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1.事態が悪化している……
しおりを挟む俺は、どんどん悪くなっていく状況の中で、頭を抱えていた。
ここは、絶海の孤島にある、不気味な城。いくつもの魔法を生み出してきた城、と言えば、聞こえがいいかも知れないが、事故も多いし、魔力につられた魔物も集まってくる、危険極まりない場所だ。巷では、死霊の城なんて呼ばれている。
俺はここに、死霊の魔法というものを習得するために来た。
父上に、役立たずはせめて強力な魔法の一つくらい身につけろと言われ、家を追い出されたのだ。
しかし、前述したように、この城はひどく危険だから、ここに来ることは、死刑とほぼ同じなんて言う人もいる。監獄なんて呼ばれるくらいだ。海には強力な魔物がうじゃうじゃいて、それが上がって来ては人を襲うんだから、それも無理からぬことだろう。
そして、そんな監獄に連れてこられたのが俺、公爵家の四男、フィーディ・ヴィーフ。ヒョロヒョロの痩せた体に、低い身長、肩までの真っ白な髪の、魔法もろくに使えない人族の男。
俺は今朝ここに来てから、通された部屋でテーブルについて、ずっと頭を抱えている。
なぜなら、俺はここで散々な目に遭い、とある人物に何度も敗北した上に、死霊の魔法を習得することはできず、家からは捨てられ、反逆者と罵られるようになる運命だからだ。
というのも、少し前に気づいたんだが、どうやら俺は、異世界に転生した会社員らしい。
それまで、公爵令息として生まれた自分の生き方を不思議に思ったことなどなかったが、五年ほど前に、前世の記憶を取り戻した。
俺は前世、残業ばかりだった会社員で、ここは、やりこんだBLゲームの世界だと。
さらには、俺が転生したこの公爵令息、ゲームでは、主人公が気に入らないという理由で嫌がらせをして、その度に主人公に敗れ、父上にも見捨てられ、公爵邸に帰ることもなく、主人公と王子が治める国を守るため、この死霊の城で一生働くことになる。ルートによっては、奴隷として売られたりするし、そもそもエンディングに行くまでに、俺は何度も主人公に負けて、その度にひどい目にあう。ろくなことがない。いわゆる、悪役というものだ。主人公にしてみれば、敵だ。
俺はひどい目に遭うのは嫌だし、主人公に負けるのも嫌だ。
かと言って、ゲームに逆らって勝ったら勝ったで、何が起こるか分からないのも怖い。ますます嫌がらせだ、なんて言われて、断罪されるかもしれない。
俺は、小心者なんだ。人と会うのも怖いし、まして、嫌がらせなんてできるはずがない。
それなのに、他人に喧嘩を売っているように見えるらしい。俺、何もしてないし、する気もないのに……
ともあれ、俺の出した結論は、そんな城に行かなければいいということだ。そんな怖い城に行かなければ、俺がそんな目に遭うこともなく、主人公に負け続けることもなく、バッドエンドを迎えることもない。
だから俺は、なんとかできないかと足掻いた。
しかし、前世の知識は完璧なはずなのに、なぜかうまくいかない。むしろ、ますます事態は悪化している気がする。
死霊の城に行かなくていいようになるように頑張っていただけなのに、屋敷の中では、義理の兄弟に殺意を持っているなんて、いわれのない噂を立てられた。継母の連れ子である彼らとフィーディの仲は、ゲームでも悪かったけど、少なくとも、暗殺を企んでいるなんて噂はなかったはずだ。
その上、俺が小さい頃から仕えてくれていた召使いに無茶苦茶を言って、追い詰めているとまで言われて、父上の激昂ぶりは、今思い出しても恐ろしいほどだった。
もちろん、俺は言われたようなことには、まるで覚えがない。
言い訳もしたが、一族郎党に囲まれ、なじられた挙句、恐ろしい顔で怒鳴り続ける父上を前に震え上がってしまい、ろくに話せなかった。
吊し上げというやつだ。
終わる頃には、俺は死にかけていて、立っているのがやっとだった。手を上げられたのは父上に数回だったが……手というか魔法だったが……とにかく、心が折れすぎて、もう動けず抵抗もできず、魂が抜けたように茫然としていた。
その時は心が死んでたんだろうなー……
俺は一体、何回死ぬんだ。
そんな風に父上に見限られた俺は、せめて国のために強力な魔法を身につけてこいと言われて、今、この城にいる。
今日からしばらく、俺はここで強力な魔法を身につけるために、城主の魔法使いに師事することになる。
そしてそれは、その才能を貴族に認められた平民の主人公も一緒。
公爵令息であるフィーディは、いずれ主人公に破れて、処分を言い渡されるのだ。
ここまで、令息の評判がゲームよりかなり悪化していて、追放同然でここに送り込まれていること以外は、ほぼゲームどおり。
……つまり、フィーディの状況は、ゲームより悪化している。
…………なんで……悪化? なんで悪化するんだ…………?
おかしいだろ。頑張ったのに。
公爵邸から馬車に乗り、海に出てからは船に乗せられ、島に到着した後は、海辺の灯台で島に入る手続きを済ませ、馬車に揺られて、俺はこの城にやってきた。
その間、すごく落ち込んだ。
何でこんなことになったんだって。
前世でもこんなんだった。
受験は全部失敗したし、両親には子供の頃から見放されていた。就職も不採用が続き、なんとか内定をもらい泣いて喜べば、そこはブラック企業。いつの間にか精神を病んで、気づいたら街をフラフラ歩いてて、人にぶつかり因縁つけられて、逃げるために投げた空き缶が相手にぶつかり、通行人が警察を呼んで警察沙汰に。相手に怪我はなかったけど、会社には遅刻。そして解雇。クビになる際に、上司には暴力振るう犯罪者とか言われたが、そう言った上司の方が、俺を殴っていた。
職もなく金もなく茫然自失で歩いていたら、いつの間にか車道に飛び出していたらしい。ヘッドライトの激しい光で、目が眩んで前が見えなかった。多分、耳をつんざくクラクションが鳴っていたんだろうけど、それは覚えていない。
気づいたら、ここにいて、転生してた。
茫然自失でフラフラしてるところまで一緒だ。
笑える。いや、笑えはしない。
なんでこんなことになるんだーーーー!!!!
頭を抱える。
このままでは、俺は主人公に会い、そしてひどい目にばかり遭うことになる。ここにくることを必死に回避したはずなのに、結局、来てしまった。それどころか、状況はゲームより悪化している。
なんで……こんなことになったんだーーー!!
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