銀翼に乗せて舞う僕らの恋

未来を恐れる少年

　一つだけ、レイに黙っていることがある。
　それは、幼い桔平が日本に旅立つ前夜のこと。レイと一緒にベッドにもぐりこんだ桔平は、本当は、ずっと眠らずに起きていたのだ。レイとの残された時間を眠ったまま過ごしてしまうのが惜しく、かといって、そうと知られるのも何だか照れくさく、瞼を閉じ、じっと狸寝入りを続けていたのだ。
　だから知っていた。レイが、そのあたたかな唇を重ねてくれたことを。
　ぎこちない唇は、凍えた小鳥のようにひどく震えていた。きっと、精一杯の勇気を振り絞ってくれたのだろう。こんな自分のために。でも――
　当時の桔平には、そんなレイの気持ちを受け取るだけの勇気がなかった。白人のレイには、栄光あるアメリカ市民としての開かれた未来が待っている。それと同じ未来がしかし、自分の前では堅く閉ざされていることを幼い桔平はすでにして悟っていた。
　二人は、決して同じではない。
　同じ道を歩むこともできなければ、同じ世界に生きることも許されない。そして――いずれ別れを経なければならない。今回の別れが単なる予行演習と思えてしまうほどの、絶対的な、断絶とも呼べる別れを。
　そんな日を迎えることを思うと、桔平は怖くて、怖くてこわくて、結局、最後まで瞼を開くことができなかった……