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51 フーダニット(またしても唐突にブチ込まれるミステリ要素)
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「お話は、わかりました、はい。そそそ、そういうことでしたら、私も、司祭さまには伏せさせていただきます……ぐへへ」
レディにしてはじつに個性的(穏当な表現)な笑みを漏らすと、マリーは口元のよだれを袖口でぐいっと拭く。
あの後すぐに目覚めたマリーは、さっきまでの厳格な態度が嘘のような全肯定で俺たちに協力を申し出てくれた。すなわち、ウェリナがダブルである件は教会には伏せておく、と。こうして彼女の口止め工作は完了したわけだが、マリー的には本当に良かったのかね。まぁ本人がOKだと言うのなら俺からは何も言うことはないんだが。
何にせよ、これで懸案の一つは片付いた。
残るは、もう一つの懸案。
「……で、どうするウェリナ」
昨晩の火事で荒れ果てた中庭から室内へと目を移す。すると、ソファでマリーの治癒魔術を受けるウェリナは寝そべったまま俺を見上げ、「というと?」と問い返してくる。当初は腐りかけの倒木なみにボロボロだったその腕は、マリーの治癒魔術のおかげもあり、今は夏休み明けの小学生の焼けまくった肌ぐらいには回復している。キャラは何かとアレなマリーだが、聖女としてはやはり優秀なのだろう。
「カサンドラの件だよ。調べるなら早い方がいい。証拠を隠滅されたら厄介だ」
「わかっている。俺を誰だと思ってる」
言われてみれば。まぁ一応は情報機関のトップだもんな。
「すでに宮殿には、調査目的の登城の許可を請求している。妃殿下とて、無為に疑惑を深めさせる愚は犯したくないだろう。多分、すぐにも許可は出るはず――」
「あの」
ウェリナの言葉に、おずおずを割り込む声。見ると、マリーが気まずそうに俺を見上げている。
「ん? どうした、マリーちゃん」
「本当に、あれは妃殿下だったのでしょうか」
「えっ?」
「お二人は、もうすっかり妃殿下だと決めつけておられますけど……私にはどうしても、さっきの女が妃殿下だとは思えないのです。確かに背格好は似ておりましたし、何より、モーフィアスの血を引く人間という点で、お二人が疑われるのも無理はないかと思います。ですが……私の知る妃殿下は、決して、あのようなこと……」
「残念だが、現在、モーフィアス家に彼女のような背格好の女性はいない。カサンドラ妃を除いてな」
あからさまに大儀そうにウェリナは答える。もはや自明な話をぐだぐだと縺れさせるのは無駄だと言わんばかりの口調。だが俺には、マリーの今の話には重要な真実が紛れているように感じられる。少なくとも俺達よりは、カサンドラの人となりについて知る女性だ。
何より俺自身、昼間に会ったカサンドラからは欠片ほどの敵意も感じられなかった。この違和感は無視してはならない。そう俺は直感する。
「マリーは、違うと感じたんだね」
「アル! 彼女はカサンドラ妃と個人的にも親しい。庇いたがるのは仕方ないが――」
「わかってる。でも、やっぱり妙だとは思わないか。たとえば、彼女の目的が俺の殺害なら、むしろお前が仕事で出払う昼間に済ませていたはずだ。その方が邪魔が入らずに済むからな。なのに、なぜわざわざ夜に出直すなんて二度手間を?」
「そ、れは……昼間はただの下見で、」
「俺の感覚ではそうじゃなかった。彼女には本当に、俺に敵意なんて持っていなかったんだよ。最初は俺も、彼女の悪意を疑っていた。何せ俺は、彼女の息子が座るはずだった王太子の地位にのうのうと居座るバカ王子だもんな。けど、彼女は……」
そう、むしろ無関心すぎて拍子抜けしたぐらいだ。彼女がその力を発動させたのも、おそらく意図したものではなかっただろう。まぁそれも、燃えた文書の内容にもよるが……
「……とりあえず、許可が下り次第カサンドラの調査に向かう」
話は終わりだ、とばかりに吐き捨てるウェリナ。うーん、そこはやっぱ外せないのな。まぁカサンドラが白にせよ黒にせよ、同じモーフィアスの人間に聞き込みをかければ何かしら得るものはあるかもしれない。ただ……そうなると一つ問題がある。こいつを――ウェリナを単体で向かわせていいのか、という問題だ。
「なぁ、その聞き込み、俺も同行できないかな」
レディにしてはじつに個性的(穏当な表現)な笑みを漏らすと、マリーは口元のよだれを袖口でぐいっと拭く。
あの後すぐに目覚めたマリーは、さっきまでの厳格な態度が嘘のような全肯定で俺たちに協力を申し出てくれた。すなわち、ウェリナがダブルである件は教会には伏せておく、と。こうして彼女の口止め工作は完了したわけだが、マリー的には本当に良かったのかね。まぁ本人がOKだと言うのなら俺からは何も言うことはないんだが。
何にせよ、これで懸案の一つは片付いた。
残るは、もう一つの懸案。
「……で、どうするウェリナ」
昨晩の火事で荒れ果てた中庭から室内へと目を移す。すると、ソファでマリーの治癒魔術を受けるウェリナは寝そべったまま俺を見上げ、「というと?」と問い返してくる。当初は腐りかけの倒木なみにボロボロだったその腕は、マリーの治癒魔術のおかげもあり、今は夏休み明けの小学生の焼けまくった肌ぐらいには回復している。キャラは何かとアレなマリーだが、聖女としてはやはり優秀なのだろう。
「カサンドラの件だよ。調べるなら早い方がいい。証拠を隠滅されたら厄介だ」
「わかっている。俺を誰だと思ってる」
言われてみれば。まぁ一応は情報機関のトップだもんな。
「すでに宮殿には、調査目的の登城の許可を請求している。妃殿下とて、無為に疑惑を深めさせる愚は犯したくないだろう。多分、すぐにも許可は出るはず――」
「あの」
ウェリナの言葉に、おずおずを割り込む声。見ると、マリーが気まずそうに俺を見上げている。
「ん? どうした、マリーちゃん」
「本当に、あれは妃殿下だったのでしょうか」
「えっ?」
「お二人は、もうすっかり妃殿下だと決めつけておられますけど……私にはどうしても、さっきの女が妃殿下だとは思えないのです。確かに背格好は似ておりましたし、何より、モーフィアスの血を引く人間という点で、お二人が疑われるのも無理はないかと思います。ですが……私の知る妃殿下は、決して、あのようなこと……」
「残念だが、現在、モーフィアス家に彼女のような背格好の女性はいない。カサンドラ妃を除いてな」
あからさまに大儀そうにウェリナは答える。もはや自明な話をぐだぐだと縺れさせるのは無駄だと言わんばかりの口調。だが俺には、マリーの今の話には重要な真実が紛れているように感じられる。少なくとも俺達よりは、カサンドラの人となりについて知る女性だ。
何より俺自身、昼間に会ったカサンドラからは欠片ほどの敵意も感じられなかった。この違和感は無視してはならない。そう俺は直感する。
「マリーは、違うと感じたんだね」
「アル! 彼女はカサンドラ妃と個人的にも親しい。庇いたがるのは仕方ないが――」
「わかってる。でも、やっぱり妙だとは思わないか。たとえば、彼女の目的が俺の殺害なら、むしろお前が仕事で出払う昼間に済ませていたはずだ。その方が邪魔が入らずに済むからな。なのに、なぜわざわざ夜に出直すなんて二度手間を?」
「そ、れは……昼間はただの下見で、」
「俺の感覚ではそうじゃなかった。彼女には本当に、俺に敵意なんて持っていなかったんだよ。最初は俺も、彼女の悪意を疑っていた。何せ俺は、彼女の息子が座るはずだった王太子の地位にのうのうと居座るバカ王子だもんな。けど、彼女は……」
そう、むしろ無関心すぎて拍子抜けしたぐらいだ。彼女がその力を発動させたのも、おそらく意図したものではなかっただろう。まぁそれも、燃えた文書の内容にもよるが……
「……とりあえず、許可が下り次第カサンドラの調査に向かう」
話は終わりだ、とばかりに吐き捨てるウェリナ。うーん、そこはやっぱ外せないのな。まぁカサンドラが白にせよ黒にせよ、同じモーフィアスの人間に聞き込みをかければ何かしら得るものはあるかもしれない。ただ……そうなると一つ問題がある。こいつを――ウェリナを単体で向かわせていいのか、という問題だ。
「なぁ、その聞き込み、俺も同行できないかな」
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