悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
上 下
12 / 96

12.黙ってろよ!

しおりを挟む

 俺は必死に逃げようとしているのに、ヴァグデッドは俺を逃してくれそうにない。

 なんで急にこんなにキレてるんだ!? そこまで怒らなくてもいいだろうっ……!! 俺は絶対に、そんなに悪いことしてない!!

 こんな竜に捕まっていたら、絶対にすぐに食われてしまう。

「は、離せっ……! ヴァグデッド!!」
「……うるさい…………大人しくしてないと、殺す」
「ひっ……」

 震え上がった俺は、言われた通り、すぐに大人しくした。

 すると竜は微かに笑って、痛いくらいに抱きしめていた腕を、やっと少し緩めてくれる。

「……そんなに臆病なくせに、何で俺のこと連れて来たの?」
「だ、だってそれは…………ち、血のこととか……ぬか喜びさせちゃったし……ま、待てよっ……! お、俺がお前を眠らせて逃げたこと、知ってるのか!?」
「……知ってるよ」
「な、なんで…………お、俺の魔法で寝てたんじゃないのかっ……!? さ、さては最初から起きてたな!?」
「起きてた。あの程度の魔法、俺には効かないから」
「……」

 ぬか喜びは俺の方か。自慢の魔法だったのに、俺はバカだ。

 ここに来てから、自分の馬鹿を自覚することばかりじゃないか。俺は必死だったのに。だったら最後まで寝たふりしていてくれればいいだろう。人をからかった挙句脅すとは、なんて極悪な竜だ。

 すぐに城を壊すような乱暴者が二人になってしまった。しかも俺は、俺の体を食いちぎると言った竜に捕まっていて、出会ってすぐに、人を殺せる魔法を放った男に睨まれている。

 助かったというより、ますます大きな危機が襲ってきただけだ。

 ウィエフが俺たちを睨んでいる。このままでは、何をしてくるか分からない。
 とにかく今は、この危機から少しだけでも逃れる方法を考えなければっ……!

 俺は、ウィエフに向かって、できるだけ声を張り上げた。

「あ、あ、あのっ……! 俺っ……な、何かしましたか!? き、き、き、急に、こ、こんな……こんなことされるいわれ……な、ないような気がする……んですけど…………」
「されるいわれがない? 私の行動を見張っていたくせに……」
「なんの話ですかっ……!? 俺は何もっ……何もしていません!」
「なぜあなたは、私がその竜の食事を用意することを知っているのです?」
「え? だ、だって……」

 前世の知識で……とは言えない。嘘をついたと思われたら、ますますウィエフを怒らせる。

 ウィエフがいつからヴァグデッドを利用しようとしていたのかは知らないが、もしかしたら、計画の一端を知られたと勘違いしたのかもしれない。
 だが、だからと言って、いきなり人を死に至らしめるような魔法を放つのはよくないだろう! ヴァグデッドが庇ってくれなかったら、俺は頭ごと燃えていたんだぞ!

「だ、だから、それはその…………な、なんとなく……他に知っていることがあるわけではないです!」
「…………は?」
「あっ……」

 しまった。余計なことを言ってしまった。

 ますます焦っていると、俺を抱きしめたままのヴァグデッドが、平然と言った。

「食事のことは、俺が頼んだんだよ。フィーディに」
「……あなたが?」
「俺はフィーディが気に入った。だからこれから食事の用意はフィーディにしてもらう」

 ニヤニヤ笑いながら言うヴァグデッド。

 俺を気に入っただと!? またそんなすぐにバレる嘘をっ……!

 ウィエフに嘘をついてはいけない。すぐにバレて、不信感を持たれたら、後で恐ろしい反撃をされる。
 他人を寄せ付けることを嫌い、常に警戒を怠らないウィエフは、気難しくてその内面が読めない人だ。
 彼には、「信じてください」も、言ってはいけない。彼にとってそれは、無理難題であるとともに、信頼を押し付けられたような気になるらしい。
 それくらい、彼にとっては信頼も嘘も恐怖なんだ。

 今度こそ、俺まで一緒に吹っ飛ばされる。慌てた俺は、ヴァグデッドに振り向いて泣きそうになりながら言った。

「ば、ばかっ……! この馬鹿っ!! は、早く訂正しろ!」
「なにを?」

 キョトンとして首を傾げるヴァグデッド。彼に抱きしめられた俺の体が、微かに温かくなって、回復の魔法をかけられたんだって分かった。さっきのウィエフの魔法で負った、小さな火傷が癒えていく。

 だけど、なんでこんなことをするんだ。俺を庇って回復して、どうするつもりなんだ?

 考えがまとまらない。疑いを晴らさなくてはならないのに。

「き、気に入ってるなんてっ……! お前は俺を弄びたいだけだろう!」

 怯える俺が面白いのだろうか。俺は竜に捕まってウィエフに睨まれて、怖くて仕方がないのに。

 ウィエフは、ヴァグデッドを睨んで「恩知らずな竜め」なんて悪態をついていたけど、しばらくして、分かりました、と呟いた。

「では、フィーディ。その竜を頼みます」

 ……あれ……? 思っていたより、ずっと簡単に了承してくれた……? ヴァグデッドの話していることは絶対に嘘なのに、どうしたんだろう……

「は、はい…………ま、任せてくださ……い……」

 ……成り行きとはいえ、本当に俺が竜の面倒を見ることになってしまった……

 もうこうなったら、腹を括るしかない。

 俺は、ヴァグデッドの服をグイッと引っ張って、そいつを見上げた。

「あ、あのっ……!」
「なに? 嫌だなんて言わないよね?」
「う……い、言わない……食事は俺がなんとか……で、出来る範囲でなんとかするからっ……! あのっ……血はなしで……!! ぬ、盗みもなしだ!! 俺の命に関わるんだ! た、頼むっ! た、頼むからっ……!!」
「いいよ」

 あっさり返事をされて、ホッとしたけど、やっぱり、楽しんでいるとしか思えない。

 ますます泣きそうな俺を、ウィエフは睨んで言った。

「城であったことの報告は、私がします」
「へ!?? で、でも……」
「いつもどおりヴァグデッドが暴れて城の廊下が破壊されて、これからは、ヴァグデッドの食事はあなたがする。それでいいですね?」
「え……えっと……は、はい……」
「分かりました。それでは、あなたはその竜を頼みます」
「わ、わかりました……」

 返事はしたけど、ウィエフは多分、聞いていない。彼はすでに俺たちに背を向け、歩き出してしまっている。
 追いかけて止める度胸もない俺は、一人楽しそうなヴァグデッドと共に、彼の背中を見送るしかなかった。

 どいつもこいつも、一方的すぎる……
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

処理中です...