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chap11.深く暗く賑やかな森
224.見つけた隠れ家
しおりを挟む広間にいた人々から、いくつも「ここでいい」という声が上がり、リーイックはため息をついた。
「……分かった。代わりに、ここにいる連中は全員、共犯だ」
共犯、と聞いて、周囲がしんとなる。どういう意味だ、とラディヤが聞いても、リーイックは答えなかった。
すると、怖気付くかと思いきや、ラディヤは頷いた。
「分かった。それでいい。嫌なやつは、部屋の外にいればいい」
そう言われて、数人が部屋から出て行った。
リーイックは、ラディヤを睨みつけてから、使者に向き直る。そして、見慣れない瓶を取り出した。
するとウォデシアスがリーイックに言った。
「リー……こんなところで……」
「構わない。使者の毒のことが分からなければ、傷ついたキャラバンの仲間も、いつ目を覚ますか分からない。このままここから動けなければ、いずれあの水の玉に襲われて死ぬ。お前も、ここから出たいのだろう?」
「……分かった」
渋々といった様子だが、ウォデシアスもうなずいた。それを見て満足したのか、リーイックも、ニヤリと笑う。
リーイックが瓶の蓋を開くと、そこから、微かに金色の粒のようなものが浮き上がる。それに次いで、優しい蛍のような光の粒が、瓶の中から浮いてきた。それは踊るように飛んで、リーイックの腕に絡みつく。
光を纏ったまま、リーイックは、使者の首に手を伸ばした。
それまで何も話さなかった使者ですら、顔色を変える。
「貴様……なんだ……それは! その光は……!」
「黙れ……」
答えるリーイックの額から汗が流れている。冷や汗だろう。彼自身、かなりきついらしい。
光は、リーイックの腕から使者の首に移り、使者の体の中に消えていく。
使者はびくんと、体を震わせた。
「……き、貴様っ…………! な、何をっ…………なにをした…………がっ……! あ、あぁっ……!!」
鎖に繋がれたまま、使者は喘いで口から泡を吹いている。
ガタガタと震える使者の耳元で、リーイックは囁いた。
「何か……知っていることがあるなら話せ」
「あっ…………ぁっ……か、体っ……がっ……! き、貴様っ…………な、何をっ……! 何をしたっ……!!??」
「……このままいけば、どのみち貴様は俺に従うしかなくなる…………いいのか?」
「ぐっ……! 黙れっ…………!! よそ者!!」
「…………いいか。お前は、村へ向かうんだ。そこで寝ていろ…………」
言われて、使者は、大きな声で悲鳴をあげて、気を失ってしまった。
リーイック自身も、肩で息をして真っ青な顔をしている。自分の体を支えていることもできないらしく、倒れそうになる彼を、ウォデシアスが抱き留めた。
「……リー、大丈夫か?」
「…………ああ…………成功だ」
彼はそういうが、まだ使者からは何も聞き出せていない。
シグダードは、リーイックにたずねた。
「リー、成功とはどういう意味だ? まだ何も聞き出せていないだろう」
「……その男は、本当に何も知らない…………」
「……話さないだけではないのか?」
「いいや……この瓶の中身は神力だ。人族が耐え切れるものではない……」
「……それは確かなのか? 蛍が飛んでいるようにしか見えなかったぞ」
あまりにあっさり尋問が終わり、何もわからないという結論に至ったような気がして、肩を落とすシグダードに、リーイックはニヤリと笑った。
「だが、うまくいった。これは、うまく使えば、人を操ることができる…………」
「なんだと……?」
「使者には、村に帰ってもらう」
「正気か!?? なぜわざわざこの男を逃すんだ!!」
怒鳴りつけるシグダードから、リーイックは耳を手で押さえて逃げる。
「そいつは必ず、ヴィザルーマに報告をしている。そいつを村に戻せば、おそらく伝令が近づいてくるはずだ。そこを抑え……ヴィザルーマの隠れ家を見つけ出す」
*
使者を村へ連れて行くことに、広間にいた何人かは反対していたが、他に方法はないとリーイックに説得され、不承不承頷いていた。
作戦が半ば強引に決まり、シグダードたちは、それまでに準備をすることになった。
村に向かうのは、暗闇に紛れやすい夜。使者を村に連れて行き、伝令役が近づいてくるのを待つ。
シグダードとフィズ、リーイックとヘッジェフーグ、もう一人、村へ案内するために、村から来た人間の代表が行くことになり、リーイックとウォデシアスは、夜までに決めておけと言って、広間を出て行った。
誰が行くかという話を始めて、すぐに手を挙げたのは、キャヴィッジェだった。
「俺が行く。シグの力になりたい」
するとすぐに、オイニオンも手を上げた。
「ぼ、僕もっ……僕も行きたい!! ち、力では役に立てないけど……僕だって、村のみんなのために頑張りたいんだ!!」
しかし、それを聞いたラディヤが、すぐに反対した。
「オイニオン、お前には任せられない。俺が行く」
「な、なんで!? 僕だって……」
「あの城で、一番使者の言いなりになっていたのは、お前だろ」
「そんなっ……だ、だってそれは…………」
「使者の手足だった奴に、そんな大役を任せられるはずがない。いざって時に、また寝返りでもしたら、俺たち全員が危険に晒されるんだ」
「ラディヤ!! 僕はっ……寝返ったりなんかしないよ!!」
「口では何とでも言えるだろ。とにかく、お前はここにいろ」
「……」
強い口調で突き放すように言われて、オイニオンは俯いてしまった。
そんな彼の肩をキャヴィッジェが慰めるように叩いて、言った。
「ここは俺に任せておけ。シグのことは、俺が助ける」
けれど、ラディヤはまた首を横に振る。
「シグとは俺が行く。お前には任せられない」
「……何で俺には任せられないんだ?」
「お前はシグに肩入れしすぎだ。俺の方が、村のために動ける」
「俺だって、村のことを考えている!」
早速言い合いになり、二人は睨み合ってしまう。オイニオンも不満げだ。
広間にいた村人のうち、シグダードと行くと言ったのは三人だけだったが、三人とも、お互い譲る気はないようだ。
シグダードは、キャヴィッジェとラディヤの間に割って入った。
「やめろやめろ。それなら、三人ともくればいい」
「シグ……いいのか?」
キャヴィッジェに驚いた様子で聞かれて、シグダードは胸を張った。
「もちろんだ。お前たちの、私に仕えたいという気持ちはよく分かる」
「お前に仕えたいとは言ってねえよ……力にはなるけど……」
困ったようにキャヴィッジェが言って、ラディヤとオイニオンも、「そんなこと言ってない」と、冷たい目でシグダードを見ている。
しかし、そんな視線には気づかないシグダードは、少し誇らしげな気持ちで、先ほどまでフィズがいた、自分の隣に振り向いた。
「聞いたか? フィズ。全員私に仕えたいらしいぞ」
しかし、フィズは既にそこにはいなかった。
ラディヤが呆れたように「フィズならさっき、リーに呼ばれて出て行ったぞ」と教えてくれた。
「リーに? あいつ……また勝手にフィズを連れて行ったな……冷血医術士め……」
悪態をつくシグダードに、ラディヤが難しい顔でたずねる。
「シグ……あの男は信用できるのか?」
「あの男?」
「……リーだ。なぜあんなことができる? 医術士が神力を使うっていう話は聞いたことがあるが……あいつのあれは、規格外だ。人族にあんなことができるなんて……」
「ああ、あいつは昔から、腕がいいからな」
「腕がいいで済まされるものか? あんなこと、どこで学んだんだ?」
「ララナドゥールだろうな」
「ララナドゥールだと!?」
「あ……」
シグダードは、しまったと思った。リーイックが、遠く離れた国、ララナドゥールに住む人族の一族と関係があることを話せば、彼がキラフィリュイザから来たリーイックであることもバレてしまう。
「あ…………あいつはだな……その……医術のことを学ぶため、ララナドゥールにいたことがあるらしい。そ、その時に学んだんじゃないか?」
「ララナドゥールにか? 力を操る数多の種族が集まる危険な場所だって聞いたぞ……あんなところに、人族が住めるのか?」
「わ、私に聞くな!! そんな話を聞いたことがあるような気がしただけだ!!」
「……怒鳴るなよ……」
苦し紛れに怒鳴ると、ラディヤは少し、困ったような顔をしていた。
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