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苦いキス
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「おかえりー! 蒼!」
「た……ただいま」
玄関から勢いよく飛び出した拓海の顔に、反射的に蒼はのけぞる。
よく見ると、その顔は赤らんで、しかも吐息はひどく酒臭い。ひょっとすると酒でもやっていたのかもしれない。が、それを抜きにしても、その笑顔は飼い主に大好きなおもちゃを貰った子犬のようで、なぜか蒼はいたたまれなさが胸を塞ぐのを禁じ得なかった。
マンションへと戻る道すがら、蒼は考えた。
なぜ自分は、今もこの男と付き合い続けているのか――そもそも本来、こんな得体の知れないパンクロッカーなど、蒼の好みでも何でもなかったのだ。むしろ蒼が好むのは、たとえば琢己のように知的で落ち着いた大人だ。蒼を包み込み、何となれば甘えさせてもくれる、そんな包容力のある大人だ。
ところが、こちらの――霧島拓海の方は、知的でもなければ落ち着きもなく、おおよそ蒼の求める理想とは程遠い人間だ。
包容力も、まぁあるといえばあるのだろうが、それも、せいぜい鈍感さと紙一重といったところ。甘えられるかどうかという点で言えば、むしろ蒼の方が甘えられるばかりで、逆にこちらから甘える余地など微塵もない。
何もかも、理想とは違う。
そんな相手と、何故二年も付き合いが続いているのか――
やはりそれは、彼が〝タクミ〟だったからだろう。逆に言えば、〝タクミ〟である意外に付き合う理由は皆無なのだ。
そうだ。〝タクミ〟でもなければ、こんな奴……
「……ん?」
ふと廊下の奥から声が聞こえて、拓海の肩越しに部屋の奥を覗く。誰かが遊びに来ているのだろう、突き当たりの扉越しに確かに人の気配がした。
「誰か来てるのか?」
すると拓海は、ばつが悪そうに頭を掻いて、
「俺が一人だって言ったら、なんか、いろいろ押しかけてきて……」
「いろいろ?」
「ああ……店長とか、あとバンドの奴らとか」
拓海の言う店長というのは、彼が勤める楽器店の店長のことだろう。バンドの奴らとは、かつて拓海が組んでいた仲間に違いない。
「そういうことなら、もう少し出歩いてこようか?」
あまり馴染みのない顔ぶれの中に、一人加わる気まずさを厭って言えば、
「別にいいよー、蒼が来てくれると嬉しいし」
どうやら遠慮していると取られたらしい。蒼の腕を掴み、有無を言わせず部屋の奥に引っ張ってゆく。わけがわからず、なすがままに任せるうちに、やがて蒼は廊下奥のリビングへと引っ張り込まれた。
廊下の最奥にある一五畳ほどのリビングは、北欧製のソファやテーブルが配置よく置かれ、壁のタペストリーや観葉植物が程よいアクセントを添える洒落た空間になっている。
その北欧製のソファに、今は三人の男たちが腰を下ろし、いかにも酔漢らしい赤ら顔で、缶ビールや缶チューハイを傾けていた。その全員が全員とも、ドレッドや金髪、髑髏のタトゥーでキメているのは、すなわち、そういう方面の人間だからなのだろう。
「おー! 拓海の彼氏のお帰りだぁ!」
「おかえりぃ! 彼氏くーん!」
それらの掛け声に、蒼は唖然となる。
「え? 拓海お前……僕らのことを?」
「うん!」
元気よく頷く拓海の胸倉に、すかさず蒼は飛びかかる。そのまま廊下に押し戻すと、後ろ手でリビングとの間を仕切るドアを閉ざし、それから――声を限りに怒鳴った。
「何考えてんだお前っ! 俺らの関係は、その……」
ところが拓海は、酔っていたせいもあるのだろうが、なぜ怒られているのか分からないという顔で瞼をしょぼつかせて、
「え? 俺、何かマズいことでも?」
駄目だ、こりゃ。
向かいの壁に拓海を突き飛ばすと、蒼はやれやれと溜息をついた。気のせいか、額のあたりに鈍い痛みさえ覚えて頭を抱える。
「大丈夫だよ。こいつら、俺らの関係も理解してくれてるし。ってか音楽やってる人間って案外そういう奴が多かったりするから、別に恥ずかしがる必要ないよ」
その言葉に――さすがの蒼もキレた。
「お前はそれでいいかもしれないけどよ! 俺は全然平気じゃねぇんだよ!」
すると拓海は、本気なのかふざけているのか、子供のように口を尖らせて、
「でも……やっぱ自慢したいもんだろ? 素敵な恋人がいたらさ」
「……は?」
「逆に訊くけど、蒼はならないのかよ! 俺を自慢したくなる瞬間とか!」
「そ……それは」
あるわけがない。恋人と言っても相手は同性で、その存在を暴露、もとい自慢することは、少なくとも現在の社会情勢においては社会的な死を意味する。
そうでなくとも、こいつは――
「ごめん!」
「へ?」
だしぬけに謝られ、意表を突かれる蒼に、さらに拓海は手を合わせ、言った。
「ちょっと言い過ぎた! そうだよね、嫌だよね。……俺みたいな奴が恋人なんて、死んでもバラしたくないよね」
「いや、別に、死んでもって程じゃ……」
「いや、ほんとごめん。俺、蒼のこと全然考えてなかった」
「……」
完膚無きまでに謝られ、もはや蒼は返すべき言葉をなくしてしまう。
「……悔しいよ」
「え?」
「蒼のこと、いっぱい幸せにしてやりたいと思うのに、なんか俺、ぜんぜん駄目だ」
「そ……そんなこと……いや、本当のことを言うと嬉しいよ。今まではその、恋人に僕のこと紹介してもらうとか、そういうの、なかったから……」
「そうなの?」
「えっ?」
「うわーもったいない! 俺だったらいろんな奴に自慢して回ってるけどなぁ。どーですご覧ください、この見事な彼氏! みたいな」
「僕はテレ東の通販番組に出てくるカニか」
とはいえ実際に自慢して回っているのだから、それ以上は蒼も突っ込みようがない。
もっとも拓海の場合、業界が業界だけにそのようなマイノリティに対する理解も強く、そのために打ち明けやすいという事情もあるのだろう。その点、蒼の業種は顧客からの信用が物を言うだけに、下手に自らの性癖を明かすことができないのが辛いところだ。残念ながら年配の顧客の中には、蒼のような存在に嫌悪感を示す人間はいまだ多く存在する。
ただ――
一瞬だけ、みんなに自慢されることを誇らしいと感じてしまった自分がいたことも、また事実で。
馬鹿な。相手はただの……ただのダミーでしかないのに。
「じゃ、蒼も帰ってきたことだし、そろそろあいつら帰させるよ。――ゆっくりできないだろ? あいつらがいたら」
「い、いや、別に……僕は部屋に籠ってるから」
「ううん。ここは俺らの家だから。なのに、蒼一人に我慢させたくない」
そして一人リビングに戻ると、ほどなく中から仲間たちを廊下に追い立ててきた。
「ほらほら! 蒼が困ってるし、早く帰れよっ!」
「んだとっ!? せっかく寂しがってると思って来てみりゃあ、何だその態度はっ!」
店長と思しき年配のドレッドヘアーが喚くと、他の三人も「そうだそうだ」と追従のコールを入れる。そんな酔客たちを、どついたり、時に容赦なく足蹴にしながら、とうとう拓海は本当に彼らを部屋の外に追い出してしまった。
「またねー蒼くん!」
「こいつに飽きたら、今度は俺と付き合ってよね」
「ばーーーか! 蒼が俺に飽きるわけねぇっての! な? 蒼」
「う……うん」
振り返る拓海に、蒼はしかし、曖昧に頷くことしかできなかった。
その後、手伝いを申し出る蒼を振り切って一人でリビングの片づけを澄ますと、拓海は、一緒に風呂に入ろうと言い出した。
「けっこう前に沸かしたんで、ちょっと冷めちゃったかもだけど」
「うん……」
脱衣所で服を脱がせ合い、二人して生まれたままの姿になったところで風呂場に移る。
シャワーで髪を濡らし、続けてシャンプーを馴染ませる。指を立て、わしわしと泡立てていると、そこに自分のものでない手が加わってきた。
瞼を閉じているから前は見えない。が、自分のそれより一回り以上大きな手のひらは紛れもなく拓海のそれだ。
「いいよ自分でやる。ガキじゃあるまいし」
「いいじゃん。やらせてよ。ね?」
「……わかったよ」
琢己のこともあり、脛に傷持つ蒼は仕方なく折れてしまう。蒼がしぶしぶ手をどかすと、譲られた拓海はさらに気合を入れて蒼の頭を掻き回しはじめた。
「蒼の髪って細くて柔らかいからさ、すぐシャンプーが泡立つよねぇ」
「それって……ハゲやすいってことじゃん」
「大丈夫。ハゲてもきっと蒼は可愛いよ」
「って、そこは僕がハゲるってことを否定しろ。あと、先に言っとくけどハゲで童顔とか最悪だからな。お前が思うほど可愛くなんかないからな」
「そう? でも俺は、そんな蒼でもきっと愛せるよ」
「……終わったんならさっさと流せよ」
ざっとシャワーを浴びせられ、泡が落ちきったところでそっと顔を上げる。いつしか目の前に、前髪から雫を滴らせた拓海の端正な顔が迫っていて、一瞬、蒼は動揺する。
その黒い瞳は、今はまっすぐに蒼を見つめていて……
「大好きだよ、蒼」
「……え?」
「本当に大好き。だから……これからも俺のそばにいて。ね?」
言いながら、そっと蒼を抱き寄せ、唇を重ねる。次第に深くなる口づけに身を委ねながら、蒼は、言いようのない苦みが胸に広がるのを止められなかった。
「た……ただいま」
玄関から勢いよく飛び出した拓海の顔に、反射的に蒼はのけぞる。
よく見ると、その顔は赤らんで、しかも吐息はひどく酒臭い。ひょっとすると酒でもやっていたのかもしれない。が、それを抜きにしても、その笑顔は飼い主に大好きなおもちゃを貰った子犬のようで、なぜか蒼はいたたまれなさが胸を塞ぐのを禁じ得なかった。
マンションへと戻る道すがら、蒼は考えた。
なぜ自分は、今もこの男と付き合い続けているのか――そもそも本来、こんな得体の知れないパンクロッカーなど、蒼の好みでも何でもなかったのだ。むしろ蒼が好むのは、たとえば琢己のように知的で落ち着いた大人だ。蒼を包み込み、何となれば甘えさせてもくれる、そんな包容力のある大人だ。
ところが、こちらの――霧島拓海の方は、知的でもなければ落ち着きもなく、おおよそ蒼の求める理想とは程遠い人間だ。
包容力も、まぁあるといえばあるのだろうが、それも、せいぜい鈍感さと紙一重といったところ。甘えられるかどうかという点で言えば、むしろ蒼の方が甘えられるばかりで、逆にこちらから甘える余地など微塵もない。
何もかも、理想とは違う。
そんな相手と、何故二年も付き合いが続いているのか――
やはりそれは、彼が〝タクミ〟だったからだろう。逆に言えば、〝タクミ〟である意外に付き合う理由は皆無なのだ。
そうだ。〝タクミ〟でもなければ、こんな奴……
「……ん?」
ふと廊下の奥から声が聞こえて、拓海の肩越しに部屋の奥を覗く。誰かが遊びに来ているのだろう、突き当たりの扉越しに確かに人の気配がした。
「誰か来てるのか?」
すると拓海は、ばつが悪そうに頭を掻いて、
「俺が一人だって言ったら、なんか、いろいろ押しかけてきて……」
「いろいろ?」
「ああ……店長とか、あとバンドの奴らとか」
拓海の言う店長というのは、彼が勤める楽器店の店長のことだろう。バンドの奴らとは、かつて拓海が組んでいた仲間に違いない。
「そういうことなら、もう少し出歩いてこようか?」
あまり馴染みのない顔ぶれの中に、一人加わる気まずさを厭って言えば、
「別にいいよー、蒼が来てくれると嬉しいし」
どうやら遠慮していると取られたらしい。蒼の腕を掴み、有無を言わせず部屋の奥に引っ張ってゆく。わけがわからず、なすがままに任せるうちに、やがて蒼は廊下奥のリビングへと引っ張り込まれた。
廊下の最奥にある一五畳ほどのリビングは、北欧製のソファやテーブルが配置よく置かれ、壁のタペストリーや観葉植物が程よいアクセントを添える洒落た空間になっている。
その北欧製のソファに、今は三人の男たちが腰を下ろし、いかにも酔漢らしい赤ら顔で、缶ビールや缶チューハイを傾けていた。その全員が全員とも、ドレッドや金髪、髑髏のタトゥーでキメているのは、すなわち、そういう方面の人間だからなのだろう。
「おー! 拓海の彼氏のお帰りだぁ!」
「おかえりぃ! 彼氏くーん!」
それらの掛け声に、蒼は唖然となる。
「え? 拓海お前……僕らのことを?」
「うん!」
元気よく頷く拓海の胸倉に、すかさず蒼は飛びかかる。そのまま廊下に押し戻すと、後ろ手でリビングとの間を仕切るドアを閉ざし、それから――声を限りに怒鳴った。
「何考えてんだお前っ! 俺らの関係は、その……」
ところが拓海は、酔っていたせいもあるのだろうが、なぜ怒られているのか分からないという顔で瞼をしょぼつかせて、
「え? 俺、何かマズいことでも?」
駄目だ、こりゃ。
向かいの壁に拓海を突き飛ばすと、蒼はやれやれと溜息をついた。気のせいか、額のあたりに鈍い痛みさえ覚えて頭を抱える。
「大丈夫だよ。こいつら、俺らの関係も理解してくれてるし。ってか音楽やってる人間って案外そういう奴が多かったりするから、別に恥ずかしがる必要ないよ」
その言葉に――さすがの蒼もキレた。
「お前はそれでいいかもしれないけどよ! 俺は全然平気じゃねぇんだよ!」
すると拓海は、本気なのかふざけているのか、子供のように口を尖らせて、
「でも……やっぱ自慢したいもんだろ? 素敵な恋人がいたらさ」
「……は?」
「逆に訊くけど、蒼はならないのかよ! 俺を自慢したくなる瞬間とか!」
「そ……それは」
あるわけがない。恋人と言っても相手は同性で、その存在を暴露、もとい自慢することは、少なくとも現在の社会情勢においては社会的な死を意味する。
そうでなくとも、こいつは――
「ごめん!」
「へ?」
だしぬけに謝られ、意表を突かれる蒼に、さらに拓海は手を合わせ、言った。
「ちょっと言い過ぎた! そうだよね、嫌だよね。……俺みたいな奴が恋人なんて、死んでもバラしたくないよね」
「いや、別に、死んでもって程じゃ……」
「いや、ほんとごめん。俺、蒼のこと全然考えてなかった」
「……」
完膚無きまでに謝られ、もはや蒼は返すべき言葉をなくしてしまう。
「……悔しいよ」
「え?」
「蒼のこと、いっぱい幸せにしてやりたいと思うのに、なんか俺、ぜんぜん駄目だ」
「そ……そんなこと……いや、本当のことを言うと嬉しいよ。今まではその、恋人に僕のこと紹介してもらうとか、そういうの、なかったから……」
「そうなの?」
「えっ?」
「うわーもったいない! 俺だったらいろんな奴に自慢して回ってるけどなぁ。どーですご覧ください、この見事な彼氏! みたいな」
「僕はテレ東の通販番組に出てくるカニか」
とはいえ実際に自慢して回っているのだから、それ以上は蒼も突っ込みようがない。
もっとも拓海の場合、業界が業界だけにそのようなマイノリティに対する理解も強く、そのために打ち明けやすいという事情もあるのだろう。その点、蒼の業種は顧客からの信用が物を言うだけに、下手に自らの性癖を明かすことができないのが辛いところだ。残念ながら年配の顧客の中には、蒼のような存在に嫌悪感を示す人間はいまだ多く存在する。
ただ――
一瞬だけ、みんなに自慢されることを誇らしいと感じてしまった自分がいたことも、また事実で。
馬鹿な。相手はただの……ただのダミーでしかないのに。
「じゃ、蒼も帰ってきたことだし、そろそろあいつら帰させるよ。――ゆっくりできないだろ? あいつらがいたら」
「い、いや、別に……僕は部屋に籠ってるから」
「ううん。ここは俺らの家だから。なのに、蒼一人に我慢させたくない」
そして一人リビングに戻ると、ほどなく中から仲間たちを廊下に追い立ててきた。
「ほらほら! 蒼が困ってるし、早く帰れよっ!」
「んだとっ!? せっかく寂しがってると思って来てみりゃあ、何だその態度はっ!」
店長と思しき年配のドレッドヘアーが喚くと、他の三人も「そうだそうだ」と追従のコールを入れる。そんな酔客たちを、どついたり、時に容赦なく足蹴にしながら、とうとう拓海は本当に彼らを部屋の外に追い出してしまった。
「またねー蒼くん!」
「こいつに飽きたら、今度は俺と付き合ってよね」
「ばーーーか! 蒼が俺に飽きるわけねぇっての! な? 蒼」
「う……うん」
振り返る拓海に、蒼はしかし、曖昧に頷くことしかできなかった。
その後、手伝いを申し出る蒼を振り切って一人でリビングの片づけを澄ますと、拓海は、一緒に風呂に入ろうと言い出した。
「けっこう前に沸かしたんで、ちょっと冷めちゃったかもだけど」
「うん……」
脱衣所で服を脱がせ合い、二人して生まれたままの姿になったところで風呂場に移る。
シャワーで髪を濡らし、続けてシャンプーを馴染ませる。指を立て、わしわしと泡立てていると、そこに自分のものでない手が加わってきた。
瞼を閉じているから前は見えない。が、自分のそれより一回り以上大きな手のひらは紛れもなく拓海のそれだ。
「いいよ自分でやる。ガキじゃあるまいし」
「いいじゃん。やらせてよ。ね?」
「……わかったよ」
琢己のこともあり、脛に傷持つ蒼は仕方なく折れてしまう。蒼がしぶしぶ手をどかすと、譲られた拓海はさらに気合を入れて蒼の頭を掻き回しはじめた。
「蒼の髪って細くて柔らかいからさ、すぐシャンプーが泡立つよねぇ」
「それって……ハゲやすいってことじゃん」
「大丈夫。ハゲてもきっと蒼は可愛いよ」
「って、そこは僕がハゲるってことを否定しろ。あと、先に言っとくけどハゲで童顔とか最悪だからな。お前が思うほど可愛くなんかないからな」
「そう? でも俺は、そんな蒼でもきっと愛せるよ」
「……終わったんならさっさと流せよ」
ざっとシャワーを浴びせられ、泡が落ちきったところでそっと顔を上げる。いつしか目の前に、前髪から雫を滴らせた拓海の端正な顔が迫っていて、一瞬、蒼は動揺する。
その黒い瞳は、今はまっすぐに蒼を見つめていて……
「大好きだよ、蒼」
「……え?」
「本当に大好き。だから……これからも俺のそばにいて。ね?」
言いながら、そっと蒼を抱き寄せ、唇を重ねる。次第に深くなる口づけに身を委ねながら、蒼は、言いようのない苦みが胸に広がるのを止められなかった。
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