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2.遅刻?
しおりを挟む本当に、なんで、こんなことになったんだ。
頭が痛い。何度か頭をテーブルに打ち付けたからかもしれない。
もう夕方だ。今朝、城に着いた時は、澄み渡る青い空だったのが、今は赤く染まり、もうすぐ夕日も海の向こうに沈みそうだ。
城についてから、城主とその一族に挨拶を済ませ、自室になる部屋に案内された俺は、そろそろお尻が痛くなるくらい、椅子に座りっぱなし。
落ち着かない。なにしろ俺は……というか悪役フィーディは、今日、ここで主人公に会う。
というか、もう会っているはずなんだ。今日の昼に。
フィーディと同じ日に城に着いた主人公は、昼頃にフィーディの部屋に来て、挨拶をする。しかし、挨拶に来た主人公が、城主である伯爵様によくされていることが、心底気に入らないフィーディは、ほぼ八つ当たり気味に、彼を冷たくあしらい、「お前をここから追い出す」と、宣戦布告をする。
はずなんだが。
来ない。
もう夕方なのに、昼ごろ来る主人公が、まだ来ない。
遅刻?
何してるんだ? もう夕暮れ時なのに。
俺は待つの苦手だ。イライラするのではなく、不安になる。何で来ないんだろう、何かあったのかって。
これからこの部屋に来る主人公は俺を知らず、俺だって、直接会ったことがあるわけじゃない。つまり、初対面だ。
初対面の人に会うんだから、緊張する。緊張したままでも、少しくらいなら待つけど、日が暮れてくると、さすがに待てない。
もちろん俺は、宣戦布告するつもりなんてない。むしろ、ここで主人公くんが来ない方がいいのかとすら思う。相手が来ないなら、俺だって、喧嘩の売りようがない。
ここはどう考えても、放っておくべきだ。主人公に会ったら、俺のバッドエンドが近づいてくるかもしれない。
じゃあ、ここでじっとしてよう。主人公にも会わない。
………………って、できないところが俺!
来なかったら来なかったで不安!! なぜだ!? なぜ来ない!? 何で来ないの!??
朝から繰り返したように、また頭を抱える。
なぜ来ない!?
俺はすでに何かしてしまったのか!?
俺が気づかないうちに何かしたから、主人公が来ないのか!?
もしかしたらもう、バッドエンドに向けて進み始めているのでは!??
混乱した心臓の辺りに手を置いて、ゆっくり自分で自分を宥める。このままだと、不安すぎて死ぬ。
よく考えろ。そんなはずない。だって、俺はここで初めて、主人公に会うんだ。会ったこともない人に恨まれていることはないはず……だ。
落ち着かない。
朝から広い部屋に俺だけ。今日からしばらく、ここに住むことになるので、この部屋を使っていいらしい。
部屋は、一人で使うには広すぎるくらいで、家具も揃っている。
死霊の魔法の習得に向けて動き出すのは明日からで、今日はこの部屋で休んでいいと言われた。
しかし、今から死ぬかも知れないゲームが始まるなんて時に、休むなんて無理だ。命がかかっているこの状況じゃ、恐怖ばかりに支配されて、何にも手につかない。
もちろん、ここまで俺は一人で来たわけじゃない。部屋の外に控えている護衛がいる。
そうだ。彼に主人公らしき人は来なかったか、聞いてみようか。
……やめておこう。護衛の人は、公爵邸からここに来るまで、一度も俺と目を合わせてくれなかった。追放された俺の護衛なんて、本当はしたくなかったんだろう。
……やっぱり大人しく、主人公を待とう。
待つ間、俺も何もしていなかったわけじゃない。頭の中で、挨拶の練習をしていた。
どうやったら、敵意を全く出さずに挨拶をできるのか。もちろん敵意なんかないけど、誤解でもされたら嫌だ。
朝から考え続けて、思いついたのが「やあ。私はフィーディだ。仲良くやろう! よろしくね」だ。
…………こんなの誰でもすぐ思いつく。それは分かっている。
しかし、いろいろ考えて、途中で自分でも何言ってるのか分からないものになり、最終的にこうなったんだ。「フィーディです。好きな言葉は安全」くらいから頭が動かなくなったときは、もうダメかと思った。
挨拶は決まったが、俺はいつまで待てばいいんだ?
それとも、俺に会うのが面倒くさくなったのか? だったらそう言ってくれ! 理由が分かれば、安心できる。
もしもそうだったら、俺だって、夕飯食べて、あとはお風呂に入って寝たい。しかし、ここでまた問題が起こる。
始めて来たところだから、食事もお風呂も、どうすればいいのか分からない。
そうだ。こんなときのために、何か用事があれば、これを鳴らしてくださいと言って渡された呼び鈴がある。魔法の鈴らしい。綺麗な金色の鈴で、一回鳴らせば、どこにいても、俺に城の中を案内してくれる人が来てくれるらしい。
これを鳴らせばいい。
よし、鳴らそう。主人公のことも、来てくれた人に聞けばいい。
しかし、鳴らそうとして手を止める。
なんて言おう。主人公のことを聞くなら、細心の注意を払いたい。それに、ここに来てくれた人にも、高圧的だと受け取られないようにしないと、いかにも主人公に嫌がらせしそうな人、みたいに見られてしまうかもしれない。
さっと手を引っ込める。
もうしばらく考えてから鳴らそう。
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