極道の密にされる健気少年

安達

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誘拐

拗れ

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「は?お前まじ…え?怪我してっから俺が嫌なのか?」

「…………っ。」



まさかそんな理由で嫌がられているとは思いもしなかった松下は驚いたようにそう言った。しかし駿里はそんな松下のことを無視した。



「こら駿里。てめぇな。無視してんじゃねぇよ。」

「…別に無視してないし。」

「無視しただろうが。なんだよ。言いたいことがあるなら我慢せずに言えよ。俺が全部受け止めてやるってのに。」



松下は駿里の本音が知りたかった。だがもちろん無理強いはしない。今の駿里は病み上がりだし情緒もかなり不安定のはずだから。だから松下は慎重に駿里の様子を伺いながらそう言った。そんな2人を黙って見ていた皆だが圷はどうやら我慢できなくなったようで松下に声を荒らげた。



「おい康二!喧嘩すんなって。たく、相変わらずだな。けどよぉ、何はともあれ今は駿里に無茶させるようなことをするな。それはお前が1番分かってんだろうが。」 

「うるせぇな。いいよな圷はお気楽そうで。駿里も傍に来てくれるもんな。」

「めんどくせぇやつだなお前は。拗れすぎだろまじで。」



そう言った圷だが仕方ないと思う部分はある。松下と圷は駿里をあんな風に置いていくことしか出来ずそれを悔やんでいた。誰よりも。だからこそ頑張って駿里を助け出した。なのにいざ駿里と逢えたと思ったらこうして松下は駿里に嫌がられる。そのため圷は松下がそうなるのも仕方ないと思いながらもやはり松下のこのいじけっぷりには呆れてしまう。



「はぁ…。仕方ねぇやつだ。」



と、圷は言うと腕の中にいる駿里の頭を撫でて顔を上げさせた。



「駿里。」

「なに?」



駿里は圷のことは無視しない。それがさらに松下を拗れさせていく。



「康二の所に行ってやれ。」

「……いや。」



圷はダメ元で駿里にそう言ったが案の定駿里はそれを拒否した。だが圷は諦めなかった。それだけ松下が駿里を助けるために懸命に頑張っていたのを知っているから。



「駿里。そう言うなって。康二はお前の事を助けようと寝ずに抗ってたんだ。誰より働いてお前の事を助けようともがいていた。だから頼む。あいつのとこに行ってやれ、な?」

「……………。」



圷にそう言われた駿里はまた黙り込んだ。そんなの知らなかったから。何があろうと駿里の中であの置いていかれた記憶が大きい。そして松下が目の前で撃たれてしまったという衝撃も忘れられない。それを悔やんで悔やんで松下に申し訳ないと思っていた駿里。だが今はそんなことをすべきではなかったと圷に気付かされた。だから駿里は圷の腕の中から出て松下の所まで行った。



「…康二さん。」

「遅せぇよ馬鹿。」



目の前に来た駿里を松下はぎゅっと抱き締めた。そして駿里もゆっくりとではあったが松下を抱きしめ返した。



「お前にどんだけ会いたかったと思ってんだよ。なのに拒否とかしやがって。」

「…だって、康二さんが俺なんかを庇って怪我するから。」

「はぁ?お前それが原因かよ。そんな事で…。」

「そんな事じゃないっ、そんな事じゃないもん…っ。」



松下にとっては怪我をすることなど日常茶飯事。それにその傷は駿里を守るための怪我なのだから全然痛くも痒くもなかった。しかし駿里にとってはそれが大きな傷になっていたのだ。それに気づいた松下は駿里の頭を優しく撫でた。



「悪かった。ごめんな駿里。」

「…ううん、康二さん。俺もごめんなさい。」

「何はともあれ帰ってきてくれてありがとうな。」



松下はそう言うと駿里を強く抱き締め続けた。そしてそこからしばらく経った頃寛也が動き始めた。



「康二。もういいか?」

「あ、組長すみません。駿里をお返しします。」

「ああ。」



寛也も松下が元気になって安心した様子だった。その証拠に寛也は松下に微笑んでいたのだから。



「駿里、おいで。」

「うん。」

「いい子だ。それとお前らこの件について一旦託してもいいか?俺はこいつと部屋に戻る。」

「勿論です。お任せ下さい。」



と、松下が言った。それに続くように志方も…。



「何かありましたらすぐにご連絡しますのでごゆっくりされて下さい。ここは俺達が引き受けます。」



と、志方。



「森廣さん達とも連絡を取り合って逐次報告しますね。亮についてはどうしましょうか?もう連絡を取らなくてよろしいですか?あいつにも仕事があるようですから。」



と、圷が言った。そんな圷の質問に答えるため寛也は動きを止め口を開いた。



「ああ、そうだな。亮については俺から連絡するようにする。森廣から何か連絡あれば俺にすぐ連絡しろ。」

「「「承知しました。」」」



と、いい頭を下げた3人に背を向けて寛也は歩き始めた。その後を駿里はついて行った。



「寛也。」

「どうした駿里。」

「俺の事迎えに来てくれてありがとう。」



駿里はそう言って寛也に微笑んだ。そんな駿里の言葉を聞いた寛也はたまらずその場に立ち止まった。



「何を言う。当然だ。」

「良かった。やっぱりそうだ。寛也は迎えに来てくれるって信じてたよ。」

「一度帰ってしまってすまない。お前にあんな思いをさせることなく…」

「もうそれはいいの。今こうして寛也といられるから俺はそれでいい。」

「お前は優しい子だな。暫くは俺が付きっきりなるから嫌がんじゃねぇぞ。まぁ嫌って言っても離してやんねぇけどな。」

「むしろ嬉しいね。」

「はは、そうかそうか。」
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