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5.怒らせた?
しおりを挟む内心怖くて、今にも逃げ出したい俺。
誤解されたか? そんなつもりはなかった。むしろ、今、俺ほど主人公くんを大切にしようと誓っている奴はいないと思う。むしろ、誰よりも彼を敬うつもりでいるんだぞ。
それなのに、こんなところでそんな誤解をされてたまるか!
大急ぎで言い訳をしなくてはっ……! こんなところで誤解されてバッドエンドなんて、冗談じゃない!
「あっ…………えーっと……だ、だから、おれ……私は、そんなつもりではなく……しゅじ……ティウルさんとは…………な、なるべく関わりたくない……ではなく! その…………む、向こうも、俺なんかに会いたくないんじゃないかな……」
……俺って、言い訳下手だな。しみじみ思う。思ってる場合じゃないんだけど、本当に、そう思う。
会いたくないんじゃないかなって、それは俺の本音だろ! そんなことをオロオロと白状して、どうしようと言うんだ!
しかし、焦れば焦るほど何も出てこなくなるのが言い訳。
慌てるばかりの頭で何も言えずにいると。
ヴァグデッドは、俺の前で、多分微笑んだんだろう。口角が上がって、空中でくるんと一回転して見せる。
なんだこいつ。俺が焦っているのを見て、楽しんでいるのか? 手下のくせに……!
「感謝はしてる。俺は」
「か、かん!?? 感謝?? なな、なんで?? ……なのですか?」
「その、妙に硬い話し方もやめていい。俺のことも、ヴァグデッドって呼べばいい」
「い、いや、でも…………」
さすがにいつか裏切る人をそばに置くのは怖い。
緊張しながらオロオロしていると、ヴァグデッドは、俺の目の前でパタパタ羽を動かしながら楽しそうに笑った。俺がこうして焦っているのが楽しいのか?
こんな奴が取り巻きなんてごめんだ。というか、取り巻きなんかいたら俺が落ち着かない。
裏切られるのもの怖いし、そもそも誰かにずっとそばにいられるなんて、気疲れしすぎて死ぬ!
「あ、その……と、とんでもございません。こ、このまま、適度な距離を保ったままでいませんか?」
「えー……? なんで? せっかく面白そうなものが来たと思ってたのに」
「はっ……!? お、俺は、そんなんじゃ……」
俺には、面白がられるようなことはまるでない。友好的に微笑んでいてくれるのはいいが、馬鹿にされて笑われるのは嫌だ。
それなのに、恐怖で冷や汗が流れてくる。くそ……今は一体、どうするのが正解なんだ?
しかし、まだこの先の行動が決めきれないうちに、目の前のヴァグデッドは、冷酷に笑う。
「ところで俺……フィーディが逃げないように拘束するように言われてるんだ」
「へっ……!? こ、拘束!? な、何言ってるんですか? 逃げないようにって……わ、私は逃げる気なんて、まるでないんです!!」
「だから、その堅すぎる話し方もやめていいよ? 俺だって、こんなんだし」
「わ、分かった……やめるから、そっちも拘束なんて、やめてくれ!」
「でも、しろって言われてる」
「だ、だからっ……絶対にそれは必要ない! 俺は逃げたりしないし…………だ、大体っ……お前、俺の手下だろっ……あ、じゃなくて……あ、案内とか、護衛とかしてくれるんだろっ……!??」
「手下?」
「ち、違っ……!! 違う違う違う! す、すみません……ふ、不適切な言い方だった。し、城で困ったことがあれば、お前を頼るように言われていたから……」
「……それで、手下かー……」
「違う違う違う違う! そうじゃなくて……」
「俺を手下にする気でいたの? すごいな……そんな奴、初めて会った」
「だからそのっ……」
愚にもつかない言い訳を繰り返す俺の前で、そいつの羽が、バキバキと骨が軋むような音を立てて伸びていく。羽だけじゃない。小さな竜だったその体の尻尾が伸びて、胴体が膨らんで爪が伸びていく。
怒らせたみたいだ……
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