極道の密にされる健気少年

安達

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松下康二と駿里のお話

駿里の体調

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松下のそばにいる。それを託された駿里はあれからずっと松下の傍から離れなかった。ご飯を食べる時もずっとだ。そして気づけば日が暮れてしまっていた。太陽が沈み月が登り始めた頃そんな駿里に付きっきりでいてくれた圷の携帯から電話の音が鳴った。



「駿里悪い。組長からの電話だからちょっと外行ってくる。」

「うん。行ってらっしゃい。」



駿里は圷にそう笑顔で返事をした。心配させないために。駿里は色々なことがあったからなのか喉にご飯が通らなかった。しかしご飯を残すのは嫌だった為吐きそうになりながらも全て平らげた。だからなのか駿里は体調が良くなかった。顔色も悪い。そんな駿里が心配で圷は本来なら仕事に帰っていた所を駿里のそばにずっと付きっきりでいたのだ。だからだろう。寛也が心配して圷電話をしてきたのだ。



 「お疲れ様です組長。」

『おい圷。今の駿里の状態を言え。』

 「…正直いいとは言えません。ご飯も残せばいいのに無理して食べたもんですから顔色も悪くて。」

『そうか。今志方をそっちに向かわせたからお前は一先ず志方と交代しろ。悪いが天馬の始末にはお前が必要だ。だからと言って駿里をひとりにさせるわけにはいかない。体調が悪いなら尚更だ。だから圷、志方がそっちに着き次第お前は俺の元に帰ってこい。必ず志方と交代してからな。』

 「承知しました組長。志方が着き次第またご連絡します。」

『頼んだぞ。』



寛也はそういい圷との電話を切った。その後すぐに圷は病室に入る。それは言うまでもなく駿里が心配だから。



「駿里。」



病院に入るや否や圷は駿里の名を呼んだ。だがその圷の声に駿里は振り返ることも返事をすることもしなかった。そんな駿里に焦った圷は駆け足で駿里の元まで走っていく。



「おい駿里どうした。」

「…あ、ごめっ、ボートしちゃってた。」



先程よりも顔色が悪くなっている。だがここで駿里に無理やりいいきかせて休ませたりしたらそれは逆効果になるかもしれない。駿里の性格的に…。だから圷は駿里を否定せず無理やりいうことを聞かそうともせずただ駿里の隣に座った。



「水一口でいいから飲んどけ。」

「…ありがとう。」

「駿里。今痛いとことかないか?」



駿里の体調が悪いのは聞かなくても分かっている。けれど駿里は我慢してしまう癖があるため圷はそう言ったのだ。きっと駿里は『大丈夫?』と言われたら無理をしてちゃんと答えない。だから圷はピンポイントで聞いたのだ。



「いたいとこ?ないよ。」

「…そうか。ならよかった。」



やはり駿里は答えてくれなかった。ピンポイントで言ったところで我慢をする。ならせめて休ませてやりたい。だがどう言えばいい?駿里は松下が心配で今こんな状態になっている。だから休めなんて言っても不安で休めないだろうしもっと体調が悪化するかもしれない。そんな風に圷が考え込んでいると病室のドアが開いた。そして入ってきた人物は迷うことなく駿里に話しかけた。



「おい駿里。夜はちゃんと寝ろ。いつも夜更かしすんなって言ってんだろうが。」



なんの迷いもなくストレートにそう言った志方を見て圷は呆然とする。圷があれだけ迷っていたのに志方は駿里に対してそう言ったから。



「お、おい志方…もうちょっと考えてからものを喋れよ。」

「あ?何言ってんだお前は。てか圷、お前はさっさと行けよ。俺と交代だろ?組長が待ってんぞ。」



そう言った志方を見て圷は思った。志方にしかこれはできない事だなと。今の駿里を休ませてあげられるのも志方だけだ。圷には出来ない。圷よりも志方の方が駿里と過ごしてきた時間がとんでもなく長いから。だから圷は…。



「そうだな。あとは頼んだぞ志方。」

「ああ。任せろ。」

「駿里。じゃあな。」

「圷さんありがとう。気をつけてね。」



圷はそう言った駿里の頭を撫でて病室を出た。そんな圷を送り届けると志方は駿里をなんの前触れもなく抱き上げた。



「うわっ、ぇ、なにすんだよ!」



急に体が宙に浮いた駿里は驚きのあまり声を荒らげた。そして駿里はすぐに降りようとするが志方は手を緩めてくれなかった。



「降ろしてよ志方さん…。」

「お前が寝んなら降ろしてやる。」

「やだまだ起きてる…。」

「駄目だ。寝ろ。康二から離れんのが不安なら康二の横で寝たらいいだろ。」



駿里のこの体調不良は松下の影響から来ている。それを瞬時に見破った志方はそう言った。しかし駿里は迷っている様子だった。それもそうだろう。寝てしまえば意識を失うも同然。だから記憶もないし記憶も残らない。駿里はそれが怖かったのだ。そんな駿里に志方は再び話しかける。



「こいつは死なない。お前と約束したんだろ?」

「え、なんでそれ知ってるの志方さん…。」

「司波が言ってたんだ。だからお前も寝ろ。こいつが起きた時お前が寝不足で倒れたりしたらどうすんだ。」

「それは…っ、」

「お前が寝てる間俺が見ててやるから、な?だから寝ろ。そんでお前が起きた時俺がまた寝る。交代制で康二を見張ろう。そのために俺が来たんだからよ。」



そこまで志方が言っても駿里は迷っている様子だった。それほど駿里の中で松下康二という存在が大きいのだろう。何だか妬けてしまう。志方はそう思った。志方自身も駿里を大切に思っているから。でもだからこそ今は絶対に寝かせなくてはいけない。駿里同様に志方にとっては松下の存在はとても大切で大事だから。だからまだ迷っている駿里をみて志方はもう一押し必要か…と話出そうとしたその時…!



「わかった。」



駿里がそう返事をしてくれた。まさかのその答えに志方は嬉しさが隠せない。その嬉しさのあまり駿里のおでこにキスをしてしまった。だが駿里はそれを嫌がらなかった。きっと駿里の体調が悪くなくて松下がこんな状態でもなかったら志方は即駿里を襲っていただろう。だが今はそういう訳にはいかない。そのため志方は抱き抱えていた駿里を松下の横に寝かせた。そして優しく頭を撫でる。



「良い子だな駿里。」

「…子供じゃないし。」

「うん。分かってる。お前は俺らの可愛い宝だ。」



志方がそんなことを言いながら駿里の頭を撫で続けていると駿里はあっという間に眠ってしまった。余程疲れていたのだろう。そんな駿里を見て志方はある人物に電話をかけた。その人物とは…。



 「お疲れ様です組長。指示通り駿里を寝かせました。」

『お前は仕事が早いな志方。』

 
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