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遅咲きの花は大輪に成る
どうしてなの…?
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「っ、どこ、行くの?」
あれから及川は本当に何もしなかった。そしてこれからも何かをする様子がなかった。そんな及川に安心したのもつかの間彼は駿里を持ち上げどこかへと歩き始めた。及川に対しての恐怖が募ってしまった今駿里は何をされるのか怖くてたまらなかった。
「あ?風呂に決まってんだろ。今日はもう終わりって言ったろ?」
そう言った及川の口調は優しかった。先程まで駿里のことを犯していた人物には見えない。まるで別人だ。優しくて逆に怖かった。そのせいで駿里は身体をガクガクと震えさせてしまう。それを抑えようとしても生理現象のために出来ない。また及川に怒られる。駿里が怖くて目をぎゅっと瞑ると及川は予想していなかった行動を取った。その及川の行動で駿里は瞑っていた目をあけた。
「どうしたんだ駿里。珍獣でも見た顔をしてよ。そんな警戒すんなって。男に二言はねぇから大丈夫だ。安心してもう寝とけ。あとは俺が全部しとくからよ。」
そう言って及川は駿里の頭を撫で続けた。その手つきがその及川の顔が優しくて駿里は涙が出そうになった。この男に安心してしまったのだ。嫌いでたまらない男に。だがそんな卑劣な男にも一つだけいい所があった。それは及川は本当に約束を守る男ということ。だから今日はきっと何もしてこない。安心しても大丈夫だ。駿里はそう思えた。だからずっと気になっていることを及川に聞くことにした。
「…りく、に、あいた、ぃっ、どこに、いる、の?」
「それは風呂に入ってからな。だがまぁ安心しろ。怪我はさせてねぇしただ部屋に隔離してるだけだからな。」
及川はそう言って駿里に優しく微笑みかけた。優しい。だがそれはどこかで何かがかけているような笑顔だった。そんな及川に駿里は風呂場まで連れていかれるとそこら中丁寧に洗われた。しかし及川は決して駿里に手は出さなかった。ただ洗うだけ。体力の限界だった駿里はそんな及川に安心してしまうといつしか眠り込んでしまっていた。
「寝たのか駿里。」
まだなにかされるかもしれない。心のどこかでそう思っていた駿里は体を強ばらせていた。だがそんな駿里の身体から力が抜けたことを確認すると及川は駿里の顔を覗き込んだ。
「可愛い寝顔だ。」
及川はそういい眠ってしまった駿里の唇を舐め深いキスをした。
「……っ…ん…………。」
眠ってしまった駿里の口から甘い声が漏れる。その声を聞いた及川はしばらくキスを辞められなくなった。舌を思いっきり吸い歯茎を舐め口内を犯す。だが駿里のあの約束をしてしまった以上これより先に進むわけにはいかない。
「チッ、生殺しじゃねぇか。」
及川はそう苛立っていたが結局駿里には手を出さなかった。自分の体の興奮を抑えるため冷水を浴びると駿里を抱きかかえて風呂場を出た。そこから寝てしまった駿里の身体を優しく拭き髪を乾かすと駿里をとりあえずソファに寝かせた。そして及川はあることを始める。
「さーて、偽装工作を始めねぇとだな。」
寝てしまった駿里にはその声が届かない。及川がこれから何をするのかも知らずに夢の中に入ってしまったのだから。そんな駿里を見ながら及川はパソコンを開き家の中を整理し始めた。全てを証拠隠滅するために。そしてそれは駿里が目覚める前には完了してしまっていた。及川の完全犯罪の成立だ。そんなこととは知らない駿里は人の声で目が覚めた。誰かの声が聞こえてくる。その声は…。
「………っ……く……。」
「…そ…………ね。」
これは…。知ってる。知らないはずがない。ずっと聞いている声。いつも聞いている声。寛也の声だ。寝ぼけていた駿里だったが寛也の声だとわかった瞬間に目が覚醒した。
「ちか、や…!」
「起きたか駿里。」
目の前に寛也がいる。やっと帰ってきてくれたんだ。駿里は嬉しくてずっと我慢していた気持ちが溢れ寛也に抱きつこうとした。だが寛也は何故かそれを止めて駿里を再びソファに寝かしつけた。
「おいまだ動くな。りくと喧嘩したんだってな。たく、危ねぇことすんじゃねぇよ。及川がいなかったらどうなってたことか。」
「…え?」
寛也は何を言ってるんだ。喧嘩?そんなことしていない。だって駿里はずっと犯されていたのだから。その間りくはずっと別室に隔離されていた。それなのに…どういうことだ。状況が掴めない。疲弊した体と起きたばかりのせいで頭が働かない。駿里が訳も分からず周りを見渡しているとそこには及川もいた。そして彼は駿里と目が合うと不敵な笑みをうかべる。駿里はここで理解した。全て及川の掌の上で転がされてしまったのだと。
「りくもりくで今興奮してっから別室にいる。松下が押えてるから興奮が治まったら仲直りしに行こうな。ほんとにちょっと耳噛まれただけで済んで良かった。犬は本気出すと俺たちよりも強いからな。まぁ何はともあれりくは怪我してないみたいだから安心しろ。お前も軽傷だ。」
どうして寛也は分からないのだろう。なんでわかってくれないのだろう。どうして及川のことを信じるの…?そこに犯人がいるのに。すぐそこに及川が酷くゲスな顔をして立っているのに。きっと今駿里の目は腫れている。それは沢山泣いたから。そして身体中も痛い。それだけじゃない。耳の傷だって見れば犬が噛んだものでは無いと分かるはず。だがそれが出来ないように及川は傷を尋常ではないほどに絆創膏とテープを貼っていたのだ。最悪なことに及川は医師免許を持っている。だから寛也は及川がした処置を信じてそのままにしておいたのだ。駿里には打つ手がなかった。ここで及川にされたと言っても信じてくれる人はいないだろうから。駿里の目に涙が溜まる。駿里はそれを零れ落とさないように必死に耐えていた。そんな駿里を見て寛也はただ単に疲れていると思ったのだろう。視線を駿里から及川に移した。
「及川、今日はありがとうな。もう部屋に戻っていいぞ。ゆっくり休んどけ。」
「いえ。当然のことをした迄です。では失礼します。駿里、しっかり休むんだぞ。」
そう軽い口調で言って及川は帰っていった。それは駿里が言わないという自信があったからであろう。相手があまりにも悪すぎた。及川のことを実際駿里は舐めていた。秘密の関係を続けることを承諾したものの寛也が帰ってくればそれは終わると思い込んでいた。心のどこかで甘えていたのだ。自分が守るとか言いながら結局守られることを期待してしまった。その結果がこれだ。及川の方が何百倍もうわてだった。駿里は自分に呆れた。その顔が寛也にはしょぼくれているように見えたらしく彼は駿里の頭を撫でてきた。
「駿里そう落ち込むな。喧嘩は誰にでもあることだ。初対面の奴が来て気が動転してたんだろ。りくもりくで駿里を守らなきゃならねぇとか色々思って誤って噛んじまったんだろうよ。」
「…………。」
ああ、ほんとに寛也は信じているんだ。及川のことを。駿里は悲しくてたまらなかった。本当のことを言えば寛也はどの道傷つく。そして松下たちにもその被害が及ぶ。もうそれなら…それならば。
「そうだね寛也。後でりくのところに行ってくる。」
「どうしたお前声枯れてんじゃねぇか。そんなに泣いたのか?」
そうだよ。沢山泣いた。沢山耐えたよ。寛也を守るためにね。でもそんなこと寛也は知らなくていいんだ。知ったら怒るでしょ?俺にそんなことした奴を生かしておかないでしょ?暴れちゃうでしょ?だから俺は黙ってる。怒らないでね。いつかこのことが全部丸裸になった時怒っちゃダメだよ。いや…もうその時は寛也とお別れしてるかもしれないね。駿里はそう頭の中で寛也に語りかけた。そして寛也を涙ながらに抱きしめた。寛也には泣き声が絶対に聞こえないように堪えながら…。
「おお、どうした駿里。やけに今日は甘えん坊じゃねぇか。」
「寂しかったんだ。でも及川さんがいてくれたから安心して過ごせたよ。」
「そうか。そりゃよかったな。俺もあいつの事は誰よりも信頼してんだ。」
やっぱりそうなんだね。きっと及川さんは演技が上手くて媚びるのが上手い。警戒心丸出しの寛也がここまでになるんだから。だったら尚更俺は…。
「うん。俺も及川のこと信頼してる。」
「暫く松下達が忙しくなるから心配してたんだがこれで大丈夫そうだ。及川にこれからもお前の事を任せられる。」
「…そうだね。」
これからも耐えるよ。寛也のために耐え続ける。だから帰ってきた時は…その時は俺をこうやって抱きしめてね。愛してるって言ってね。そうしないときっと壊れちゃうから。
「寛也。」
「どうした?」
「すき。寛也のことだいすきだよ。」
「俺もだ。愛してる。」
ああ。満たされる。解放された気分だ。頑張ったご褒美なのかな。駿里は強く寛也を抱きしめた。それに応えるように寛也も抱きしめてくれた。長い時間ずっとふたりは抱き合っていた。その頃には駿里の涙はもう止まり目が乾いていた。だから駿里はそれを見計らって寛也に声をかけようとした。だがそれよりも先に大きな音がしたせいで駿里は話すことが出来なかった。その音の主は松下だ。
「組長!!俺にりくのこと押し付けといて駿里とラブラブしないでください!!俺だってしたいんですから!」
「うるせぇな喚くな。せっかく駿里と抱き合ってたのによ。」
松下がそう大声で言いながら部屋から出てきた。もちろんその後にはりくがいた。りくは駿里のところに一直線で走っていった。りくだけは全てを知っているから。りくも駿里が心配でたまらなかった様子で駿里の顔をぺろぺろと舐めていた。
「りく…!」
無事でよかった。その思いを込めて駿里はりくを抱きしめた。その途端当たり前のように寛也の機嫌が悪くなる。それは駿里が自分との抱き合いをやめてりくに乗り換えをしたからだ。そんなふうに苛立ちを隠せていない寛也を松下は心の中で笑うとさらに寛也をイラつかせるべく駿里の近くまで歩いていった。そして…。
「なんだお前らもう仲直りしたのかよ。なら駿里次は俺とラブラブしようぜ。」
そう言って駿里を後ろから抱きしめると松下は駿里の顔を持ちキスをしようとした。それを見た寛也が止めようとしないはずもなくすぐに立ち上がり松下を殴ろうとしたがそれよりも先にりくが動いた。
「いって゛ぇ!おいりく、てめぇぶさけんなよ。」
りくは駿里を襲おうとした松下に飛びつき鳩尾の上に飛び乗った。子犬とはいえ大型犬の子犬のためもう大きい。そんなりくの攻撃に松下は床に座り込んだ。その松下を見て寛也は鼻で笑った。
「りくお前はいい子だな。なんならもっとやって良かったんだぞ。それに比べてお前はうるさい奴だな康二。騒いでないでさっさと飯を作れ。」
「分かりましたよ。仕方がないですね。作ってあげます。」
「おい。」
「すみません。調子乗りました。」
「次はねぇぞ。仕事増やすからな。」
「…はい。」
寛也と松下の2人が軽く口喧嘩をした。それを見て駿里はなんだか笑みがこぼれた。そんな駿里に寛也が声をかけた。
「どうした駿里。なんか嬉しい事でも思い出したか?」
「ううん、違うよ。ただ今が幸せだなぁって思って…。」
「そうか。なら俺がもっと幸せにしてやる。」
寛也がそういい再び抱きしめてくれた。その時駿里はある鉢が目に入った。寛也から貰ったあの花の種が…。それはまだ咲いていない。日にちは結構経っているのに芽を出さない。早く咲いて欲しいな、なんて駿里が思いながら寛也を抱きしめ返した。
あれから及川は本当に何もしなかった。そしてこれからも何かをする様子がなかった。そんな及川に安心したのもつかの間彼は駿里を持ち上げどこかへと歩き始めた。及川に対しての恐怖が募ってしまった今駿里は何をされるのか怖くてたまらなかった。
「あ?風呂に決まってんだろ。今日はもう終わりって言ったろ?」
そう言った及川の口調は優しかった。先程まで駿里のことを犯していた人物には見えない。まるで別人だ。優しくて逆に怖かった。そのせいで駿里は身体をガクガクと震えさせてしまう。それを抑えようとしても生理現象のために出来ない。また及川に怒られる。駿里が怖くて目をぎゅっと瞑ると及川は予想していなかった行動を取った。その及川の行動で駿里は瞑っていた目をあけた。
「どうしたんだ駿里。珍獣でも見た顔をしてよ。そんな警戒すんなって。男に二言はねぇから大丈夫だ。安心してもう寝とけ。あとは俺が全部しとくからよ。」
そう言って及川は駿里の頭を撫で続けた。その手つきがその及川の顔が優しくて駿里は涙が出そうになった。この男に安心してしまったのだ。嫌いでたまらない男に。だがそんな卑劣な男にも一つだけいい所があった。それは及川は本当に約束を守る男ということ。だから今日はきっと何もしてこない。安心しても大丈夫だ。駿里はそう思えた。だからずっと気になっていることを及川に聞くことにした。
「…りく、に、あいた、ぃっ、どこに、いる、の?」
「それは風呂に入ってからな。だがまぁ安心しろ。怪我はさせてねぇしただ部屋に隔離してるだけだからな。」
及川はそう言って駿里に優しく微笑みかけた。優しい。だがそれはどこかで何かがかけているような笑顔だった。そんな及川に駿里は風呂場まで連れていかれるとそこら中丁寧に洗われた。しかし及川は決して駿里に手は出さなかった。ただ洗うだけ。体力の限界だった駿里はそんな及川に安心してしまうといつしか眠り込んでしまっていた。
「寝たのか駿里。」
まだなにかされるかもしれない。心のどこかでそう思っていた駿里は体を強ばらせていた。だがそんな駿里の身体から力が抜けたことを確認すると及川は駿里の顔を覗き込んだ。
「可愛い寝顔だ。」
及川はそういい眠ってしまった駿里の唇を舐め深いキスをした。
「……っ…ん…………。」
眠ってしまった駿里の口から甘い声が漏れる。その声を聞いた及川はしばらくキスを辞められなくなった。舌を思いっきり吸い歯茎を舐め口内を犯す。だが駿里のあの約束をしてしまった以上これより先に進むわけにはいかない。
「チッ、生殺しじゃねぇか。」
及川はそう苛立っていたが結局駿里には手を出さなかった。自分の体の興奮を抑えるため冷水を浴びると駿里を抱きかかえて風呂場を出た。そこから寝てしまった駿里の身体を優しく拭き髪を乾かすと駿里をとりあえずソファに寝かせた。そして及川はあることを始める。
「さーて、偽装工作を始めねぇとだな。」
寝てしまった駿里にはその声が届かない。及川がこれから何をするのかも知らずに夢の中に入ってしまったのだから。そんな駿里を見ながら及川はパソコンを開き家の中を整理し始めた。全てを証拠隠滅するために。そしてそれは駿里が目覚める前には完了してしまっていた。及川の完全犯罪の成立だ。そんなこととは知らない駿里は人の声で目が覚めた。誰かの声が聞こえてくる。その声は…。
「………っ……く……。」
「…そ…………ね。」
これは…。知ってる。知らないはずがない。ずっと聞いている声。いつも聞いている声。寛也の声だ。寝ぼけていた駿里だったが寛也の声だとわかった瞬間に目が覚醒した。
「ちか、や…!」
「起きたか駿里。」
目の前に寛也がいる。やっと帰ってきてくれたんだ。駿里は嬉しくてずっと我慢していた気持ちが溢れ寛也に抱きつこうとした。だが寛也は何故かそれを止めて駿里を再びソファに寝かしつけた。
「おいまだ動くな。りくと喧嘩したんだってな。たく、危ねぇことすんじゃねぇよ。及川がいなかったらどうなってたことか。」
「…え?」
寛也は何を言ってるんだ。喧嘩?そんなことしていない。だって駿里はずっと犯されていたのだから。その間りくはずっと別室に隔離されていた。それなのに…どういうことだ。状況が掴めない。疲弊した体と起きたばかりのせいで頭が働かない。駿里が訳も分からず周りを見渡しているとそこには及川もいた。そして彼は駿里と目が合うと不敵な笑みをうかべる。駿里はここで理解した。全て及川の掌の上で転がされてしまったのだと。
「りくもりくで今興奮してっから別室にいる。松下が押えてるから興奮が治まったら仲直りしに行こうな。ほんとにちょっと耳噛まれただけで済んで良かった。犬は本気出すと俺たちよりも強いからな。まぁ何はともあれりくは怪我してないみたいだから安心しろ。お前も軽傷だ。」
どうして寛也は分からないのだろう。なんでわかってくれないのだろう。どうして及川のことを信じるの…?そこに犯人がいるのに。すぐそこに及川が酷くゲスな顔をして立っているのに。きっと今駿里の目は腫れている。それは沢山泣いたから。そして身体中も痛い。それだけじゃない。耳の傷だって見れば犬が噛んだものでは無いと分かるはず。だがそれが出来ないように及川は傷を尋常ではないほどに絆創膏とテープを貼っていたのだ。最悪なことに及川は医師免許を持っている。だから寛也は及川がした処置を信じてそのままにしておいたのだ。駿里には打つ手がなかった。ここで及川にされたと言っても信じてくれる人はいないだろうから。駿里の目に涙が溜まる。駿里はそれを零れ落とさないように必死に耐えていた。そんな駿里を見て寛也はただ単に疲れていると思ったのだろう。視線を駿里から及川に移した。
「及川、今日はありがとうな。もう部屋に戻っていいぞ。ゆっくり休んどけ。」
「いえ。当然のことをした迄です。では失礼します。駿里、しっかり休むんだぞ。」
そう軽い口調で言って及川は帰っていった。それは駿里が言わないという自信があったからであろう。相手があまりにも悪すぎた。及川のことを実際駿里は舐めていた。秘密の関係を続けることを承諾したものの寛也が帰ってくればそれは終わると思い込んでいた。心のどこかで甘えていたのだ。自分が守るとか言いながら結局守られることを期待してしまった。その結果がこれだ。及川の方が何百倍もうわてだった。駿里は自分に呆れた。その顔が寛也にはしょぼくれているように見えたらしく彼は駿里の頭を撫でてきた。
「駿里そう落ち込むな。喧嘩は誰にでもあることだ。初対面の奴が来て気が動転してたんだろ。りくもりくで駿里を守らなきゃならねぇとか色々思って誤って噛んじまったんだろうよ。」
「…………。」
ああ、ほんとに寛也は信じているんだ。及川のことを。駿里は悲しくてたまらなかった。本当のことを言えば寛也はどの道傷つく。そして松下たちにもその被害が及ぶ。もうそれなら…それならば。
「そうだね寛也。後でりくのところに行ってくる。」
「どうしたお前声枯れてんじゃねぇか。そんなに泣いたのか?」
そうだよ。沢山泣いた。沢山耐えたよ。寛也を守るためにね。でもそんなこと寛也は知らなくていいんだ。知ったら怒るでしょ?俺にそんなことした奴を生かしておかないでしょ?暴れちゃうでしょ?だから俺は黙ってる。怒らないでね。いつかこのことが全部丸裸になった時怒っちゃダメだよ。いや…もうその時は寛也とお別れしてるかもしれないね。駿里はそう頭の中で寛也に語りかけた。そして寛也を涙ながらに抱きしめた。寛也には泣き声が絶対に聞こえないように堪えながら…。
「おお、どうした駿里。やけに今日は甘えん坊じゃねぇか。」
「寂しかったんだ。でも及川さんがいてくれたから安心して過ごせたよ。」
「そうか。そりゃよかったな。俺もあいつの事は誰よりも信頼してんだ。」
やっぱりそうなんだね。きっと及川さんは演技が上手くて媚びるのが上手い。警戒心丸出しの寛也がここまでになるんだから。だったら尚更俺は…。
「うん。俺も及川のこと信頼してる。」
「暫く松下達が忙しくなるから心配してたんだがこれで大丈夫そうだ。及川にこれからもお前の事を任せられる。」
「…そうだね。」
これからも耐えるよ。寛也のために耐え続ける。だから帰ってきた時は…その時は俺をこうやって抱きしめてね。愛してるって言ってね。そうしないときっと壊れちゃうから。
「寛也。」
「どうした?」
「すき。寛也のことだいすきだよ。」
「俺もだ。愛してる。」
ああ。満たされる。解放された気分だ。頑張ったご褒美なのかな。駿里は強く寛也を抱きしめた。それに応えるように寛也も抱きしめてくれた。長い時間ずっとふたりは抱き合っていた。その頃には駿里の涙はもう止まり目が乾いていた。だから駿里はそれを見計らって寛也に声をかけようとした。だがそれよりも先に大きな音がしたせいで駿里は話すことが出来なかった。その音の主は松下だ。
「組長!!俺にりくのこと押し付けといて駿里とラブラブしないでください!!俺だってしたいんですから!」
「うるせぇな喚くな。せっかく駿里と抱き合ってたのによ。」
松下がそう大声で言いながら部屋から出てきた。もちろんその後にはりくがいた。りくは駿里のところに一直線で走っていった。りくだけは全てを知っているから。りくも駿里が心配でたまらなかった様子で駿里の顔をぺろぺろと舐めていた。
「りく…!」
無事でよかった。その思いを込めて駿里はりくを抱きしめた。その途端当たり前のように寛也の機嫌が悪くなる。それは駿里が自分との抱き合いをやめてりくに乗り換えをしたからだ。そんなふうに苛立ちを隠せていない寛也を松下は心の中で笑うとさらに寛也をイラつかせるべく駿里の近くまで歩いていった。そして…。
「なんだお前らもう仲直りしたのかよ。なら駿里次は俺とラブラブしようぜ。」
そう言って駿里を後ろから抱きしめると松下は駿里の顔を持ちキスをしようとした。それを見た寛也が止めようとしないはずもなくすぐに立ち上がり松下を殴ろうとしたがそれよりも先にりくが動いた。
「いって゛ぇ!おいりく、てめぇぶさけんなよ。」
りくは駿里を襲おうとした松下に飛びつき鳩尾の上に飛び乗った。子犬とはいえ大型犬の子犬のためもう大きい。そんなりくの攻撃に松下は床に座り込んだ。その松下を見て寛也は鼻で笑った。
「りくお前はいい子だな。なんならもっとやって良かったんだぞ。それに比べてお前はうるさい奴だな康二。騒いでないでさっさと飯を作れ。」
「分かりましたよ。仕方がないですね。作ってあげます。」
「おい。」
「すみません。調子乗りました。」
「次はねぇぞ。仕事増やすからな。」
「…はい。」
寛也と松下の2人が軽く口喧嘩をした。それを見て駿里はなんだか笑みがこぼれた。そんな駿里に寛也が声をかけた。
「どうした駿里。なんか嬉しい事でも思い出したか?」
「ううん、違うよ。ただ今が幸せだなぁって思って…。」
「そうか。なら俺がもっと幸せにしてやる。」
寛也がそういい再び抱きしめてくれた。その時駿里はある鉢が目に入った。寛也から貰ったあの花の種が…。それはまだ咲いていない。日にちは結構経っているのに芽を出さない。早く咲いて欲しいな、なんて駿里が思いながら寛也を抱きしめ返した。
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