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chap13.最後に訪れた朝
248.踊らない踊り子
しおりを挟む処刑の日の午後、グラス城の前の広間で、リリファラッジは手に枷をされて立っていた。背後の城壁の歩廊には、チュスラスが陣取り、楽しげにリリファラッジを見下ろしている。そこで死んでいく者を見下ろすのが、何より楽しいのだろう。
チュスラスの隣には、カルフィキャットもいた。けれど、彼はリリファラッジにさして興味もないのか、チュスラスから離れて、城の方に戻っていく。
それをチュスラスは呼び止めているが、カルフィキャットは振り向かなかった。どうやらフラれたらしい。
チュスラスのそばにいた、カルフィキャット以外の者たちは、怯えと侮蔑が混じった目で、チュスラスを眺めている。最初からあの男に仕える気など、まるでないようだ。
チュスラスは、随分苛立った様子でリリファラッジに振り向いた。
そして、城壁の上で高らかに言う。
「その者の着ているものを全て取り上げろ。ヒラヒラと飛んで逃げ出すかもしれない!」
すると、リリファラッジの周りに処刑人が集まってきて、リリファラッジの着ているものを全て剥ぎ取っていく。
集まった群衆からは悲鳴のような声が聞こえた。
リリファラッジを知っている者が多いのだろう。誰もが悲痛な顔をしていた。
そのうちの一人が叫ぶ。
「や、やめてくれっ……!! そいつがっ……! リリファが何をしたって言うんだっ……!! リリファは、ただの踊り子だぞ!」
「黙れっっ!!」
周りを取り囲む兵士に剣を向けられ、町の男は震え上がる。周りからも、悲鳴のような声が聞こえた。
民衆を怯えさせたチュスラスは、やけに楽しげだった。
「その男は、この街を混乱させた罪人だ。白竜たちを森の中で逃し、暴れさせた挙句、トゥルライナーの討伐にも失敗し、犯罪者のフィズを逃した。処刑が当然だ!!」
それを聞いた、そこに集まった群衆には、ますます恐怖が広がっていく。
何しろ、城に恨みを持ち庭では兵士たちを惨殺した白竜たちが城下町の近くをうろつき、トゥルライナーもまだ野放しのままで、狂った魔法使いの王と共に城を襲った犯罪者も逃げたと、王自ら高らかに宣言したのだから。
チュスラスの周りにいた男が、チュスラスに「それは言わない方がいい」と耳打ちして、腹を立てた王に殴り倒されていた。
しかし、殴り倒された男以外に、チュスラスを止める者はいない。
ストーンはまだ領地から戻らず、後に残ったアメジースアはチュスラスの言いなり、イルジファルアは会議にまともに顔を出さずに、今はどこにいるのかも分からない。
そこにいる貴族の誰もが、投げやりになっているように見えた。以前、会議の場で大臣が一人、黒焦げにされたことが大きかったのだろう。
誰も、チュスラスに何も言えないようになっていた。
チュスラスは前に出て、リリファラッジを見下ろした。
「貴様は踊り子だろう? 最後だ。私のために舞え」
「嫌です」
一言であっさり答えると、チュスラスは大きく顔を歪ませる。
「なんだと……?」
「あなたのような下郎に、なぜ私が舞を披露しなくてはならないのです? 美しいものを理解するなど、あなたには不可能でしょう?」
言われて、チュスラスは大きく顔を歪めた。
「貴様…………もう一度言ってみろ……」
「あら? 聞こえませんでしたか? 何度でもいえますとも! このっ…………!」
言いかけたリリファラッジは、激しい雷撃に撃たれて、その場に倒れた。
身体中が激しく痛む。まるで、全身に一度に鞭を当てられたようだった。
しかし、死ぬことはなかった。手加減したのだろう。すぐには殺さないように。
「貴様には……私が直々に罰を与えてやろう。泣き叫んで死ね」
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