝えたかったんだ。

 俺には、彼に話さなくてはならないことがある。

 ティウルと対峙する俺だが、怖いせいで、少し前屈みになったままだった。

「は、初めて会ったのに……俺みたいな奴と優しく話してくれただろ? そんな奴、あんまりいないんだ。本当に……それは、感謝している…………本当に、嬉しいんだ!!」
「……どうしたの? 僕も嬉しいよ? 公爵家の御令息様が、僕みたいな奴隷と手を繋いでくれるなんて」
「……そんなことはない。ティウルは、俺が知っている中では、最高の魔力の持ち主だ」
「……なんで会ったばかりなのに、僕の魔力のことなんて知ってるの?」
「そ、それは……そんな気がしただけだ!! その、本当に嬉しい!! だから、その……勘違いしないでほしい!! 君とは、仲良くしたいし、き、傷つけようとは決して考えてない!! 本当だ!!!! 約束する! 俺は絶対に君を傷つけたりしない!」
「……どうしたの? 急に……そんなに熱烈に告白されると、僕は困るんだけど……」
「あっ……! 違います違います違います! 決してあなたを傷つけたくはありませんって言いたいだけなんです!!」
「……えっと……フィーディ?」
「だからその……これから話すことは、決して、ティウルを傷つけたいわけじゃない。それを分かってほしい……」
「なに? 言いたいことがあるなら早く言ってほしいな」
「……だ、だったら話す……待たせてすまない。あのさ……ち、ちょっとだけ聞きたいんだけど……あの……き、昨日、俺の部屋……なんで、あそこが俺の部屋ってわかったんだ?」
「…………え?」
「……ティウルは、俺の部屋は俺の部屋って分かるのに、なんで……自分の部屋は分からなかったんだ?」

 ……これは、昨日のヴァグデッドの受け売りなんだけど……

 こんなの問い詰めているみたいで、し、心臓の調子がおかしくなりそう……心臓どころか喉までドキドキいっているみたいで、今にも吐きそうだ。

 ほ、本当に、こんなことして、いいのかなぁ……?
 できることならしたくない! 俺にちょっかい出すくらいなら、我慢できる。だけど、今だけはどうしても言わなきゃならないんだーーーー!

 頑張れ俺! 怖くないって、心の中で唱えながら続けるんだっ……!

「あ、あの……怖くない……」
「は?」
「違う! 今のは心の声だっ……聞こえなかったことにしてくれ…………あの……お、俺の部屋が分かるのに、な、なんで自分の部屋は分からなかったのかなぁって……思って……」
「君に会うことに夢中で、忘れちゃってた」
「……自分の部屋の場所って忘れますか……? 俺の部屋の場所は分かるのに…………」
「分かるよ」
「分かりますよね。すみません」
「……たまたま辿り着いた部屋が、魔物に襲われてるみたいだったから入ってみたら、そこがフィーディの部屋だっただけ」
「……でも、俺の部屋に来た時、ノックしたって言ってませんでしたか? 俺の部屋だって分かってたからノックしたんじゃ……」
「は?」
「たまたま見つけたんですよね! すみません……」
「さっきからなんなの? なにが言いたいの?」
「ひぃっ……! お、俺だってこんなこと言いたくないんだ!! 問い詰めるようなことしてごめんっ……揚げ足取りたいんじゃない……」
「……言いたくないなら、言うのやめれば?」
「……でも、あの……これだけは、き、聞いてほしいっ……!」

 決意して顔を上げたら、声が裏返っていた。ティウルは、少し驚いていたようだったけど、構わず続けた。

「ご、ごめんっ……あのっ……その……さっき……お、俺の部屋で、ヴァグデッド……起きなかったんだ!! 多分……眠りの魔法にかかってる……」
「……なんで、そんなこと分かるの?」
「俺も……眠りの魔法をよく使う。ティウルみたいにうまくなくて、しょっちゅう失敗するけど……」
「僕がやったって言いたいの?」
「それはっ…………ぁのっ……すみません……やっぱり、そうです……ね、眠りの魔法を使えるから、分かるんだ!! 魔法で眠らされているのか、そうでないのか……」
「…………」
「俺が気に入らないなら好きしていい! いやよくないっ……怖いことはダメだし断罪もダメだし白い目で見られるのも嫌だー……」
「は?」
「あぁっ……すみませんすみませんすみません……なに言ってるか分からないと思います……」
「自覚はあるんだ」
「だ、だからっ……俺のこと連れ出したり俺に関わって来たり……あ、自意識過剰だったらすみません……お、俺の方に用があるんですよねっ……ヴァグデッドを眠らせていたし……俺のこと、呼び出すのに、ヴァグデッドが邪魔だったから……そ、そういうのだけ、やめてほしい!!!!」
「え?」
「俺を呼び出したいなら、俺に言ってくれっ……そしたら来るから……俺に用があるなら、俺だけ狙ってほしい! ヴァグデッドのことは……なんとか撒くから……ま、撒けるか分からないけど、こ、今回は上手くいっただろ!?? だ、だから……その、ヴァグデッドに……魔法をかけるのは……やめてくれないか?」
「……」

 ティウルが俺を睨んでいる。

 本当に怖い……だけど、俺を呼び出すためだけにヴァグデッドに魔法をかけるのはやめてほしい。あいつ、ああ見えて多分昨日は魔物が来ないように見張っていてくれたんだ。勘違いかもしれないけど、俺は感謝しているんだ。

 部屋を出る時に、ヴァグデッドには目が覚める魔法をかけた。眠りの魔法は相手を傷つけるものじゃないし、ヴァグデッドも、すぐに目を覚ますだろう。

 だけど、こんなことが繰り返されるのは困る。
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