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11.離してください!
しおりを挟むヴァグデッドは、渡せない。彼の面倒は俺が見ないと、命に関わる。
俺は、ますますその竜をぎゅっと抱きしめた。
「あ、あの……えーっと…………よ、よければ、か、彼の、その……食事の用意は……お、俺にさせていただけませんか?」
「……なぜです?」
ウィエフに睨まれて聞かれると、俺はすくみ上がりそうだったが、呑気にそんなことしてる場合じゃない。
「それは、だ、だって、その……俺、その…………あ! そうだ! 俺、ヴァグデッドさんの手下になったんです!!」
「……手下?」
「は、はい! だから、彼の食事は、俺が用意したいんです!!」
「……急に手下、などと言われても困ります。なぜ突然そんな話になったのですか?」
「え!!?? だ、だから、それはその……こ、これから城で仲良くやっていきたいし、その…………あ、あなたも、忙しいでしょう?」
「あなただってここに、死霊の魔法の習得にきたのでは?」
「……はい。だけど、その……お、俺は暇なんで……」
「そうですか……わかりました。では、あなたにお願いします」
そう言って、ウィエフは微笑んだ。よかった。きっと分かってくれたんだ。なんて甘い考えが頭をよぎる。
ウィエフに背を向けて歩き出した俺だけど、ひゅうと、切り付けるように鋭い風が、背後から吹いた。
頬を切られるような風だった。
背後から焼けるような風が吹いてきて、肌が痛い。
振り向くと、真っ赤な風が、目に飛び込んできた。
けれど、俺の体はすぐに、何か微かに冷たいものに包まれ、視界も塞がれた。
何が起こったのか、分からなかったけど、俺の背中に回った手が、俺を強く抱きしめている。温かな吐息が俺の前髪を揺らして、見上げたら、すぐそばに知らない顔があった。
そいつの背中から生えた竜の羽が、俺たち二人を包んでいる。俺を抱きしめるこの男が、その羽で俺を守ってくれたらしい。
だけど……誰だこいつ? こんなやつ、俺は知らないぞ。どこから出てきたんだ?
相手の男は、俺を強く抱きしめて、ウィエフの魔法から俺を庇っていた。
その男の濃い紫の長い髪が、俺の頬にかかって、少しくすぐったい。髪の間から、見覚えのある金色の目が、魔法を放ったウィエフを睨んでいた。その羽は死霊を思わせるような禍々しい色をしているけれど、彼の羽のお陰で、俺は助かった。
羽に庇われていなかった床は大きく抉れて、カーテンは焼け落ち、照明は跡形もなくなり、窓ガラスは割れている。まともに食らっていたら、俺も消し飛んでいただろう。
嘘だろ……城の中でどんな魔法使ってるんだよ!
俺だけじゃ、絶対に防ぎきれなかった。俺を抱きしめる男が守ってくれなかったら、俺は死んでいた。
あまりの威力に震え上がる。いつのまにか、俺はその男にしがみついていた。
するとその男は、この状況が分かっているのかいないのか、驚くほど軽い口調で言った。
「大丈夫?」
「だ、だ、だいっ……」
大丈夫かだって? そんなはずないだろ! 俺はもう、怖くて怖くて、ずっと震えているのに。
だけど、この男の声、聞いたことがある。さっきまで俺を追いかけていた性悪な竜だ! じゃあこいつ……
「お前……ヴァグデッド……?」
「そうだよ? 気づかなかった?」
そう言ってそいつは、意地悪そうに笑う。
やっぱりそうだ!! なんだか知っているような気がしたんだ。俺がゲーム画面で見た、人の姿をしたヴァグデッドだ。
「な、なんで……人の姿になってるんだ?」
「竜の姿で抱き締めると、潰しちゃいそうだから」
「はあ!?」
つ、潰すって、なに!?? 俺!!?? 俺の体のこと!!?? 俺、潰されるところだったの!?? 何でいきなりそんなっ……
やっぱり、血と盗みを断ったこと、すごく怒っているんだっ……!
「は、離してっ……!! 離してください!」
今更ながら、暴れ出す俺。それなのに、そいつは俺を逃すまいと、ますます力を入れて俺を抱き締める。
な、何でこんなことされてるの!??
見上げるほどの大男に捕まった俺は、まるで獲物だ。このままじゃ本当に潰される!
「は、離してっ……ち、血の件なら謝るからっ……!」
「それはもういい……大人しくしろ。火傷、治してあげる」
「な、なんでそんなこと……な、生か!? 生で食べたいんだな!? 俺は餌じゃないっ……! た、たすけて! そこの人!」
「……そっちに助けを求めるな……」
ゾッとするような目で、ヴァグデッドが俺に顔を近づけてくる。
俺がウィエフに助けてと言ったのが気に食わないようだが、こんな怖い竜に捕まったら、誰でもこうなると思う!
「た、助けてっ……! 食べないで潰さないで殺さないでっ……!」
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