極道の密にされる健気少年

安達

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松下康二と駿里のお話

平和

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「馬鹿は康二さんだっ!!」

「お前だろ!俺はお前に怪我とかさせたくねぇから!!」

「それが嫌なんだってば!」

「はぁ?意味わかんねぇ!」 

「俺だって意味わかんない!!」



この2人の声は外にいる志方にも聞こえていた。そして志方は悩んだ。ここは黙って見守るべきだろうか。いやそれではだめだ。ヒートアップしてしまう。そう思った志方は病室のドアを開け2人の喧嘩を止めに入った。



「おいおいお前ら。外まで丸聞こえだぞ。恥ずかしいからやめろ。」

「だって康二さんが…っ!」

「ちょっと落ち着け駿里、な?」

「………っ。」



志方に宥めるようにそう言われて駿里はやっと落ち着いた様子だった。そんな駿里と松下を見て志方はため息をついた。



「たく、しょうもないことで喧嘩なんかすんな。」

「しょうもなくない!」

「分かったからすぐ牙を出すな。」



志方の言った言葉はどうやら駿里にとっての地雷らしい。これをまた否定すれば駿里が噛み付いてくる恐れがあったので志方は駿里にそう言った。しかし志方には駿里が分からなかった。松下に守られて何が嫌なのかということが。だからそれを聞くことにした。



「お前は何が嫌なんだ駿里。別に康二に守られて悪いことはねぇだろ。」

「そうだそうだ。意味わかんねぇよ。」

「おい康二。お前が入ってくるとややこしくなるから黙ってろ。」



志方にそう言われイラついた様子だったが松下は黙り込んだ。松下も喧嘩をしたい訳じゃない。ただ腹が立ち頭に血が上ってしまったのだ。だから駿里の思っていることに耳を貸すため黙り込んだ。そんな松下を見て満足したのか志方は再び駿里に話しかけた。



「んで?駿里、どうなんだよ。」

「…だって、康二さんいつも無茶するんだもん。」

「それが嫌なのか?」

「…うん。」

「そうだな。それは俺も嫌だ。お前と同意見だ駿里。」



駿里の言うことがよくわかった仕方。だからそう言った。この件に関しては松下に文句を言ってもいいけれないほど志方も腹が立っていた。しかし松下にはそのわけが分からなかったようで今度は松下が牙をむいてきた。



「はぁ?お前まで何言ってんだよ志方。」

「お前は無理をしすぎなんだ。なんでもかんでも一人でするな。仲間を頼れ。一人でやってこうやって重傷を負うな。それが誰かを悲しませる行為に繋がるんだぞ。」

「うっ…。」



志方に痛いところをつかれて松下は何も言えなくなった。それは松下も反省しているところだから。こんなに駿里が悲しんでくれるなんて思ってもいなかった。だから絶対にもう同じことをしない。松下はそう誓った。駿里の涙を見たくないから。



「これが駿里の言いたかったことだろ?」

「…そ、そう。志方さんすごすぎ。」

「だろ。」



志方がそう駿里にドヤっていったその時誰かが病室のドアを開けた。その人物を確かめるため志方は後ろを振り返るとそこには寛也が居た。



「「お疲れ様です組長。」」

「ん?なんかあったのか?」



病室の雰囲気を見て何かを察したのだろう。病室に入ってきて直ぐに寛也がそう言ってきた。さすがは組長。観察力、いつもと違うものを感じとる能力が凄まじかった。そんな寛也に志方はざっくりと答えた。



「ちょっとした喧嘩です。でももう収まりましたので大丈夫ですよ。」

「そうか。お前がそう言うなら大丈夫そうだな。」



志方がそういうのであれば大丈夫だと思った寛也はそう言い松下の元へと歩き始めた。



「康二。よく戻ってきてくれた。早く復帰できるようしっかり休むんだぞ。お前の力が必要だからな。」

「はい。」

「じゃあ駿里。お前は俺と帰ろうな。」

「うん…!」



駿里のその返事を聞くと寛也は駿里の頭を撫でた。そして駿里の体に腕を回し病室を後にしようとする。駿里はもちろんそれについて行こうとしたがその前に2人に挨拶がしたかったようで後ろを振り返った。



「またね康二さん、志方さん。」

「ああ。またな。」

「ゆっくり休めよ。」



2人のその言葉を聞くと駿里は寛也に続くように歩き始めた。そして病室を出る。そんな駿里を見て松下は寂しそうだった。当然だろう。松下は駿里のことを愛しているのだから。だから志方はその寂しさを紛らわそうと松下に話しかけた。



「寂しそうだな。」

「あったりめぇだろ。つか、天馬はどうすんだ?お前なんか組長から聞いてんじゃねぇの?」

「無かったことにするらしい。」

「そうか。良かった。」



撃たれたのだから松下は少しばかり不服かもしれないと志方は思っていた。だが違ったようだ。こういう時の松下は大人だ。いくら撃たれたからといって許さないとかそういった感情はないようだ。そうではなく松下は天馬の心の闇に気づけなかった自分を責めているようにも見えた。それほど松下は天馬に恩を感じていたのだ。天馬は幼き頃松下の親代わりになってくれたから。



「お前がそう言ってくれてよかった。少しは天馬の動きを拘束するがこれまでと変わりないように接してやれ。その方が駿里もいいだろうからな。駿里の中で天馬は優しく強い男というままにしてやりたいって組長の願いも込められている。」

「そうか。まぁ俺は駿里のためならなんでもするさ。」

「そうだな。でも康二、あんま駿里にのめり込みすぎんなよ。」

「ああ。分かってる。」



そういった松下だったが志方の顔を見て思ったことがあった。志方の顔はとても不安そうにしている。そんな顔を見て松下はちょっと自分の行いに後悔した。心配をかけすぎてしまったから。きっと志方は松下が駿里に依存しすぎていることを心配している。だが松下は大人だ。その辺の感情の管理はできている。それを伝えるべく松下は口を開いた。



「大丈夫だ志方。俺はあいつが俺のもんになんねぇって分かってる。そんでそれでいいだ。あいつを別の形で幸せにする。それが俺の幸せでもあるからな。」

「そっか。そうかよ。まぁそれお前らしくていいんじゃねぇの?いつか駿里が振り向いてくれたらいいな。」

「ああ。そうだといいな。そんな日が来るとしても夢の中だけだろうけどな。」

「はは、そうだな。」



そこから志方と松下は久しぶりに二人の会話を楽しんだ。その後医者の許可がおり松下が自宅に戻ることになった。そんな松下が退院した後旭川組は平和な日常を取り戻した。そして駿里が松下から逃げ回る毎日が訪れたことは言うまでもないだろう。しかし1つ変わったことがある。それは天馬が憎しみを抱かなくなったということだ。皆が平和に暮らせるこの毎日に松下は日々幸せを感じながら暮らし続けた。



ーーーend
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