極道の密にされる健気少年

安達

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遅咲きの花は大輪に成る

花の種

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「…………ん……。」



駿里が目を覚ますと相変わらず体は痛いし喉も痛んでいたけれど隣に寛也がいた。それは本当に珍しいことだ。大体仕事かリビングにいることが多い。なのに今日は隣に寝ていた。それが駿里にとってどれだけ幸せなことか…。しかも今回は寛也が寝ていたのだ。それも駿里にとっては嬉しかった。いつも忙しくて中々寝ない。いや寝れないと言った方が正しいかもしれない。そんな事ばかり続いていたのに今日は何を気にすることも無くぐっすりと眠っている。そんな寛也の貴重な寝顔を駿里がしばらくの間眺めているとその視線に気づいたのか寛也が目を覚ました。



「おはよう寛也。」



寛也は嬉しそうにそういった駿里の腕を引き抱き寄せるとそのまま強く抱き締めた。だが寛也はまだ眠いのだろう。再び目を閉じて駿里を抱きしめながら頭を撫でてきた。まるで寝かしつけるように。



「……まだ寝とけ。」

「やだ。」

「あ?」

「寛也のプレゼントがみたい。」

「プレゼント…?ああ、あれか。そういやまだ開けてなかったな。仕方ねぇ。起きるか。」



まだまだ眠そうな寛也だったが駿里があまりにも楽しみにしてくれているようだったので仕方なくではあったが起き上がった。そして寛也よりも一足先にリビングに走っていった駿里の後を追って寛也もそこへ行くと駿里は既に箱を嬉しそうに箱を持っていた。




「開けてもいい?」

「当然だ。開けてみろ。」



寛也の許しを得た駿里は直ぐに箱を開けた。その中身を見て駿里は目を輝かせた。なぜならそれはずっと駿里が欲しいと言っていたブランド物の靴だったから。



「…かっこいい。」

「良かった。気に入ってくれるか不安だったんだ。」

「一生大切にする。」



駿里はそう言って寛也から貰った靴を抱きしめた。その時何かが箱から床に落ちてしまった。駿里はそれを手に取ったが何か分からなかったので首を傾げた。



「これは…?」

「ああ、それは買った時に店員がくれたんだ。良かったら育ててくださいねってな。袋を開けてみろ。」



寛也にそう言われて駿里は彼の言うとおりに袋を開けてみた。するとそこには花の種が入っていた。駿里は花の種を目にしたことがこの人生でこれまでなかったこともあり感動した。そしてそれと同時に思った。その花を育てたい…と。



「俺育てたい…っ!」

「好きにしろ。でもやるなら最後までやれよ。」

「絶対に綺麗な花を咲かせてみせる!」

「はは、いい心構えだ。偉いぞ駿里。鉢とかは俺が全部揃えてやる。他に必要なものがあれば言え。」

「ありがとう寛也。」



寛也はそういった駿里の頭を優しく撫でるとなにやら入れ物を持ってきた。そしてそれを駿里に渡した。だが駿里はその意味を理解していなさそうなので寛也はそれを教えようと口を開いた。



「鉢が届くまでこれを代用しとけ。届いたらこれと入れ替えような。」

「さっすが寛也!ありがとう!」



駿里はそう嬉しそうに言うと寛也から代用のものを受け取り早速土を軽く入れて種を植えた。どれもこれも初めてのことばかりだけれどいい花が咲くことを想像したら楽しみで仕方が無くなった。



「お前そんなに花が好きだったのか?」

「うん。花好きなんだ。見てると癒されるから。」

「そうか。なら俺にとってのお前みたいな存在だな。」



寛也がそう言うと駿里の顔が真っ赤に染った。いつも思う。寛也は息をするように嬉しいことを言ってくれる。駿里はそれが嬉しいけれども恥ずかしくなる。照れてしまうのだ。実は寛也はそれが面白くて愛を連想する言葉を言っている部分もある。



「花が咲くのが楽しみだな。」

「そうだね。」

「とりあえず飯にしよう。腹減ったろ?」



寛也にそう言われて駿里はハッとした。花に夢中になっていたがそういえば起きてから何も食べていなかった。



「今日は俺が作る。」

「なら俺はその言葉に甘えさせてもらおう。」

「楽しみにしてて。」


駿里はそう寛也に言い残すとキッチンへ行き朝食の準備を始めた。ここへ来てから料理は何度もしている。今や得意分野だ。だから朝飯を作ることなんて駿里にとっては歩くことと同じぐらい簡単なことになったのだ。それに自分の作ったものを寛也に食べてもらえることが何よりも嬉しくて手が捗るのだ。そんな調子で駿里が楽しそうに作っている姿を寛也はソファからずっと眺めていた。なんとも愛らしいのだろうなんて思いながら。そして寛也がそんなことをしているとどうやら駿里が朝食を作り終えたようでキッチンから出てきた。



「寛也!出来たよ!」

「お、美味そうだ。お前の料理は格別だな。」

「へへ、味も格別だよ!」

「そのようだな。」



寛也は駿里の作ったフレンチトーストを食べてさぞ美味しそうに微笑んだ。あまり感情を表に出すほうでは無い寛也が幸せそうな顔をするので駿里は思わずつられて笑った。



「お前も食え。」


いつまで経っても食べようとせず自分のことを見てくる駿里に寛也は腕を引いてそう言った。そんなこんなで朝食を済ませると寛也は軽く仕事をするためにパソコンを開いた。本当はかまって欲しいし寂しかったがこの前の事件があったので駿里はソファで大人しく寛也の仕事が終わるのを待っていた。



「駿里。こっちに来い。」



あまりにも暇そうにしていた駿里に寛也がそう声をかけた。それが相当嬉しかったのだろう。駿里は飛んで寛也の所まで行った。そんな駿里を寛也は受け止めると自分の膝の上に乗せた。



「お前こういうの好きだろ?」



寛也がそう言ってパソコンの画面を駿里に見せてきた。なんだろうと思い駿里がその画面の見るとそこには動物の画像が沢山あった。寛也の言う通り駿里は人一倍動物が好きだ。だから思わずテンションが上がってしまった。



「可愛い…。癒されるなぁ。」

「こんなのどうだ?」

「可愛い…っ!」



そう言って寛也が大型犬の写真を見せてきた。この画像はダルメシアンだ。可愛いに決まっている。駿里は寛也に見せられた画像を見ながら幸せそうに微笑んでいた。だが途中でいつもの寛也では無いことに疑問を抱いた。いつもなら仕事を終わらせるまで絶対に他のことはしない。ましてや犬の画像を駿里に見せるなんて駿里からしたら地球がひっくり返るほどに珍しいことだ。



「これも可愛いな。」

「可愛いけど…寛也、急にどうしたの?」

「なにがだ?」

「急っていうか…なんで犬の写真を見せてくれるの?」



駿里がそう言うと寛也はさすがだと言うように微笑んだ。駿里は鈍そうで人の思考を読む力が鋭い。本当はサプライズにする予定だったがそれはもう無理そうなので正直に言うことにした。



「新しい家族を迎え入れたいと思ってる。」

「え…、それって…。」

「ああ、そうだ。犬と暮らさないか?お前が留守番の間寂しい思いをさせてるからな。」



そう言うと寛也は駿里の頭を撫でた。寛也はこのことをずっと検討していた。寛也の仕事柄、駿里にはすごく窮屈な思いをさせてしまっている。だからせめてもの暇潰しにでもなればと松下達を家に向かわせている。駿里を1人にしないために。だがそれでも最近は忙しくてそれすらも出来なくなってきている。要は駿里が1人になることが増えてきているのだ。その間寛也は駿里のことが気になり仕事に集中ができない。心配過ぎて昼も忙しい時でさえ家に戻っている。そして今もその状況だ。本来なら事務所に行かなければならないが駿里を1人にしたくないがために自宅ワークをしているのだ。しかしそれも限度がある。いつもいつもできる訳では無い。そうなれば駿里を守ってくれ癒してくれる。そしてその犬も駿里に幸せにしてもらえる。こんないいことは無いと寛也はそういったのだ。



「お前がいいなら明日にでも迎えようと思っている。どうだ?」

「いいに決まってるっ、ありがとう寛也。」

「お前のためならなんでもするさ。これから犬のことで困ったことがあればなんでも言うんだぞ。」



そういった寛也に駿里はありがとうの気持ちを込めて抱きついた。駿里にとって犬と暮らすことはずっと夢だった。だがそれは現実になることは絶対にないと思っていた。だからこそ今回寛也がそう言ってくれたのが嬉しくてたまらなかった。しかもそれが明日には叶う。駿里は待ち遠しくて夜あまり寝ることができなかったようで朝目覚めた時少し眠そうにしていた。そんな駿里に寛也は優しく声をかける。



「大丈夫か?駿里。もう少し寝てるか?」

「…寝ない。会いたい。」

「そうか。なら運んでやる。」



寛也はそう言うと駿里を優しく抱きかかえてリビングまで運んだ。その間駿里は夢と現実を行き来しているようで何度も目を閉じては開けるを繰り返していた。犬に会いたいけど眠たい気持ちが天秤にかかっているのだろう。だが駿里のその天秤はリビングに着いた途端一瞬にして犬が勝つことになる。



「着いたぞ駿里。目を開けてみろ。」

「……っ!!!」
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