極道の密にされる健気少年

安達

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誘拐

変わりゆく心

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「駿里、どうだ。落ち着いたか?」



暉紘のその問いかけに駿里はゆっくりと頷いた。本当は落ち着いてなんかない。落ち着けるわけがなかった。心も休まらない。だからどうしても確かめたい。本当に寛也が自分に飽きてしまったのかどうかを。だが暉紘の言う通りと思ってしまう部分もあり駿里は寛也に会うのが正直怖かった。そしてそれだけじゃなかった。



「そうか。いい子だ。」



暉紘がそうやって駿里を褒めながら頭を撫でてくる。だが駿里の頭の中にあるのは寛也だけ。どうして寛也は駿里のことを見捨てたのか…。駿里はその答えを必死に探していた。



「腹減ったろ。飯を食おう。」



お腹…?駿里は暉紘にそう言われて気づいた。ご飯を食べてないということに。だがお腹なんて空かなかった。そんな余裕すら駿里にはなかったのだ。



「…お腹…空いてないです。ごめんなさい…。」

「そうか。それなら無理して食べなくていい。腹が減った時に食おう。」



明らかに暉紘の駿里に態度は変わった。駿里がここに来た時とはまるで別人だ。優しい。いや優しいなんてものじゃない。気遣ってくれて駿里を心配してくれる。あの時は駿里にあんなに酷いことをしてたのに。



「…あの、」



駿里は今しか寛也に会えるチャンスがないと思った。暉紘がこうやって優しくしてくれている時に頼まないと取り返しのつかないことになる。だから駿里は勇気を振り絞って暉紘に寛也に会わせて欲しいと頼もうとした。だがそれは暉紘にどうやらバレてしまっていたらしい。



「まだ旭川のことを思ってるのか?」



駿里はそれを口に出していない。だが暉紘はそれを分かっていた。そしてずっと駿里が寛也のことを考えていたということも。



「…はい。」

「そうか。どうしてもお前はあいつの事を忘れられないようだな。」

「絶対、忘れられません…。俺にとっては全部初めての人だったから…。」

「そうか。それは辛かったな。」

「……………。」



そう。駿里は辛かった。だから寛也に理由が聞きたい。どうして置いていったのか…。もう飽きられたとしてもそれはそれでいい。ただ理由が知りたい。その理由だけでも聞けば納得いくかもしれないから。



「…その、」

「どうした駿里。」

「…もう一度、寛也に会わせてくれませんか?」

「駄目だ。もうお前の傷つく姿を見たくない。」



嘘だ。それは全て暉紘の嘘。駿里の傷つく姿を見て暉紘は楽しんでいるのだから。



「…でも、」

「お前があんなに叫んだのに旭川は迎えに来なかったじゃねぇか。それが答えだろ。」

「……………。」



そうだ。寛也は駿里を迎えに来なかった。でもそれは違う。寛也がそうしたのは暉紘がそう仕向けたから。そうなるように寛也を動かしたから。



「旭川のことは忘れろ。お前も前に進め。」



暉紘は嘘ばかりを言って駿里を弄んだ。そして駿里に寛也を憎ませようとした。そうすれば駿里は寛也の事なんてどうでもよくなるだろうから…と暉紘は思っていた。だが暉紘が思っているよりも駿里の中で寛也という存在は大きかったようだ。その証拠に…。



「…でも、どうしてなんだろう。あんなに愛してくれてたのにっ、」



と、駿里は寂しそうな顔をしてそう言った。どうしても駿里はいいように思ってしまう。何かあったんだって。寛也にはああするしか方法がなかった。だから駿里を置いて帰った。けどその理由が駿里には見つからなかった。



「寛也は元気かな…。どんな顔してるんだろう…。」



悲しんでいて欲しい…。駿里は心のどこかでそう思っていた。寛也が悲しんでくれなきゃ駿里は潰れてしまいそうになるから。会いたがって欲しい。会いに来て欲しい。もう一度寛也に抱きしめて欲しい…。



「…………なんでっ、わかんないよっ、」



駿里は考えれば考えるほど悲しくなっていった。それほど寛也を愛していたから。そんな駿里をみて心の中で暉紘は笑った。1番愛していた人に裏切られ絶望している駿里をみて…。



「駿里。人の心は変わるものだ。俺は違うけどな。」



大切な人に裏切られたという深い傷を埋めることで駿里の中で暉紘という存在がどんどん大きくなっていった。だから駿里は暉紘に対して警戒心が徐々に薄れていってしまう。今、駿里を支えてくれているのは暉紘だけだから。



「……………。」

「どうした駿里。」



駿里は暉紘の名を思い出そうとしていた。暉紘が実際に慰めてくれているのは事実だから。だからそれのお礼を言おうとした。それがどんなことを意味するのか…。駿里も自分で何をしているのか分かっていない。けれど今の駿里には暉紘しか頼る存在が居ない。だから…。



「えっと、あ、きひろさん…?」

「そうだ。名前覚えてたんだな。」

「…暉紘さんは偉い人なんですか…?」

「ああ、そうだぞ。」

「どうしてそんな人が俺を…?」

「そんなの決まってる。お前を助けるためにな。」



嘘だ。全て暉紘のでまかせ。けれど傷ついた駿里はそれを信じてしまう…。通常の駿里ならそれが嘘だと直ぐにわかっていたはずなのに。



「旭川がお前を捨てようとしてたことを知ってたからお前を救ってやった。」



嘘。嘘だ。全部嘘。ただ暉紘が駿里に興味をもってそれで誘拐した。ただそれだけ。なのに暉紘は駿里をコントロールしていった。寛也は悪い人。悪い存在…と。



「…………。」

「今は信じられねぇよな。いや信じなくていい。俺がこれからは守ってやるから。」



そして暉紘は駿里に無理強いをしなかった。そうすることで信憑性を駿里に持たせようとしたのだ。



「嫌な話をして悪かったな駿里。疲れたろ。もう一度寝るか?」

「…はい。」



暉紘の言う通り。駿里はとても疲れた。寝ても寝足りないほど疲れた。起きていたらどうしても寛也のことを考え込んでしまうから。



「そうか。なら寝とけ。寝るまでそばにいてやるから。」



そう言って駿里の体を横に寝かせて暉紘は駿里の頭を撫でた。そこからまもなくして駿里は深い眠りについた。そんな駿里をみて暉紘は笑った。事が上手く進んでいるから。そんな暉紘の元に凪が訪れてきた。



「あ、ボス。どうも。お疲れ様です。」

「なんだお前は。何の用だ凪。」

「駿里のやつ、どうかなーって思いまして。」

「寝たぞ。」

「薬ですか?」

「違ぇよ。泣き疲れて寝たんだ。」



凪は薬を使わなければ駿里を寝かせることに成功しなかった。だからだろう。凪は少し悔しそうにしていた。



「そうですか。さすがですねボス。というかこれからどうなるでしょうね。」

「そうだな。」

「旭川は旭川で諦めてないでしょうから早い事日本から出ないとですね。」

「まぁけど急がば回れだ。日本を出るにしてもちゃんと計画してから日本を出る。」

「ボスの言う通りです。」

「凪、引き続き旭川の様子をさぐっとけ。次あいつがここに来る時は俺たちが負けるだろうからな。それだけはあってはいけねぇ。こいつはもう俺らのもんだからな。」

「はい。勿論です。」

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