極道の密にされる健気少年

安達

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松下康二と駿里のお話

守られた約束

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「…え、いま、志方さんが喋った?」



今誰かの声が聞こえた。駿里では無い。だったら志方か?そう思い駿里は志方にそう聞いた。ある希望を胸に抱きながら。



「いや俺じゃねぇよ…。」



志方じゃない。だったら誰かって?そんなの決まってる。この部屋には3人しかいない。駿里…そして志方…もう1人は…!



「じゃあ…!」



駿里と志方は顔を見合せて勢いよく立ち上がった。そして松下が眠っているベットまで走っていく。起きたばかりの松下にその音は毒かもしれない。だが今はそんなことを考える余裕が無いほど2人は興奮していた。何せいつ目覚めるか分からないと言われていた松下の声が聞こえたのだから。



「康二さんっ…!!!!」



松下の声がしたことで松下が目を覚ましたという確信はあったが確証はなかった。だから駿里と志方は松下の顔を見て心から安心した。松下の目が開いていたから。閉じていた目が開き息をしている。まだ起き上がることは出来そうにない。しかし生きている。生きてくれた。それが嬉しくて駿里は松下に飛びつこうとしてしまう。しかしさすがにそれはまずい。松下は大怪我をしているから。その為志方が素早く駿里をキャッチして止めた。



「おい馬鹿駿里!興奮を抑えろ。康二はまだ目が覚めたばっかなんだから。」

「あ…ご、ごめん。」



志方は嬉しさのあまり興奮状態にあった駿里を落ち着けようとそう言った。そのおかげもあって駿里は落ち着くことが出来た。しかしまだ気は抜けない。あれだけ松下が起きることを楽しみにしていたのだ。その分嬉しさは大きくなるはず。だから志方は駿里を自分の腕の中に埋めたまま松下に話しかけた。



「康二。俺が誰か分かるか?」



光が眩しいのか松下は目を開けることを躊躇っている様子だった。その松下に志方はそう聞いた。全身麻酔をかけると脳も麻酔にかかる。その為意識がはっきりしない。脳を撃たれた訳では無いから記憶障害を起こす心配は無いが念の為そう聞いたのだ。その志方の言葉に松下は呆れ顔をしてきた。



「…あ?記憶あるわボケ。頭撃たれてねぇんだからその心配はねぇよ。」

「良かった。」



松下のその言葉を聞いて駿里も志方も本当に安心した。これであとは松下の体が回復するのを待つだけだ。その安心のあまり駿里は目に涙を貯めてしまった。そんな駿里を見て松下が手を伸ばしてきた。



「おい駿里…こっち来い。」



松下にそう言われて駿里は躊躇っている様子だった。それは駿里自身が今興奮状態であり今はそれを志方が押えてくれているが松下の元に行けばきっと興奮してしまう恐れがあったからであろう。だから駿里はチラッと志方の顔を見た。すると志方は優しく微笑んでくれた。



「何してんだ駿里。ほら、行って来い。康二が呼んでんぞ。」



志方のその言葉に駿里は嬉しそうに頷いた。その志方の言葉の裏にあった思いに気づいたからだ。もし駿里が興奮しても大丈夫。俺が止めてやるからという志方の思いが感じられた。そんな志方の優しさに触れながら駿里は松下に近づいて行った。



「…康二さん。」

「駿里。もっとこっちに寄れ。近くに来い。」



松下がそう言いながら駿里に手を伸ばしてくる。駿里はその松下の手に応えるように手を伸ばし返した。そして指を絡ませる。



「無事だな…良かった。お前が無事で安心した。」

「康二さんこそ…。」



駿里は松下の笑顔を見ると涙が溢れだしてきてしまった。耐えていたはずなのに…。我慢出来ずに落としてしまった。そんな駿里を松下は抱き寄せる。その時の松下の顔は駿里から見えなかった。しかし志方には見えた。とんでもなく嬉しそうな松下の顔が…。だから志方もつられてしまった。嬉しそうな松下の顔を見ていると嬉しくなった。だけど志方には松下に言いたいことがあった。それは言うまでもなく文句だ。



「たく康二よぉ、ほんとにお前って奴は。目が覚めたからいいものの1人で行動とか馬鹿な事してんじゃねぇよ。駿里を泣かせちまったら意味ねぇだろうが。」

「分かってる…悪い事をした。本当にすまない駿里。」



どれほど駿里が心配してくれたのだろうか。それは考えなくてもわかった。この嬉しそうな駿里の顔を見れば。だから松下は罪悪感が生まれてしまった。そんな松下の感情を読み取ったのだろう。志方が松下に優しく微笑み話しかけた。



「康二。組長にはまだお前が目を覚ましたこと言わねぇでやるから駿里ともう少しだけ過ごしとけ。多分お前が目覚めたことが分かると駿里を回収しに来るだろうからな。」

「…感謝する志方。」



きっと天馬の処理も志方が協力してくれたのだろう。松下は志方にいつかお礼をしよう…そう決めた。駿里の精神面のケアも志方にしか出来ない。それをしてくれたから駿里はこうして元気にしている。その志方への感謝は考えれば考えるほど松下の中で広がっていった。だから松下は志方に微笑んだ。初めてかもしれない。喧嘩ばかりの2人がこうして笑い会う姿は。そして駿里も2人同様に笑みを隠せなかった。だって嬉しいから。



「康二さん…っ!」

「おい駿里。あんま羽目外すなよ。あと康二、俺は念の為主治医を呼んでくる。その間馬鹿な真似すんじゃねぇよ。」

「わかってるからさっさと行け…。」



松下はそう言うと駿里を強く抱き締めた。いつぶりだろうか。目が覚めたばかりの松下には分からない。だからこそこうして愛する駿里の温もりを感じることに幸せを感じるのだ。そんな幸せに浸っている松下を見て志方は再び笑った。そして志方は病室を出て行く前に駿里に話しかけた。水を差すために。



「たく、お前は。おい駿里。康二を頼むな。」

「うん…っ!」



元気な駿里の声だ。いつぶりに聞けただろうか。志方はその声を聞いただけなのに涙が出そうになった。やっぱり駿里には笑っていて欲しい。幸せでいて欲しい。もちろんそれは寛也と一緒に…。だが今だけは松下にいい思いをさせてやろう。それはちゃんと駿里との約束を守った松下へのご褒美だ。そんなことを考えながら志方は主治医を探すために廊下を歩き始めた。


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