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19.起きてくれ
しおりを挟むど、どうしよう……起こしていいのか?
眠るヴァグデッドを前に、俺はしばらくおろおろしていた。
早くしないと朝食の時間も終わってしまう。食事が取れるなら、ちゃんと食べておいた方がいいはずだ。
昨日俺を追いかけて来た竜は、俺が抱っこできそうな大きさにまで縮んで、寝息を立てている。昨日俺を殺そうと追って来た奴には見えない。
……と、とりあえず、起こそう。眠るのは、ご飯を食べた後でもできる。ちょっと起こしたからと言って、食い殺されたりはしないだろう。昨日、腕を食いちぎるとか言われたような気がするが……
俺は庭の整備に行かないといけないから、そろそろ起こさないと。
俺は、ヴァグデッドの小さな体に触れて、その体を揺さぶった。
「おい……あの…………ヴァグデッド。お、起きてくれ。ヴァグデッド……」
何度か呼んでも、ヴァグデッドは起きてくれない。ぐっすり眠ったまま、ずっと寝息を立てている。
「……ヴァグデッド?」
そっと、その体から手を離しても、彼はずっと目を瞑っていた。全く起きる気配もない。
そんなに眠いのか?
彼の肌に強く触れる。やっぱり彼は目を覚まさない。
その時、ドアの方からコンコンと音が鳴った。
びっくりして、心臓が痛いくらいだった。誰か来たんだ。
魔物じゃないよな……魔物がノックするなんて、聞いたことないけど。
恐る恐るドアに近づいて、それに耳を当て、ドアの向こうの様子を探る。すると、ティウルの声が聞こえてきた。
「……フィーディ? いるの?」
「……ティウル? ど、どうした? こんな朝早くから……何かあったのか? まさか断罪っ!!??」
「だんざい? なんのこと?」
「は!? いやっ……ち、ちがっ……違うならいいんだ!! えっと……どうしたんだ? こんなに朝早くから」
「……フィーディ、今日は朝から庭の整備に行くんだろ?」
「う、うん……」
「僕も行くよ」
「えっ……!? え!!?? だ、だめだっ!! 絶対にダメだ! あ、危ないだろ!?」
そんなの、絶対にダメだ。万が一、怪我でもさせたら、ますます俺はバッドエンドに近づく!
それに、今日は大事な日。この城に、主人公の攻略対象の王子殿下が来るんだ。王子は、主人公と愛を深め、いずれ俺のそれまでの悪行を暴き、最終的には断罪する人だ。そんなものが来る時に、ティウルを危険に晒すわけにはいかない!
「ティウルは城を壊していないんだし、行く必要はない!! そ、それに、今日は王子殿下がいらっしゃる!! ご挨拶も必要だろう!」
「……フィーディも知ってるんだ。それ」
「へ!? あ、ああ……うん…………と、とにかくっ……整備には俺一人で行くからっ……」
「でも、フィーディ一人じゃ心配だよ……外は魔物がうろついていて危険だ! それに、ダメって言われても、ついていくから」
「でもっ!」
「ついていくから」
強くそう言うティウルは、引いてくれそうにない。
俺は、まだ眠っているヴァグデッドに振り向いた。そっと近づくけど、彼はやっぱり目を瞑ったまま。
「……ごめん……あ、その、お、起きたら、ごはん食べた方がいい……」
まだ寝ているヴァグデッドに告げて、目が覚める魔法をかける。これで、しばらくしたら目を覚ますだろう。
それから俺は、彼に書き置きを残して、ティウルが待っているドアの方に近づいた。
けれど彼は、勝手に部屋のドアを開けてしまう。
鍵をかけてたのに。魔法を使ったんだろう。
ティウルは俺に向かって、にっこり笑う。
「おはよう。フィーディ」
「お、おはよう……」
「ヴァグデッドは……」
彼は、部屋の中をぐるっと見渡して、ベッドの上のヴァグデッドを見つけると、にっこり笑った。
「まだ寝てるんだ。じゃあ、眠らせてあげた方がいいね」
「……」
「朝食の前に終わらせちゃおうよ。すでに警備兵の人たちには、ルオン様が連絡してくれているみたいだから」
「ルオン様が……そ、そうか……」
「それに、朝の方が魔物は少ないみたいだよ? 今のうちに行こう!」
そんな設定あったかな……?
だけど、彼は本当についてくる気だろう。なんだか、断っても無駄な空気を感じる。
俺は一度ヴァグデッドに振り向いて、腹を括った。
「わ、分かった……ティウル。一緒に行こう……今すぐ用意するから、待っててくれ」
「本当!? 嬉しいっ……!」
ティウルが明るい声をあげる。
俺は急いで、外に出る準備を始めた。
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