極道の密にされる健気少年

安達

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志方と島袋に連れ去られる話

家出

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「は?出ていく?ここから?お前それ本気で言ってんのか?」



駿里が叫んだ言葉に寛也はまるで表情を失ったかのような顔をしてそう言い放った。だが寛也は怒っていた訳では無い。むしろ何とも思っていなかった。なんならまたか…ぐらいにしか思っていなかった。駿里が家出をするというのはよく言うことだしそれにこれまで本当に駿里が家出をしたことはないから。だが今回は違ったようだ。



「本気に決まってんじゃんかっ、もう出て行ってやる!」



駿里はどうやら本気で家出をするらしい。まぁそれも無理も無いかもしれない。寛也も寛也でやりすぎなところがあるから。だがだからといって駿里を手放さないのが寛也だ。そのため寛也は…。



「今なら許してやる。早く戻ってこい。」



と、声を低くして駿里にそう言った。そうすれば大抵駿里は言うことを聞くから。寛也をこれ以上怒らせたらまずい。それを知っているから。だがやはり今回の駿里の意思は硬かった。



「戻らない!」



怒ったフリをしている寛也に駿里はそう言い放つと玄関まで走って行った。その駿里に対してもちろん寛也は怒った。



「おい駿里!!どこに行くつもりだ!今すぐ戻れ!!」

「戻らないから…っ!」

「はぁ…。たく、世話のやけるやつだ。」



寛也は何故か焦ることも駿里を急いで追いかけることもしなかった。だがそれにはちゃんとしたわけがあった。その理由というのは玄関にあった。そう。寛也は玄関の鍵をいつでも施錠できるのだ。だから寛也は急がなかった。急がなくても駿里がこの部屋から…いやこの家から寛也または松下らの許可無しで出ることは出来ないのだから。そのため…。



「え…開か、ない?」



寛也が玄関に歩いて行った頃には絶望した駿里の姿があった。駿里の頭の中ではきっと今頃外に出て誰かしらの幹部の家にでも転がり込むつもりだったのだろう。だがそれが出来なかった。そのためどんどん寛也が迫ってきている。それも怒っている寛也が…。



「なんで開かないのっ、開いてよ…っ!」

「馬鹿が。開かねぇよ。」

「…な、んでっ、」

「そりゃ初めの頃にお前の逃走防止用に色々細工してたからな。絶対逃げ出せねぇようによ。」



寛也は壁に寄りかかり駿里を冷たい目で見下ろしていた。その目が怖くて…辛くて駿里は寛也から目をそらす。



「で、でも最近はずっと鍵空いてたじゃんか…っ!」



駿里はここ最近玄関の鍵が空いていたのを知っている。翔真の件の時もそうだ。寛也が外に出たあとも鍵が空いていた。だから駿里はそう言った。だがそうでは無いのだ。仮にいつも鍵が空いていても関係ない。それは…。



「あのな駿里。俺は細工したって言ったろ?その意味が分かるか?」

「………?」



駿里は寛也の言っている意味が分かっていない様子だった。何を言っているのか…。だから寛也は駿里にも分かるように話し出した。



「いつでも俺が鍵を施錠出来るようにしてんだよ。例え俺がどこにいてもな。だからお前は今実際にここにいる。部屋から出れずにな。」

「…そんなっ、」



駿里は勘違いしていた。寛也は自分のことを信頼してくれているから鍵を開けてくれていたのだ…と。そしてそれはいつもそうだと思っていたのだ。だから今回も鍵が空いていると思っていた。いや逆に閉まっているなんて思いもしなかったのかもしれない。そんな風に絶望する駿里に寛也はゆっくりと近づいていく。



「何目を逸らしてんだよ駿里。」

「…ちがっ、」

「違う?なら俺を見ろよ。」

「……あ、のっ、」

「おら。こっちを見ろ。」



寛也は下を向く駿里の顔を鷲掴みにして無理やり上を向かせた。その時駿里は寛也と目が合ったがあまりの寛也の怖さに顔を背けようとした。だが寛也に顔を鷲掴みされていてはそれが出来ない。そのため駿里は目線だけ逸らした。



「…おい駿里。これ以上俺を怒らせるな。俺を見ろ。」

「………………っ。」



寛也の言う事を聞かなければまずい。それを本能的に悟った駿里は嫌々ではあったが寛也のことを見た。すると案の定寛也はとんでもないほど怒った顔をしていた。



「覚悟は出来てんだろうな。なぁ駿里。」

「だっ、だって…っ、」

「だってじゃねぇ。早く来い。これ以上俺を怒らせるな。」



そう言って寛也は駿里の腕を掴んだ。そのまま駿里を引っ張り寝室へと連れていこうとしたが…。



「…いや。」

「は?」



駿里が言うことを聞かなかった。さすがの寛也もこれは想定外だったようで寛也は目を丸くしていた。そりゃそうだろう。いつもここまでくれば駿里は何を言わなくても寛也の言うことを聞くようになるのだから。なのに…。



「…いやだっ!」



駿里はまたそう言い寛也を拒否した。反抗した。そのため寛也は駿里の腕を思いっきりぐいっと引いて自分の方に引き寄せた。



「あっ、ちょっ、いたい…ってば!」

「お前自分が何言ってんのか分かってんのかよ。」

「分かってるよ…っ!」

「そうか。ならお前は分かってて俺に喧嘩を売ってるわけか。」

「そうだよ…っ!」

「ほぅ…。」



いつもの駿里ではなかった。何かが違う。いやでも逆に言えばそれほどまでに駿里は今回の件に関して寛也に不満が溜まってしまったのかもしれない。そしてそれが今爆発してしまったのだろう。



「いつもいつも俺が寛也の言うことなんでも聞くと思うなよ…っ!」

「へぇ…。言うようになったな。それで?」

「…え、?」



さっきまで強気だった駿里なのに寛也にそう返されて思わず黙り込んでしまった。興奮していた駿里とは裏腹に寛也は冷静だった。それもあってか駿里は少し冷静さを取り戻したのかもしれない。そんな駿里を更に寛也は追い込んでいく。



「だからそれでどうしたんだ。お前は俺の言うことを聞かない。んで、それから?」

「…え、っ、と、」



その先を考えずに駿里は声を荒らげて反抗しまくっていた。だから冷静に寛也にそう言われて何も言い返せなくなってしまったのだ。そんな駿里を見て寛也が…。



「それで終わりならこの話もこれで終わりだな。ほら来い。」

「い、いやだ…っ!」

「これ以上駄々こねんなら康二も呼んでやろうか?」

「………っ!」



松下が来るということは3人でするということ。それは駿里も体力的にもかなりきつくなってしまう。そのため駿里は黙るしか無かった。



「そうだよな。嫌だよな。」

「…………っ。」

「なら大人しく着いてこい。」



そう言って寛也は手加減なしに駿里の腕を引いた。そのためその場に踏みとどまろうとした駿里だったがそれは叶わなかった。



「…まっ、てっ、」

「いいや。待たねぇ。」
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