極道の密にされる健気少年

安達

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志方と島袋に連れ去られる話

時間稼ぎ

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「わ、分かりました!」



寛也がいるからだろう。幹部である志方に少し脅されただけで栗濱は震えてそう声を荒らげた。前は寛也のいない所で志方の身体をちょくちょく触っていたというのに物凄い変わりようだ。だから志方は鼻で笑ってやった。今の無様な栗濱の姿を。



「早くしろっつってんだよ。」



この際だ。この前の腹いせをしてやろう。そう思った志方は翡翠らの所に案内を開始しようとした栗濱にそう言った。すると栗濱は当然焦る。その栗濱の姿が面白くて志方は悪態が止まらなくなってしまった。



「おら立てや。」

「す、すみません…!!!」



そう言った栗濱を見て志方は楽しそうに笑った。だがその時だった。志方の肩に寛也が手を置いてきた。



「組長?」

「遊びはそのくらいにしとけ。お前の気も済んだろ?」



ずっと黙って見ていた寛也だったがあまりにも志方が栗濱で遊ぶのでそう言った。だがそれは栗濱のためでは無い。志方のためだ。志方程の男がこんな奴のために無駄な時間を過ごすなんて寛也は許せなかったのだ。



「…すんません組長。」

「後でこいつの処分を考えるからまだ足りねぇならそん時やれ、な?」

「はい。」



そう潔く返事をした志方を見て寛也は思わず笑いそうになった。志方はまだ足りなかったのだろう。まだまだ栗濱を痛げあげたかった。だが我慢した。そんな志方に偉いぞという意味で寛也は志方の肩をポンポンと叩いた。そして寛也は今度は視線を栗濱に移すと…。



「お前は何ボケっとしてんだよ。早く案内しろ。」

「は、はい!旭川さん!」

「チンたらすんな。俺は時間を無駄にすんのが大嫌いなんだよ。」

「申し訳ございません!どうか命だけは!!」



早くしろと寛也はいっているのに栗濱はまた寛也に土下座をした。そして頭を床に着けた。この栗濱を見て寛也はため息が止まらない。それは何故かって?栗濱が一生懸命時間稼ぎをしているからだ。それほど庵を渡したくないのだろう。だが今、時間が無い寛也にとってその栗濱の行為は怒りを膨張させていくのみ。そのため寛也は栗濱を蹴りあげた。



「うぁ゛゛!!」



これまで栗濱は殴られたり蹴られたりしたことがないのだろうか。少し寛也が蹴っただけで呻き声を上げた。そのため寛也にはどうもこの男が組長をしているようには見えなかった。いや今はそんなことどうでもいい。ただ早く帰りたい。だから寛也は…。



「おい志方。こいつをどうにかしろ。」

「…なんで俺なんですか組長。俺もこいつにイラついてるんですけど。」

「いいからやれ。」



そう言った寛也に志方はため息を着くと栗濱に視線を移した。するとそこにはまだ蹲っている栗濱の姿があった。それを見た志方はもうため息が止まらない。この人は本当にヤクザなのだろうかという疑問すら生まれてきた。それにこんなに痛みに弱いヤクザが存在することに志方は驚きを隠せなかった。そんな弱々しい栗濱に志方は最後のチャンスだと言うように話し始めた。



「おい栗濱。さっきも言ったがいちいち時間をかけるな。隠し通したいことがあるのは分かってんだよ。けど俺らはもうそれを知ってんだ。だからいくらここでお前が時間稼ぎをしても結果は変わらねぇ。分かるか?お前の馬鹿な頭じゃ分かんねぇかもしれねぇけど分かってくれよ。なぁ栗濱。」



志方もかなり怒っているのだろう。いやなんなら殺気立っている。そんな志方をみて栗濱はまずいと思ったのだろう。呻き声を上げながら立ち上がった。



「も、もちろん分かっておりますよ…、時間稼ぎだなんて、そんなこと、もしておりません、」

「ならさっさと案内しろ。これ以上俺を怒らせるな。」



と、寛也が言った。駿里に会いたい。会いたくて仕方がない。なのにこの男のせいで寛也は手を煩わせている。それが許せない寛也は栗濱をきつく睨みながらそう言った。



「は、はい。こちらにどうぞ。」



と、いい栗濱がやっと案内を始めた。それも早足で。これ以上寛也らを怒らせてはまずいと分かったのだろう。そして栗濱はある部屋の前で止まり寛也らの方を振り返った。



「こ、ここが息子の部屋です。」

「早く開けろや。いちいちこっち向かなくていいんだよ。何チンたらしてんだ。」

「す、すみません…。」



栗濱はもはや寛也と同じぐらい志方に対しても怯えていた。それほど今の志方は怖いのかもしれない。だがこうして志方が怒ってしまうほど逆に言えば栗濱の行動が遅いのだ。そのため今も…。



「おいお前。ドアもまともに開けらんねぇのか?」

「組長。もうこいつ蹴飛ばしていいですか?」

「ああ。いいぞ。」

「退け、栗濱。」

「うぁ゛゛!!」



また大袈裟に栗濱は声を出した。そしてその後志方がこの部屋のドアを開けた。するとそこには3人の男がいた。こいつらこそが栗濱の息子なのだろう。それを寛也も志方も瞬時に理解した。だが昌也らは理解出来ていない様子だった。



「親父?どうした………え?なんでこの人たちがここに?」



状況が分からない昌也は混乱したようにそう言った。だがいくら混乱しているからと言っても志方は黙ってはいない。何せ寛也に向かって昌也は『この人』と言ったのだから。



「おいなんだその態度は。お前ら組長を舐めてんのか?」

「い、いえ。決してそんなことはありません。ご無礼をお許しください。」



翡翠がすぐさま昌也を庇うようにそう言った。それもあって志方は昌也を大目に見てやった。だがドアを開けた瞬間から栗濱は身体をブルブルを震わせていた。その理由は…。



「それよりお前たち……庵はどうしたんだ。」

「え?庵…?庵は翔真が連れて行ったよ。」

「………連れて行っただと?」
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