極道の密にされる健気少年

安達

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遅咲きの花は大輪に成る

繋がった糸 *

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「組長出来ましたよ。早く食べましょう。駿里もほら、早くこっち来い。」



松下が料理を運びながらソファでいちゃこらしている駿里と寛也を呼んだ。だが寛也は駿里から離れたくないようで彼は駿里を離すことを渋っていた。まぁそんなものを見せられて松下が怒らないはずもなく全ての料理を運び終えた松下は寛也の所まで行った。そして…。




「組長、冷めないうちに食べてください。早く。」

「たく、つくづく生意気な野郎だな。」

「ほんと誰に似たんでしょうね。あ、組長でした。」

「康二、お前1回こっち来い。」

「嫌です。俺はお腹すきました。」

「そうか。」



松下は寛也の言うことを聞かず彼に背を向けて歩き始めた。そんな松下を追いかけるかのように寛也は立ち上がりあろう事か松下の背中を思いっきり殴った。



「い゛ったい!何するんですか!」

「親としての責任を果たした迄だ。子供がやらかした時はちゃんと躾ねぇとな。」

「…すんません。」



ここで寛也に歯向かえばもう1発グーパンチが飛んでくると思った松下は素直に謝った。最近駿里はよく思うことがある。松下は寛也に前よりも強気になったな…と。だから駿里は2人に声をかけた。これ以上ヒートアップしないように。



「もう喧嘩しないでよ2人とも。早く食べようよ。」



そう言って駿里は励ましの意味も込めて松下の隣の椅子に座ろうとした。だが松下のことばかり考えていた駿里は寛也のことを忘れていた。寛也が駿里のその行動に怒らないはずがないということを。



「おい駿里何してる。ふざけてんのか?お前はこっちに座れ。」



寛也がすんごい鋭い目つきでそう言ってきた。声も低く松下ですら怯えているように見えた。駿里はこれ以上寛也を怒らせないよう急いで彼の元に行った。



「ご、ごめん寛也。」

「次はねぇ。」

「…はい。」



寛也に軽く怒られてしょぼんとしてしまった駿里を見て松下は笑った。そして松下はそんな駿里を煽り始めた。



「まぁまぁお二人さん。喧嘩はそこまでにしましょうよ。駿里もそんな顔してると食われちまうぞ?」

「誰のせいだとっ…!!」

「駿里、康二の挑発に乗るな。」



今度は松下と駿里の言い合いが始まりそうになったが寛也がそれをいち早く止め駿里を自分の膝に座らせた。そして軽くキスをする。まるで松下に見せつけるかのようにして。



「康二覚えておけ。こいつを食っていいのは俺だけだ。」

「分かってますよ。バレないようにやります。」

「…おい。」

「嘘ですって…!!」



この状況でも松下は冗談を言い寛也を怒らせてきた。いやもしかしたら冗談では無いかもしれないが…。その松下の行動のせいで駿里は寛也に怒られる。そんなの駿里にとってはとんだとばっちりだった。松下の発言に嫉妬した寛也はこれから食事だと言うのに駿里の上着の中に手を入れてきた。



「ばかっ、ねぇ寛也っ、やめろって!」



まずいまずい気づかれてしまう。今駿里の体には無数の傷がある。拘束具の傷、そして所々に強く抑えられた時についてしまった痣。上着を上げられてしまえばそれが見えてしまう。しかも運の悪いことにここはリビングだ。要は部屋の中が明るいのだ。駿里は焦りながらこれ以上服を上に上げられないように下に引っ張ろうとしたがその必要はどうやらなかったようだ。



「え、なにっ、あはっ、やめて!」



いつもの寛也だったら乳首をいじるため服を上に上げる。だが今回はそうじゃなかった。それが救いだったが駿里は余計に我慢することになる。なぜなら寛也がくすぐってきたから。駿里はくすぐられるのが大の苦手だ。なのに寛也はお腹周りで指を細かく動かし駿里をくすぐり始めた。逃げようともがく駿里だが寛也に片手で抑えられ逃げられなかった。



「やだっ、ちょ、く、くすぐっ、たいからっ!」

「そりゃ擽ってんだから当たり前だろ。」

「やめっ、やめろ、あはっ、ぃ、やだ!」



寛也から逃げようと全身で暴れ始める駿里を楽しそうにみながら寛也はくすぐり続けた。そして松下も当たり前のように助けてくれない。なんて奴らだと思いながら駿里は暴れまくった。だが1度くすぐられてしまえば寛也は中々やめてくれない。駿里の反応がいいから。だから駿里は何とかしてこの寛也の魔の手から逃げようともがいていた。だが逃げられない。そんな駿里に救いの手を差し伸べたのは以外にも松下だった。いや駿里を救ったと言うよりは松下は自分を救ったという方が正しいかもしれない。



「組長。勃つんでやめてください。」

「そうだな。俺も我慢できねぇ。」

「…はぁっ……はぁっ……ほんと、さいていだっ!」



寛也は松下の言うことに納得したようでやっとやめてくれた。駿里は息がもう絶え絶えだ。だがくすぐられたことで気がついたことがあった。それは手にも傷の処置がされていたということ。長袖着せられていたことと痛みからあまり分かってはいなかったが手首、足首そして胸あたりにも傷の処置がされていた。さすがすぎる。及川には抜かりがなかった。



「お前ほんと擽られんの弱いな。次からこいつがなんかやらかした時擽りましょうよ。そしたら二度と同じことしないんじゃないですか?」

「確かにそうだな。てことだ駿里。以後行動に気をつけろよ。」

「わ、分かってるよ!」



くすぐられずとも気絶するまでイカされ続けられる。どっちにしろ地獄なので駿里は絶対これから寛也の機嫌を損なわないように気をつけようと思った。そんな駿里に松下が声をかけた。



「そういや及川さんどうだったか?いい人だったろ。」

「…うん。」



もちろんいい人ではなかった。だから駿里は返事が送れた。あんなやついい人なんかじゃない。悪い人だ。身体中触られてイカされて傷つけられてもう最悪だ。怖いし辛いしなのにやめてくれない。そんな男のことをここで話すのも嫌だった。だがそれは松下と寛也には言えないことなので駿里は秘密にして話すしか無かった。



「あの人はまず顔面がいいんだよ。顔だけじゃなく全部かっこいいんだがな。」

「褒めすぎだ。あんまり言うと及川が調子に乗るからやめろ康二。」

「はは、そうですね。」



松下が寛也と森廣以外の人物を褒めている姿を駿里は初めて見た。どうしてそこまで及川に依存するのだろう。単純に気になった駿里は松下に問いかけた。



「2人はどうしてそんなに及川さんのことが好きなの…?」

「あ?いや好きってわけじゃねぇよ。ただ生き様がかっこいいってだけだ。でも正直ちょっと怖い時もある。」

「そうか?」

「組長は及川さんより立場が上だからあんまり思わないだけですよ。なんつーか…時々及川さん不器用だなって思うんです。」

「不器用?なんだよそれ。なぁ駿里。」



寛也にそう言われた駿里だったが続きが気になってしまった。もしかしたら及川の弱みを握れるかもしれない。そしたら…。



「そ、そうだね寛也。でもちょっと気になるかも。不器用ってどういう意味なの…?」

「昔の事が関係してんのもあると思う。」

「どういうこと…?」



及川は大人になってからこの組に入ったと言っていた。なのに昔とはどういうことだと駿里は松下に問いかけた。その駿里の問いかけに答えるため松下は詳しく話してくれた。



「及川さんは実の親にヤクザに売り飛ばされたんだとよ。14歳の頃だったらしい。その時一緒にまだたった7歳の弟もいたらしくてな。及川さんは弟を守るために自分には何をしてもいいから弟には何もすんなって頼み込んだらしい。それをヤクザの連中は承諾したんだとよ。だから及川さんは何をされてもレイプされても黙って耐えた。でも数年たった頃異変に気づいたらしい。」

「…異変って?」

「弟の身体に傷があったらしい。それで弟の服を全部ぬがせた時沢山の痕があったんだとよ。」

「それって、まさか…。」

「そのまさかだ。ヤクザの連中はたった14歳の及川さんの頼みを聞かずそれを破った。及川さんを玩具として使っている間に弟も同じようにレイプしてたらしい。それに気づいたのが3年の月日が流れた後だったらしくて弟はもうそんときには精神が壊れてたんだとよ。その次の日…及川さんはヤクザを問いつめに行った。約束が違うってな。だが相手はもう腐った人間だ。笑うばかりで謝りもしなかったらしい。それどころかその場に及川さんの弟を連れてきて及川さんの目の前で弟を犯したんだ。その時及川さんは弟を必死で助けようとした。でもそれが駄目だったんだ。泣き叫ぶ及川さんをヤクザの連中は楽しんでいた。そんでヒートアップしたそいつらに及川さんの弟は殺された。」

「そんな…っ、ひどい。」




酷い…けど駿里はさっきのことが頭によぎった。及川は泣き叫びながら嫌がる駿里を見て笑っていた。もしかしたらこのことが関係しているのかもしれない。



「まぁそうだな。でも俺たちの世界ではよくある事だ。証拠隠滅さえすれば捕まることもない。及川さん達を探す人間なんてこの世にいないからな。」

「…そこから及川さんはどうしたの?」

「そこにいたヤツらを全員倒そうとしたらしいがその時及川さんは17歳だ。大人の…しかもヤクザの幹部たちに勝てるはずもなく死んだ弟の前で笑いながらレイプされ続けられたらしい。」



知らなかった。だって及川がそんな風には見えなかったから。及川は強そうに見えた。だがそんなに辛い過去を抱いていたとは…と考えると駿里はあんなことをされて起きながら心が苦しくなった。ついに黙り込んでしまった駿里を見て松下はこの先言うか迷っている様子だったが彼は言うことを決めたようで再び口を開いた。



「でも及川さんは負けなかった。奴らに気づかれないよう日々鍛錬して18になった時幹部全員殺したらしい。そこから偽りの生活をして医師免許を取ったらしいぞ。だからだろうな。及川さんは嘘をつくやつが嫌いなんだ。自分自身も約束を守る人だからな。」

「そうだね。だからあの時…。」

「ん?なんの事だ?」

「い、いやなんでもないっ!」



駿里は気を弛めてしまいあのことを言ってしまいそうになった。及川が約束を絶対に守っていたということを。危ない危ない。ここまで隠してきたのにこんなところでバレるわけにはいかない。駿里はしどろもどろになりながら誤魔化すために松下に笑ってそう言った。そんな駿里を少し不思議がった松下だったが彼はそれ以上気にすることなく話を進めた。寛也もまた、松下の話を黙って聞いていた。



「ここまででも結構えげつねぇが俺が1番心を痛めたのは及川さんが弟を愛していたってことだ。」

「…家族を超えた愛情を持ってたんだね。」

「そうだ。血も繋がっていなかったらしい。親が金目的で攫ってきたのがその弟だったんだとよ。だから及川さんは必死で守ろうとした。そしてそうしているうちにそこに愛が芽生えたんだ。そんな愛する相手を目の前で殺されて計り知れないほどの辛さだっただろうな。でも俺は同情と共にゾッとしたよ。だって及川さんがよ、あの時もし弟が生きてたらあいつらにやられたこと全部して俺が記憶を塗り替えしてやるって言ったんだから。」

「それってあいつらと一緒のことするってことじゃん…。」

「そうなんだよ。まぁ生きてたらの話だけどな。そういやその弟、お前に似てるらしいぞ。」

「え…?」



松下の言うことを聞いて駿里はなんだか全てのちらばった糸が繋がった気がした。そうか。そういうことだったのか。初めて会うのに異様に駿里に執着してくる。別に好意を持っているというわけでもなさそうだった。でも弟に似ていたと言うことを知った今全てに納得がいった。しかも及川はどうやら弟に抱いてはいけない感情を持ってしまっていたのだから余計に納得がいく。



「だから弟みたいに可愛がって貰えただろ。組長が駿里の写真を及川さんにみせた時泣き出したからなあの人。一度で良いから会わせて欲しいってな。」

「そうだったんだ。だからあんなに優しかったんだね。」



ほんっとは全然優しくなかったけどね。酷かったよ。そりゃもうそんなにやるか?ってぐらいに。死ぬかと思ったもん。言わないけどね。駿里は嘘をつきながら松下にそう微笑みながらそう言った。寛也はさっきから黙っていて何も発しない。だから駿里は嘘がバレないように必死になっていた。そんな駿里とは裏腹に松下は穏やかな表情をしていた。



「明日も及川さん来るから色々話をしてやってくれ。」

「もちろんだよ。」



勿論話す。色々聞きたいことも言いたいこともあるから。そして問いつめたいこともある。いくらなんでも酷すぎる、と。駿里は弟に似ていると言うだけでこんな目に遭った。及川はもっともっと酷い目に遭ってるかもしれないけどそれなら余計に駄目だ。弟さんは絶対にそれを望んではいないから。そうでなければ及川さんに3年間レイプされていたことを黙っているはずがない。駿里は色々考えた。明日言うべきことを。最低極まりないあのクソ男に。
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