幼馴染は最強設定!

路地裏乃猫

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君の好きな人

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 一月ぶりに稽古に復帰した結の不調ぶりは、俺の耳にもすぐに伝わってきた。
 「結が不調……ですか?」
 「うん」
  頷いたのは、あの、結を息子のように愛してやまない市役所勤めの門下生だ。
 「いや何というかね、気が乱れてるよねあれは。技のキレも悪いし……やっぱり足の方が完治していないのかねぇ?」
 「それは――」
  ない、というか、ありえない。
  そもそも足の方は半月も前に完治しているのだ。そうでなくとも、一度稽古が始まると最後、どんなに高い熱を出していても稽古に集中してしまうのが結という人間だ。その結が、たかが捻挫の後遺症のために稽古に集中できないなんてことはありえない。
  が、今にして思うなら、その前兆はすでにあった。たとえば先日、背後からラガーマンにぶつかられた時、それを捌けなかった時点ですでにあいつはおかしかったのだ。
  一体、何が起こっている……?
  ひょっとすると、俺が想像する以上のことが結に起こっていて、それが結の集中を奪っているのかもしれない。例えば翔兄と何かしらの……
  ――事実上のノーと捉えてもいいのかな?
  ――僕自身、その、自分の気持ちがよくわからなくて……
  そういえば、あれから二人はどうなった? 相変わらず結は、翔兄の車で登下校しているらしいが……
  訊きたい。でも訊けない。
  そもそも、どうしてこんなことに? 以前なら、訊きたいことがあれば互いに遠慮なく言い合ったし、それに訊き合った。もちろん、直接の原因は俺の陰口だが、それを、陰で盗み聞きなんて卑怯なことをしたあいつもあいつだ。
  どうして、直接俺に訊かなかった? 
  もし訊いていれば、俺だって、もっと別の答え方もあったはずなのに。
  だが、それも今となっては後の祭りだ。あいつの中では、あの時の俺の言葉が本音ということになっているし、今更それを言い繕ったところで余計に痛いだけだろう。
  結局、打つ手はナシ……ということか。
 
「あの、大丈夫ですか?」
 「えっ?」
  ふと声をかけられ、顔を上げる。ベッドの簡易机で教科書とノートを広げ、せっせと勉強に勤しんでいた拓真が、シャーペンを持つ手を止めたまま心配そうに俺を見つめていた。
 「元気がないですね。何か困ったことでもありました?」
 「あ、いや……」
  何となく気まずくなって俺は顔を逸らす。あんな残酷な犯罪に巻き込まれた人間に、逆に心配されてどうするよ、俺。
  発見から二日後、病院のベッドで意識を取り戻した水森拓真は、その後は順調に身体を回復させていった。
  が、身体の傷は治っても、心理的な傷の方はまだまだ癒えていないらしく、看護師の話では、夜中に突然悲鳴を上げ、ベッドを飛び起きて廊下に駆け出すこともしばしばだという。
  まぁ、さすがに二週間そこいらでは、そうそう癒えるものでもないだろうが……
  そんな拓真とは、事件以来ちょくちょく見舞ううちに随分と親しくなった。
  同学年だからということもある。が、どちらかといえば人懐っこく、いい意味でお坊ちゃんな拓真の印象が、あの一件でこじれる前の結を彷彿とさせたせいかもしれない。
  その拓真は、俺が病室に顔を出すといつも喜んでくれ、学校での話をあれこれと聞きたがった。
  拓真にしてみれば、事件の内容が内容だけに普通の友人には会いづらく、そんな中、事件のことを知ったうえで足繁く見舞いに来る俺は、まさにうってつけの話し相手になっているのだろう。
  その俺も、こうして同年代の相手と普通の――合気道以外の――話をするのは新鮮だったから、近頃では、拓真との会話は俺のささやかな楽しみの一つと化していた。
  さりげなく目を戻すと、相変わらず拓真は心配顔で俺を見つめている。
  最初に会った時にも思ったことだが、拓真はおそろしく綺麗な顔をしていて、ガーゼが取れ、すっかり傷が癒えた今はその美しさが余計に際立って見えた。
  ほっそりとした卵型の顔に、形よく尖った鼻、ぱっちりと見開いた大きな二重瞼。長い睫毛に縁取られた大粒の瞳はうっすらオリーブがかっていて、どこかエキゾチックな印象を与えるが、本人曰く純粋な日本人だとのこと。
  小ぶりだが形の良い唇は見るからに柔らかそうで、男の俺でもついペン先か何かで小突いてみたくなる。
  結が、世間知らずなズレた言動で放っておけなくさせるのに対し、拓真はもっと小動物的というか、そこに存在するだけで無条件に庇護欲を誘ってくる、そんな印象だ。
  って、何でいちいち結と比べてんだよ、俺は……
 「生田くんって」
 「あん?」
 「モテるでしょ、すごく」
 「……は?」
  思わず問い返す。と、拓真はなぜか照れくさそうにはにかんで、
 「だって、生田くんって、その、すごくカッコイイじゃないですか。背も高いし……それに、顔立ちもキリっとして、その、何ていうか……男っぽいというか」
 「ええと、それは……」
  どうする俺。ここはボケて流すか、それとも腹を括ってマジレスするか。
  実を言えば、俺は、自分で言うのも何だがそこそこモテる口ではあるのだ。身長はそれなりに恵まれた方ではあるし、それに顔立ちも、さすがにモデル級とは言えないまでも、まぁ、ある程度は整っているとの自覚はある。
  今までも、何度か女子の告白を受けたことがあるし、それに、これは結には黙っているが、そのうちの何人かと付き合ったことも、まぁないこともない。が、休日は道着の新調やら他流派の大会の見学で結に引っ張り回される俺が、彼女を作ったところでまともな交際などできるわけがなく、結局はフラれてしまうのがオチだった。
  まぁ今なら、普通に付き合うこともできるんだろうが――ただ、そうなると逆に彼女を作る気が失せてしまうあたり、俺はとんだ捻くれ者だ。
 「……僕、」
 「ん?」
 「子供の頃からずっと女の子みたいだって虐められてきたから、生田くんみたいに男らしい顔立ちって、その、すごく憧れるんです」
 「それは……」
  返答に困るコメントだ。俺としては、彼の顔立ちも悪くはない、というか、むしろ可愛くて結構だと思うのだが、その風貌こそが今回の被害を招いた原因の一つと考えるなら、今ここで手放しに褒めるのはどうも場違いな気もする。
  結局、くだらない答えで茶を濁すことにした。
 「筋トレでもすれば……少しは、男らしくなるんじゃねーか?」
  えっ、と小さく声を洩らした拓真の、物音に驚いた猫のような表情に、俺はしまったと後悔する。
  やばい。今のは完全にスベった――
 「なるほど、筋トレですね?」
 「は?」
 「ありがとうございます。――そうですよね。男らしくなるには、まずは自分で自分の身体を鍛えないと。うん」
  素直に頷く拓真に、俺は何だか新鮮な印象を受ける。結だったらこんな時、必ずひとくさり文句を言ってから、俺の言葉を全否定していたところだ。
  お坊ちゃんのくせに妙なところでひねくれているあいつは、他人の、とくに俺の忠告は絶対に聞き入れようとはしなかった。
  そのくせ、しばらく経った頃、あたかもそれが自論であるかのように口にしては、もともと俺の台詞だったんだぞそれはと俺に指摘され、大喧嘩になる……
  その結が、今更、俺に迷惑をかけたくないも何もないもんだ。
 「生田くんは……好きな人っています?」
 「は?」
  だしぬけな問いに、俺は思わず返答に困る。
 「な……なんで、そんなこと」
  すると拓真は、なぜか照れくさそうに長い睫毛を伏せた。
 「いえ。何となく、そんな気がしたので」
  好きな人――
  一瞬、なぜかあいつの顔が脳裏に浮かんで消え、俺は密かに狼狽する。
  ――やめて、遼。
  今でも、俺はなぜかあの夢を見る。
  むしろ結と会わなくなってから、逆にその頻度が増えたように思うのだ。ベッドの上で揺らめく肢体は紛れもなく結のそれで、そのたびに俺は、途方もない困惑と自己嫌悪に駆られる羽目になる。
  俺は、結のことを何と……いや。
 「いねぇよ、んなもん」
  自分に言い聞かすように吐き捨てると、この話は終わりだとばかりに俺は床に置かれたボストンバッグを掴んだ。
  椅子を立ち、ベッドに背を向ける。
 「今日も合気道の稽古ですか?」
 「あー、まぁな」
 「ひょっとして……生田くんの好きな人って、道場の人ですか?」
 「……え?」
  振り返ると、拓真がニヤニヤと揶揄うように俺を見上げていた。
 「何でそう思うんだよ」
 「何でかな。何となく?」
  どうも人を食っている。まぁ、冗談を言えるようになっただけ、気持ちの方も少しは回復に向かっているということだろう。
  ベッド脇に引き返し、その頭をぐしゃぐしゃと掻き回す。
 「いいから休め。あんまり起きてると疲れるぞ」
 「……はい」
  なぜか照れくさそうに頷くと、拓真はもそもそと布団に潜り込んだ。
  病院を出る頃には、空にはすっかり夜の帳が降りていた。
  近頃は日の暮れるのがめっきり早くなってしまった。五時といえばほとんど夜の一部で、漆色の空の下、すっかり冷たくなった風が容赦なく頬を切るのがつらい。
  時計を見ると五時半。このまま道場に向かえば、夕稽古が始まる前には道場に着くことができるだろう。
  拓真を傷つけた犯人は未だ見つかっていない。これは拓真に直接訊いた話ではなく、時々、病室で刑事さんと鉢合うことがあって、そのたびに彼らの口からぽつぽつ捜査状況を聞かせてもらうのだが、決定的な手掛かりに欠けるのか、未だに見つかる気配がないという。
  かといって、拓真に犯人の情報を問い質すわけにもいかないだろう。
  拓真に犯人のことを思い出させるのは、つまり、犯人に強いられた行為を思い出させることでもあって……
 「やぁ、遼くん」
  意外な声に呼び止められたのは、俺が病院の駐輪場に向かっていた時だった。
  振り返ると、駐車場に停められたオレンジ色の車の脇に、これまた見覚えのある男がニヤニヤ笑みを浮かべて立っていた。
 「……翔兄?」
  どうして。今頃は結と二人、カウンセラー室で仲良くやっているのでは――
 「な、何でここに?」
  すると翔兄は軽く肩をすくめて、
 「いや大した用事はないんだ。ただ、友人と食事に行く約束をしていてね」
 「友人? こんなところで待ち合わせっすか?」
 「いや。ここの病院に勤めているんだよ。――ところで、君こそどうしてここに?」
 「べ、別に……そんなの翔兄には関係ないっしょ」
 つい声が尖ってしまったのは、俺としても不覚だった。これでは翔兄に抱いている敵意が丸バレじゃないか。――が、そもそも、今の厄介な状況を生んだのは翔兄の余計な気遣いのせいであって……
  一方の翔兄は、そんな俺の苛立ちなどどこ吹く風というように、
 「自分の教え子が病院から出てきたら、普通は病気かなと心配するものだけどなぁ」
  と、痩せた肩をひょいとすくめた。
 「そ……そんなんじゃないっすよ。見舞いっす、見舞い」
 「見舞い? 誰のだい?」
  一瞬、俺は返答に窮する。拓真と知り合った経緯を話せば、自然、事件のことも話さないわけにはいかなくなる――が、それは、拓真の名誉を無駄に傷つけることを意味した。
 「と、友達っすよ。普通に」
  とりあえず、曖昧に茶を濁すことにした。
 「じゃあ……俺、これから夕稽古に向かいますんで」
  じゃ、と言って足早にその場を立ち去る。これ以上、翔兄を相手に無駄話に興じていたら、何を探られるか分かったものじゃない。と――
 「結くんは、僕が手に入れるよ」
 「……え?」
  思わず足を止め、振り返る。そこには、相変わらず人を食ったような笑みを浮かべて俺を見据える翔兄がいた。
  よく見ると、しかし、その眼は意外にも笑っていない……
 「でも、まぁ君にとって結くんはただのお荷物でしかないのだし、よく考えたら、こんなふうにいちいち君に了解を取る必要もなかったかな?」
 「……」
  どういうつもりだ、こいつ。
  どうしてわざわざ俺の前でそんなことを?
 「初めて会った時から、彼のことは気になっていた」
 「は?」
 「武道家の一族として生まれ、圧倒的な才能に恵まれた彼は、こと武道の面では恐ろしく成熟していながら、一方で、精神面ではほとんど子供のままだと言っていい。多分それは、子供の頃から年配の門下生に囲まれて生きてきたことも原因の一つなのだろうけど、とにかく、このアンバランスな彼の内面が、僕を惹きつけてやまないんだよ」
 「そ、それって……結が弱いって言いたいんすか」
 「彼は弱いよ。それに、とても繊細だ」
  さも当たり前のように翔兄は言った。何を言っているんだ今更、とばかりに。
 「繊細? あの鈍感バカがっすか? 痴漢にケツ触られても何とも思わない、あのおめでたい坊ちゃんが?」
 「装っているんだよ。きみに弱みを見せないようにね。本当の彼は、きみが思う以上にデリケートな人間なんだ。それが証拠に、結くんは近頃随分と調子を落としていてね」
 「そ……それは、」
  関係ない、と言いかけて思わず口を噤む。
 合気道の技が、その時々のメンタルに左右されやすいことは俺自身よく知っている。だからこそ合気道では、技よりもまず心の修養こそが最も重要な修行だと言われるほどで。
  それでも――あのバカに限って。
 「し、知りませんよ。っつーか、だったら翔兄が治してやりゃいいでしょ。一応カウンセラーなんだし!」
 「つまりそれは、僕に自由にしてもらって構わないということだね?」
 「……さっきから、何が言いたいんすか」
 「仁義というやつだよ。ひょっとしたらきみも、彼を好いているんじゃないかと思ってね」
 「は……?」
  好いている? 俺が結を?
  ――生田くんは……好きな人っています?
  ――生田くんの好きな人って、道場の人ですか? 
「な、何言って……ったく、どいつもこいつも……」
 「ん? どういう意味だい?」
 「何でもねぇよ! ってか、したけりゃ勝手にすりゃいいだろ!? 別に法律で禁じられてるわけじゃねぇんだしよ!」
  ほとんど振り切るように言い捨て、踵を返す。
  大股で駐輪場に向かいながら、だが俺の心を占めていたのは、途方もない後悔と自分への嫌悪だった。
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